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29 おまえのせいで。

 無駄なことして、疲れるのは嫌だなあ。このあと、ミスコンあるし。

 そんなことを思い、はっとした。

「今、何時か解ります?」

「んー、一時すぎ? なに、ミスコンの時間? 気にしてんの」

「まあ、一応」

 何しろこの、カツラの巻き髪がくるくると踊るオレの肩には、クラスの期待と恐らく柔道部の組織票。そして野谷の呪いが掛かっている。おいそれと忘れられるものではない。

 跳び箱に腰掛けて足をぶらぶらさせながら頷くオレに、峰岸は「ふーん」と呟いた。

 大しておもしろくもなさそうな顔できょろきょろ辺りを見回すと、まず陸上で使うハードルを蹴り倒した。空気の抜けたサッカーボールを踏み付けて、立て掛けられた運動マットを邪魔そうにどける。

 汚れたマットは重たげに倒れて分厚く積もった床のほこりを舞い上げたが、本人は気にもしていない。がたがた荒らし回る倉庫の中で、峰岸は何かを見付けたらしい。

「あったあった」

 満足そうに言って、物陰から引っ張り出したのはライン引きだ。白い粉でグラウンドに線を引く、車輪の付いたあれ。

 そんなものをどうするのか。疑問が頭に浮かんだ時には、結構重さのありそうなそれがオレに向かって飛んでいた。気軽そうな感じで、ぽいっと峰岸が投げ付けたからだ。

「うわっ」

 反射的に身がすくむ。跳び箱からずり落ちそうになりながら、頭をかばった。右手に硬い衝撃があり、それは次に膝に当たった。最後に床で、ガシャンと金属っぽい音を立てる。

「あはは、真っ白」

 笑う峰岸の言う通り、ライン引きからこぼれた粉でオレは体中が真っ白だ。うわ、絶対まずい。スゲー怒られる。黒をベースにした野谷の衣装に、これは致命的だ。

「それじゃムリだろ? ミスコン、諦めてくれたかなあ」

「え。もしかして、それ目的の拉致っすか」

 痛みを紛らわそうとして、ぶんぶん振っていた右手を止める。峰岸がにやつき、ぽかんとしたオレの顔をおもしろそうに見た。

「違うよ? クラモチくんが嫌がりそうなら、なんでもよかったからさ。そっちはついで」

「ええー……、ついでって何すか。嫌がらせで拉致監禁って、思い切りましたね。こんなことして、学校に知れたら……」

 立場は極めて悪くなる。そう続けようとして、オレは首をかしげた。あれ? この人、おかしくないか?

 峰岸と初めて会ったのは、石巌川と一緒に恐喝された時だ。あれが寮監の相沢によって学校に報告され、ほかの二人と一緒に処分を受けた。そのはずだ。

 もしオレなら、大人しくしてる。だってまだ、あれから二週間経ってない。今問題を起こしたら、さらに処分を受けるのは確実だ。

 峰岸のたちの悪さは、ためらいのない暴力と狡猾さ。考える頭はあるだろう。このくらいは解るはずだ。――じゃあ、何でだ?

 別の種類の不審さが芽生えて、改めて相手の様子を観察する。

 着ているのは私服。ウエスト辺りがだらしないジーンズに、ゴツい革靴。黒いタンクトップに派手なシャツを羽織って、手にはシルバーアクセがじゃっらじゃら。柄が悪い。しかも髪は解りやすく、金髪になっていた。

 これは、まさか。

 恐る恐る確かめる。

「……もしかして、退学とかになったりしてます?」

「なんだよ。今ごろ聞く? あれくらいで停学とか言うからさあ、頭きて。自分から辞めてやったよ」

 うわあ、そのパターンか。

 思ったよりバカでびっくりしたが、だったら学校がどうとか関係ないな。オレ、今度こそ無事じゃ済まないかも知んない。

 色んな意味で頭を抱えていると、峰岸が愉快そうに笑い声を立てた。

「まだ早い。もっとひどい事してやるからさ。全部めちゃくちゃにしてやる。どこへ逃げても追っかけて、一秒も忘れらんないようにしてやるよ。後悔すんのは、それからだろ」

「へえ……。だけどオレ、何かしましたっけ。そこまでされなきゃいけないようなこと」

 何かもう、疲れた。左右の足を重ねて組んで、膝の上に頬杖をつく。その格好で尋ねるオレを、峰岸は鼻で笑った。

「したねえ。おまえさえいなきゃ、俺はまだ高校生やってたし」

「退学したのは自分でしょ?」

「おまえのせいだろ。俺のジャマしといてさあ、なに普通にしてんだよ。気に入らねえんだよ、おまえ。二度と笑えないように、何もかも全部ぐちゃぐちゃにしてやる」

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