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12 大スクープ。

 オレは必死に走っていた。

 九月になって新学期が始まる、まさにその日だ。校内新聞を掲示板からむしり取り、校舎の階段を一番上まで一気に駆ける。

 目指す扉を力任せに開け放ち、ケガをしてないほうの手で新聞を高く掲げて思い切り叫んだ。

「何なんすかこれはー!」

 いきなり怒鳴り込むお前が何なんだと、怒られても仕方なかったとはあとから思った。

「やあ、これは困った」

 袂の中で腕を組み、自分の席からオレたちを見上げて心なく言う。和服姿の生徒会長に、困ってる感じは全然ない。て言うかこの人、始業式の時は普通に制服だったよな。

 会長専用デスクの前に、並んで立たされているのはオレと旭副会長だ。

 つまり怒鳴り込んだ先は生徒会室で、その理由は新聞部に情報をリークしたのが副会長だったから。

 何人かの教師と何人かの卒業生に連絡を取って、副会長はのつきの生徒が最寄り駅でプロポーズ事件を検証していたらしい。しかも相手の女子生徒まで特定し、オレの母親と同一人物であることは確認済みだとまで言った。

 どうだ! とばかりに一枚ずつ用意された両親の古い写真を見せられて、何だかとても温度差を感じる。

 ……いや、凄いけど。文化祭の準備で忙しかったくせに、何やってんのこの人。夏休みの間も学校にきていたのは、絶対にこんなことのためではなかったはずだ。

 オレとしては、そんなこと調べてどうすんの。くらいの感覚でいたから、全く理解できなかった。しかしここにきてみて、生徒会にはそうでもないらしい言うことが解った。

 生徒会長の机の上には、今日の日付で発行された校内新聞がのっている。しわくちゃになったそこに書かれているのは、多分、副会長が指示したままの内容だろう。

 うちの生徒なら誰でも知ってる伝説が事実で、しかもその息子が在校してる。もっと言うならアホなことに、そいつは今度の文化祭で女装ミスコンに出場する。

「話題になるだろうね。きっと、凄く話題になるよね」

 ふふっと満足そうに笑う副会長の横で、これはもうダメだとオレは思った。何がダメかはよく解らないが、とにかくもうダメだ。

 圧倒的な力の前に無力さを嘆いていると、生徒会長が袂の中から両手を出した。覗き込むような格好で体を前に傾けて、頬杖をつく。そうして見つめて、唐突に言った。

「旭、ごめんね」

 いや、意味が解らない。ここで謝られるとしたら、完全にオレだろう。

 しかし言われた副会長は、さっと表情を変えて青ざめた。

「彼の事を任せたのは僕だ。だから責任は僕にある。だけど今回の事は、君の浅慮だったと言わざるを得ない。本人に対して事前に相談もしなかったのは、明らかなミスだ」

 違う? と、ほほ笑みさえして問う男は、しかし今も頬杖のままだ。

 きれいに笑う副会長は、優しい顔だが人の話を聞く気がない。それに対して、この生徒会長はもっとずっと性格が悪い。

 相手の意見を尊重してるって顔をして、結局最後は自分の意見を通しちゃうタイプだ。偏見だけど、気付きたくなかった。

 副会長が、頭を下げる。

「……申し訳ありません、会長」

「僕に言うの?」

 指摘され、頭をこちらに向け直す。

「倉持君、申し訳なかった」

「生徒会からも謝罪します」

 梨森会長が立ち上がると、居合わせたほかの生徒会役員も一斉に起立して頭を下げた。

 オレは今、謝罪を受けている。謝罪を受けているのに恐くて仕方ないと言う、別にしたくもない貴重な体験をしている。

 どうしていいか解らなくなり、一応頭を下げ返してみた。

 その夜になって、生徒会の恐さについて宗広先輩と語り合った。

「恐過ぎますよあの人たち」

「旭は意外と、腹黒いのが解りやすいからな。梨森はそんな感じがしない分、余計悪い」

 それは全く同感です。

 夏のバイト代をつぎ込んだと言う新しいレンズを手入れしながら、机に向かって先輩が言う。

「それで? 問題は解決したのか?」

 ……問題って、何だっけ。一瞬そんな感じになりながら、よく考える。

 生徒会からの謝罪はあったが、文面ではなく口頭だ。記事は撤回されていないし、されたとしても広がった情報はもう消えない。

 ああ、解った。結局ごまかされたと言うことが。

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