34 ミスのつき。
て言うかな。
オレはどうも旭さんに似てるみたいだと、梨森会長が前に言っていたことを思い出す。
ついうっかりそれをもらすと、副会長は全身を震わせてオレの肩に顔を伏せた。抱き付くみたいなその状態で、絶え絶えの声で言う。
「だって、君、そんなの……凄いよ。もう、ややこし過ぎる……!」
笑ってやがんな、これは。
まあ、気持ちは解る。声も出ないくらいに笑っているのが、本人の片割れだって言うのが納得行かないが。
あの生徒会長と言うこと一緒で、しかも副会長にどうやら似ている。……どんだけ苦労すればいいんだ、オレは。
笑いの収まらない副会長の手を引いて戻ると、机を端に寄せた教室に人だかりができていた。その真ん中にいるのは、石巌川だ。
「あ。倉持くん、お疲れさまー」
「いや、疲れてるのはお前だ。石巌川」
人が集まるのも頷ける。
オレはもう制服に着替えていたが、石巌川はフリルとレースで改造された最強メイド服のままだ。郡司さんと一緒に、優勝パレード的なあれで校内を回っているらしい。
人気商売か。大変だな、ミスのつき。
ねぎらいの意味で口にから揚げを突っ込むと、柔道部秘伝の味に石巌川の顔がパッと輝いた。やはり。男子たるもの、この味には逆らえまい。
石巌川はもぐもぐと動く口に手を当てて、オレの背後に会釈した。やっと副会長の存在に気付いたらしい。
はっとする。
よく考えたら、去年と今年のミスのつきがそろってるじゃねーか。
しかも腹黒クイーンは、くしくも執事の格好をしている。副会長をぐいぐい押して最強メイドの横に並べると、そんな趣味のないオレでさえよく解らない感動を覚えた。
「うわー、すげえ。超ぴったり。レベル高えな、執事とメイド。オレが大富豪だったら、絶対雇いますよ二人共」
「倉持君、その発言ちょっと槻島っぽいから気を付けて」
まじすか。
きれいな笑顔で、ショッキングな忠告だ。これ以上、オレのややこしい人格を増やさないで欲しい。
「写真! 誰か写真撮ってー!」
人格崩壊は恐ろしいが、おもしろさに逆らえずオレが叫ぶとカメラを持ったヤツがそれに応じた。くそー。携帯を持ってれば待ち受けにするな、これ。
「ミスのつき半端ないっすね。並べると見応えが違うって言うか。……あ、そっか。おととし優勝した人もいるんですよね、三年に」
それは見たい。ぜひ三人並べて激写したい。
ふくらむオレの好奇心に、「いない」と言うのは郡司さんだ。
「もういない。香川は、転校したから」
三人並べたら、絶対おもしろかったのに。
残念だ、と。
二年前の優勝者がすでに在校していないと教えられ、オレはそんなふうに少しがっかりしただけだった。
だけど、石巌川は違う。
郡司さんを見上げる顔をふと曇らせて、その制服をぎゅっとつかんだ。
そうされて、虚をつかれたような、おどろいたような顔をした。息さえ止めていたかも知れない。やがて、長いまばたきを一度。
そうして郡司さんは、穏やかに息を吐いた。それから自分をつかまえる手にそっと触れ、少しだけ、苦そうにほほ笑んで見せる。
「ごめん。大丈夫だから」
――不思議、だと思う。
普通なら、二つも学年が上の先輩とこんなふうには親しくならない。たまたま候補になって、たまたま同室になった。それだけなのに、石巌川は郡司さんが痛いと思うことまで解るみたいだ。
不思議な気がする。ただ一緒にいるだけで、心まで近くなるものなのだろうかと。
人間は、ジュースとから揚げで酔えるらしい。へべれけに騒ぐヤツらがいっぱいで、誰もオレたちを気にしなかった。その、会話も。
そのことに、ほっとした。
フリーマーケットはクラス委員の金田が高笑いと共に黒字を宣言し、商品もほとんど残っていない。折り紙で作った簡単な飾りをごみ箱に突っ込んだあとは、完全な宴会だ。
持ち寄られた料理やお菓子はどれもおいしく、ノーマークだった剣道部の豚汁は郡司さんのおすすめだ。うめえ。
なぜか服を脱ぎ、教壇で一発芸を始めた生徒にヤジが飛ぶ。一緒になって騒ぎながらも、胸には薄く失望が広がる。
楽しいのにどこか寂しいって思うのは、祭りのあとってやつだからかな。