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01 だから、何がだ。

交通事故についての描写が先々出る予定です。

ご注意ください。

 三十分前に初めて会った担任が、寮の広い玄関で誰かに向けて手招きをした。

 そしてやってきた上級生を寮長だと紹介するが、しかしその男はオレを見るなり「あ、ダメだ」と明瞭に言い放った。

 ダメって、何だよ。

 そんな不満が頭にポンと浮かぶ前に、片眉を上げて担任がほとんど反射的に口を開く。

「何だ?」

「いやー、一年で一人部屋のヤツいたんで同室でいいと思ってたんですけど……。これは、ダメですね」

「駄目か?」

「ダメですよ。彼、候補になりそうだから」

「候補ねぇ」

 疑わしげな口調と視線を浴びせつつ、担任がオレの頭をがしりとつかむ。そのまま髪をわしゃわしゃとかきまぜ、「おっさん、お前らの考える事は解らんわ」とため息をついた。

 だが先生、どうか安心して欲しい。

 現役高校生であるオレにも、さっぱり話が解らない。

「まぁ、寮内の事は槻島つきしまに任せとけばいいか」

 諦めまじりに担任は言って、ふと、ついでみたいにオレの腕を指さした。

「こいつの怪我、長引くらしいからちょっと気を付けてやってくれ」

 槻島と呼ばれて、寮長はこちらに目を向けた。ホルダーで吊るした腕を見たが、見ただけで特には何も言わなかった。

 それにオレは、ほっとした。ほっとしたことに驚いた。そうしてやっと、自分が緊張していたのだと知ったからだ。


 寮長の後ろにくっついて、食堂や休憩室、大浴場などを案内されながら簡単に規則を教わった。それから階段を上がり、部屋番号以外は同じドアがずらりと並んだ廊下を進む。

 オレの部屋に案内されるのかとも思ったが、ぴたりと足を止めた寮長は目の前のドアに向けて声を掛ける。

あさひ、いるか?」

 応じる声があり、中から扉が開かれた。

「いるよ。どうかした?」

 いや、そっちがどうした。

 少しだけ。本当に少しだけ、ここが男子寮だと言う事実を忘れた。

 出てきた顔は女かと思うくらい優しくきれいで、しかもこっちを見てほほ笑んでさえいる。ツヤツヤの黒髪。すっきりとした輪郭。知的かつ柔和な目元。これは見とれる。

 思わず初対面で母親にプロポーズしたうちの父の血が騒ぎそうになったが、しかし待て。よく見ると身長は平均よりでかいし、細身だが骨格は結構しっかりしている。よし、落ち着こう。結論として、これは男だ。

 動揺から何とか気持ちを立て直したオレを、寮長はその男のほうへ両手で押し出す。

「コレ、転入生。一年と同室にしようと思ってたんだけど、実物これだからさー」

「転入の話は聞いてたけど……、そうか。なるほどね」

 何がだ。

 よく解らない会話で頷き合う二人に、オレは眉をひそめて声を上げる。

「あの」

「あぁ、ごめんね。生徒会副会長の、神宮じんぐう旭です。宜しく」

「あ。一年に転入した、倉持真樹くらもち まさきです。よろしくお願いします」

 挨拶は大事だ、と子供の頃から言われ続けた母の言葉を思い出す。副会長に下げた頭を戻し、もう一度、今度は別の方向へ向ける。

「寮長も、よろしくお願いします」

「これはどうもご丁寧に」

「じゃ、倉持君は預るよ。いい? 槻島」

「うん。お願い」

 だから、何がだ。

 それを聞きたかったのに、口を挟む間もなく副会長に連れられてさらに上の階に向かった。そこにもドアが無数に並んでいるように見えたが、前を行く男はちらりとも迷わない。

 まるで無作為に選んだような自然さで、一枚のドアをノックした。

 すると、はっきりと言葉にさえなってないような気だるげな返事があり、扉が開く。

 そして、閉じた。

 本人としては、そのつもりだっただろう。しかし完全に閉じるよりわずかに早く、副会長が力強く扉を蹴った。

 よく板に穴が開かなかったと感心する程の勢いで、ドアは吹っ飛ぶように再び開く。

 品行方正と言う文字が背中に直接書いてあっても似合いそうな副会長の荒技に、部屋の中ではさっきの男が呆然と立ち尽くしてこちらを見ていた。

 いや、当然の反応だ。

 オレはオレで、内開きのドアってよくないな。と、どうでもいい感想を頭に浮かべて現実から目を逸らしていた。

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