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02 候補って、何すか。

 柔らかな口調とその笑顔で、副会長は何ごともなかったように話を進めた。

「どうも、多貴たきさん。ルームメイトをお連れしました」

「……馬鹿か。俺は三年だ。三年は一人部屋だろ」

「基本的にはそうですが、部屋は二人用でしょう? そもそも三年が優先的に一人なのは、受験対策ですしね。――倉持君」

 副会長はにっこりと笑い、こちらを振り向く。

 優しい顔だ。しかも笑っている。

 だが、どうしてだろう。オレの本能が恐怖に震えた。

「紹介します。こちら、受験を避けて卒業後は適当な専門学校への進学でお茶を濁そうとしている三年の宗広むねひろ多貴さんです。顔は恐いけど、可愛いところもあるので多少は我慢してあげて下さいね」

「旭……てめぇ」

「こちらは、一年に転入してきた倉持真樹君です。候補にしたいので、ちゃんと見ててあげて下さい。多貴先輩」

 この言葉に、宗広先輩は小さく舌打ちをした。それに対し、副会長は満足そうに笑みを深める。

 渋々ながらも了承したのだと、会話ではなく二人の反応でどうにか理解できた。

「あの」

 思い切って声を上げた。

 すると彼らの視線が同時に集まる。得体の知れない威圧感に、反射的に逃げたくなったがそうも行かない。

 よくは解らないが、ろくでもない予感がする。と言うか、嫌な感じしかしない。早く確認して置くべきだろう。

「ずっと聞きたかったんですけど、候補って、何すか」

 その瞬間、宗広先輩は信じられないものでも見るような目をオレに向けたが、そのすぐ隣では「さあ、何のことだろうねえ」みたいな空気で副会長が美しくほほ笑んでいた。

「旭、お前こいつに説明……」

「まぁ、拒否権とかないし」

「してないんだな」

「槻島が連れて来たんですよ」

 あいつか! とでも言うように頭を抱えた宗広先輩の姿に、何となく人間性の本質を見る。いい人そうだ。顔恐いけど。


 結論から言うと、「候補」はそのままの意味だった。

 候補者。

 ただし、ミスコンの。

 この学校のことを、少し説明して置く。

 別に人里離れてはいないが立地は郊外。男子校で、寮はあるが通学生も多い。生徒の悩みは女子との出会いが極端に少ないこと。

 だったら共学に行けばいいのに。と、思わず呟いたオレは素人らしい。何の素人かは知らないが。

 しかしこの灰色の男子校が、他校の女子と言う女子で埋め尽くされる奇跡の二日間がある。――そう、文化祭だ。

「その文化祭で、一番盛り上がるのがミスコンなんだよ」

 米粒の付いた箸の先をビシリと向けて、寮長の槻島が熱弁をふるう。

 場所は食堂。夕食の時間だ。一番混雑する頃合らしい。食器のぶつかる音や椅子を引く音に、話し声もまざってざわついている。

 迷惑なことに、その中でも決して負けない熱意と声量で槻島は語り続ける。しかも無知な転入生を説得でもしていると思われたのか、いつの間にか周囲を二年と三年にぎっちりと囲まれてしまっていた。

「でもそれ、結局男だけなんですよね」

「男子校だからな」

「だったらミスコンじゃなくて、イケメンコンテストでもやったほうが」

 女子の食い付きもいいのではないだろうか。

 単純にそう思ったのだが、周囲からは失笑めいたため息がこぼれる。

「先輩、あんな事言ってますよ」

「知らん」

 宗広先輩のひたすら面倒くさそうな反応に、最初から期待もしてなかった様子で槻島はずいっとテーブルの上に身を乗り出した。

「いいか、倉持。可愛い男子の、本気の女装は、女子に、ウケる」

「……はあ」

 解らん。

 ぴんとこないオレに向かって、槻島は聞いておどろけと言うふうにニヤリと笑う。

「ちなみに、去年優勝したのは副会長の旭だ」

「マジすか何すかそれガチじゃないですか。絶対写真見せて下さい」

 衝撃と納得の事実に急にテンションの上がった自分に戸惑いながら、ああこう言うことかと何となく思った。

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