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04 と、言うことで。

 ミスコンの候補は一年生から選ばれ、本人の意志はほぼ関係ない。確かに、そんなものに配慮してたら候補者なんていないだろう。

 そして確信した。薄々気付いてはいたが、つまりオレたちは文化祭に他校の女子を呼ぶための犠牲者だと。

 なのに今回、オレには選択することが許された。宗広先輩が通例を曲げて、生徒会に意見してくれたからだ。

「デメリットがない訳じゃないから、心配も無理はないんだ。毎年、優勝者にはストーカー被害が出るしねえ」

 着物の男、梨森なしもりは何気に言う。

 よくよく聞くと生徒会長の肩書きを持っていた彼は、しかし聞き逃せない発言をした。

「今、凄いさらっと言いましたけど結構な被害ですよね。それ、犯罪。犯罪です」

「大丈夫。君達の安全を守るため、生徒会は努力を惜しみません」

 生徒会は手段を選びません。そうセリフを変えるべきだと、副会長の笑顔に思う。

 槻島が横から、補足のように説明を加えた。

「倉持が宗広さんと同室なのも、それが理由だよ。一年同士だと、上級生から無理言われた時に守り切れないだろ?」

 だから候補者は、できるだけ恐そうな三年と同室にすることになっている。そう言われて、頭に今朝のことが思い浮かんだ。

「あ、守護神システムは広く普及しているものでしたか」

「何だそれは」

 口に運びかけたお茶を止め、宗広先輩が眉をひそめた。恐過ぎる。シカトしよう。

「生徒会としてはやって欲しいけど、確かに宗広さんの言う通り倉持くんには負担が大きいかも知れない」

「腕のことですか?」

 確かめると、生徒会長はほがらかな笑みを表情にのせた。賢いねえ、と。まるで小さな子供をほめるかのように。

「それも含めて。急な転入だし、クラスに馴染むのも苦労するだろう?」

「いえ、しないと思います。おかげ様で」

 即答に、意外そうなのは宗広先輩と生徒会長だけだった。副会長と槻島寮長には、予想できたことらしい。

 実際、条件は悪かった。

 時期は長期休暇の直前だし、大きなケガもしている。そしてオレは、周囲が知りたがるであろうその両方の理由を言いたくない。

 クラスのヤツらと距離ができて当然だと、自分でさえ思っていた。

 それがどうだ。この、限りないゼロ距離感。

 完全なる候補者効果だ。そうじゃなかったら、逆に意味が解らん。

「と、言うことで」

 空になった食器をトレーに収め、箸を置く。

 それから、両手を合わせる代わりに軽く頭を下げて口を開く。

「オレ、やります。ごちそう様でした」

 言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、宗広先輩が爆発した。

「馬鹿かお前は!」

「嬉しいな。どうも有難う」

「やあ、よかった。じゃ、旭。あとは任せた」

 喜ぶ副会長の隣で、梨森会長が立ち上がる。帯に挟んだ扇子を取り出し、音を立てて開くとぱたぱた扇いでトレー片手に去って行った。

 高笑いでも聞こえそうな満足げな後ろ姿を見送っていると、横から伸びてきた手に首根っこをつかまれる。そのまま荒っぽく引き寄せられて、オレは相手の――つまり宗広先輩の胸に頭をぶつけることになった。

「変態が」

 吐き捨てるような声に、え、オレ? と慌てて見上げる。が、その恐い顔はこちらには向いてない。視線を追うと、さっきまで自分の体があった場所を抱き締めるような格好で腕が空振りしているのを目撃した。

 向かい側から、テーブルに膝をのせてまで。

「……寮長」

「ええー、違うって。よく決心したって褒めてやろうと思っただけだって!」

「嘘だ。信じるな。こいつは本物の変態だ」

「気を付けてね」

 副会長まで念を押す。

「マジすか。恐過ぎます。もうちょっと距離取ってもらっていいっすか」

 寮長は、情けないのか泣きたいのか判断できない悲しげな顔でオレを見つめた。

 登校初日の昼休みは、そんなふうに終了した。

 ……と、思っていたら放課後になって校内新聞の号外が発行された。

 転入生、倉持真樹ミスコン出場決定! の見出しと、写真付き。

 まあ、校内の食堂で話してたからな。誰が聞いててもおかしくない。だが新聞部、どうしても確かめたいことがある。

 何で、オレの写真持ってんだよ。

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