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21 肖像権について。

「お前らなあ……! 肖像権についてウィキペディアで勉強し直してこい!」

 この、なかなかウィットに富んだオレの抗議を真に受けて、携帯に手を伸ばしたのは一人か二人だ。

 ほかのクラスメイトは油断なく周囲に壁を作り、教室の中に陳列してある商品を守らんとしている。問題なのは、その商品だ。

 自分のクラスがフリーマーケットをやると知ったのは、文化祭初日の今日だった。

 いや、それはさすがに教えろよ。商品調達のノルマとかあったらしいじゃねえか。

 クラスメイトにそこまで気を使わせちゃまずいと教室に乗り込んで、オレはキレた。

 自宅にあったガラクタ? いいだろう。

 クラスの有志による手作りマスコット人形? 男子の手作り感に需要があるかは疑問だが、それもまあいい。

 本人に無断で撮影された、倉持真樹の生写真? これは、色んな意味で完全にアウトだ。

 怪しいと! 怪しいと疑うべきだった!

 文化祭に向けて、学校中が忙しくしているのは知っていた。遅くまで残って教室を飾ったり、食材や商品を準備したり。用事はいくらでもあっただろう。

 しかしオレだけは例外だ。ミスコン関連の準備はあったが、それも衣装合わせと一回だけのリハーサル。以上で全てだ。

 クラスのヤツらを手伝おうとすれば、邪魔だから教室に近付くなと追い払われる始末。忙しさにやられてついに本音が出たかと、そこで引き下がったのが悪かった。

 くっそー。売り物が何かバレないようにオレを遠ざけてやがったな、こいつら。

「おーい、そろそろ準備いいか?」

 教室の中で何が起こっているか知らない様子で、担任がひょいっと顔を出す。オレは教師のそばに急いで駆け寄ると、そのシャツの胸ポケットを右手で探った。

「うおっ、何だよ倉持」

 喫煙者の担任から奪い取ったライターに火を付け、クスクスと笑う。

「こんなもの、燃え尽きてしまえばいいんだ」

「恐い! 倉持それ本気で恐いから!」

「火はマズイって!」

「誰かあいつ止めろ!」

 慌てたクラスメイトがぎゃあぎゃあと騒ぐ中、担任はずいっと前に出て力強く言った。

「倉持、落ち着け! 放火はさすがにちょっと俺の裁量では揉み消せない!」

 それ以外だったら揉み消すつもりだったのかよ、と。爆笑するのは、被服室に集まった候補とミスコン班のスタッフたちだ。

「あいつらほんっと人の気持ちが解ってねえ」

 カツラの巻き髪を揺らしてため息をつくオレに、衣装に着替えながら石巌川が頷く。

「写真勝手に売っちゃダメだよね」

「まあ、そうなんだけどさー。それよりあんなにどーんと売って、売れ残ったらどうするよ。嫌だなよなあ。スゲー落ち込む」

「……倉持くん、それ、絶対クラスの人に言わない方がいいよ」

 張り切るから。凄い張り切って写真売るから。石巌川は首をぶるぶると振りながら、オレの肩を強くつかんで必死に言った。

 昼前から準備を始め、会場に入ったのは一時を少し過ぎた頃だ。オレたちの出番は一時半で、舞台袖から覗くとライトの下では着物の集団が大喜利をしていた。

 もしもあの中に梨森会長がまざってても、気付かないだろうな。て言うか多分、あの人なら熊さんと八っつぁんの話をスゲーうまく捏造しそうだ。

「いいか、倉持。おれの服には恥かかすなよ。股開いて座るな。椅子の背もたれも使うな。姿勢が悪いと、服のラインが崩れる」

「オレのことはどうでもいいって言うのだけはよく解ったよ、野谷」

 どうも、ナーバスになっているらしい。凶悪な空気で注意する野谷に頷き返していると、舞台裏に和服の集団がわらわらとはけてきた。持ち時間が終わったらしい。

 入れ違いに舞台に出たミスコンの司会に、会場がわっと盛り上がる。

 始まったかー。と人ごとのように思っていると、服飾部員が慌ただしく会場を出て行く。ファッションショーがこの次で、まだ準備があるらしい。そりゃ、ナーバスにもなる。

 そろそろ出番だとうながされ、ホルダーを外す。左腕にはサポーターが残るが、色は黒だ。びらびら長い衣装の袖に紛れるだろう。

 舞台では、手に持った紙を見ながら司会が候補者たちを呼び込んでいる。その姿に、あれ? と思う。何か、忘れてる気がする。

 しかしそれが何か解らない内に、司会者の声がスピーカーからオレを呼んだ。

「次の候補は生徒会長の応援コメント付きですねー。はい、呼びますよー。エントリーナンバー十番、まくらちゃんです!」

 ああ、それだ。

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