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31 まさかこれ。

 倉庫イベントなのに全然エロい展開じゃないって、どう言うことだ。槻島寮長は、そんな意味の解らない不満をもらした。

 その寮長と今なら視線で誰かの胃に穴くらいは開けられそうな旭副会長にあとを任せて、とりあえずオレは走った。被服室に。

「馬鹿かお前は!」

 ミスコン後半戦に、これから出る。

 そう主張したオレを、宗広先輩は迷いなく決め付けて大きな声で言った。

 いや、だってね。間に合いそうなんだよ。救出早くて。今はまだ一時半を少し過ぎたくらいで、ミスコンも始まったばかりだ。

 間に合うなら、何とか出場するのが道理かと思う。オレなんかに期待するバカも、結構いたりするんだから。

 ただ、さすがに被服室のドアを開けるのは緊張した。時間的にまだ出場可能だと解って、まず心配したのは野谷のことだ。

 ミスコンだから、それらしく飾り付けないと意味がない。衣装をダメにした上に、助けて欲しいと頼まなくてはいけなかった。

「野谷ー……? 忙しいとこ悪いんだけどさ」

 そっと被服室の引き戸を開けて、恐る恐る中を窺う。中腰になりながら隠れるように顔だけで覗いたが、意味はなかった。中にいた服飾部員は、全員がこちらに注目した。

 無理もない。カツラも衣装も、汚れでぼろぼろ。何ごとかとおどろいたはずだ。

 そんな姿で現れたオレに、しかし野谷は怒鳴り声の一つも浴びせようとはしなかった。あの、野谷が。

 理由があった。

 野谷は携帯を耳に当てた格好でチラリとこっちに視線を寄越すと、電話の相手に了承を伝えて通話を終える。それからオレのほうを向き、「金田ってやつから、今聞いた」と、切ったばかりの携帯を振った。

 うわああ! 金田!

 オレを見失った責任を感じてるとしても、根回しがよ過ぎる! さすが有能! さすが悪徳マネージャー!

 少しあとに氷を持って現れた金田を、オレはそんなふうにほめちぎった。

 しかし彼は、ちょっと困った顔をする。

「そのくらいはするよ。おれがもっと冷静だったら、ずっと早く見つけられたんだし」

 そうしたら、ミスコンにも間に合ったかも知れない。

 そんなふうに言って、どこかでもらってきてくれた氷をオレに渡した。頬を冷やしながら聞いてみれば、別に責任を感じるべき話でもない。

 地面には、落ちて潰れたオカ研たこ焼きとフリマのチラシが残されていた。白煙立ちのぼる騒ぎの中でオレが消え、金田はとりあえず一人で探そうとした。だが、すぐに考え直す。何かあったのなら、時間が惜しい。生徒会に相談し、捜索に当たった。

「いい判断だったと俺も思うが」

 宗広先輩が言うと、困ったみたいな顔のままで金田が首を振る。

「結局、気が付くの遅かったんですよ。倉持、チラシばらまきながらさらわれてたのに」

「何だそれ」

 本人のオレが知らないぞ、それ。

 チラシは、金田がオレに預けて行ったものだ。ホルダーの中に放り込んであったそれが、勝手に落ちていたらしい。連れ去り現場からグラウンドの隅まで道案内するそれに、気付くのが遅くなったと金田は謝っている。

 だけど、それがオレに関係あると気付くことができたのは金田だけだ。そしてちゃんと、気付いてくれた。謝るところじゃない。

「一瞬、思ったけど。倉持が大笑いするの倉庫の外で聞いて、別に心配することなかったかなって思ったけど。やっぱり、もっと早く見つけたほうがよかったよ」

 ああ、あれ。聞いてたか。

 オレと金田がそれぞれ複雑な笑みを浮かべていると、席を外していた野谷が戻った。

「これ、ファッションショーに出せなかったやつ」

 似合うモデルがいなくてボツった、と。

 そんなことを言いながら、抱えてきたのは白いドレスだ。

 肩と背中を出すデザインで、ウエスト部分はかなり細い。短いスカートの外側を薄い布が足元まで覆っていたが、布自体が透けていて正面にスリットがあるので重たい印象にはならなかった。

 透けた薄布には、小さなパールが無数に縫い付けられている。そろいの布で作ったベールは、花を模した髪飾りで頭の後ろを包むように固定するデザインだ。

 ……なあ、野谷。

「まさかこれ、ウェ――」

 ――ディングドレスじゃねえだろうな。

 そう聞こうとしたオレは、目の前の光景におののいた。

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