とある村と魔物と犬人族の少年の話1
ある国の、辺境の村の話だ。
この村には現在、危機であり、繁栄の機会でもある事柄が迫っていた。
この辺りの村々にはよくある話で、【魔物の大群が迫っている】
口にしてしまえばこれだけのことだ。
普通なら、逃げる準備をするだろう。
だが、この村人達は逃げない。
なぜなら、この村には老人達が多かったと言うのも有るが、それだけではない。
ただ単に、押し寄せる魔物が弱すぎるのだ。少数相手なら子供でも余裕を持って対処できる程度の。
それでいて、カモがネギ背負ってくるような、倒せば希少な素材が手に入るからだ。
毎年、この時期に起こる祭りのようなものと認識されており
大勢の冒険者達もこの地にやって来るほどだ。
だからこそ、油断していた。何事にも例外があり、この辺境の地では
少しでも気を抜けば死に至る場所である事を忘れていたのだ。
それ故のこの村は、冒険者達を含めた多くの犠牲を出して滅ぶはずだった。
冒険者達の陣形は崩れ去り、手に負えないであろう魔物が群れを成し、迫っていたのだから。
そのままでは、村を荒らされ、村人は一人残らず死に至るだろう。
しかし、その現実は、ある一つのファクターにより、覆されることになる。
時を同じくして、火山の街から帰還した【彼】・・・名をモルガンと言う。
帰ってきてみれば、巣が踏み潰されていた。
住む家が跡形無く踏み荒らされており、その足跡の群れは、近くの村へと続いていた。
これはもう、怒るしかない。
家を荒らされ、破壊されれば、誰だって怒るし、制裁を加えたいとも思うだろう。
つまりは――――
――Skill【凶獣化】【咆哮】【氷結】【雷速】-【殺意の具現(凶獣咆哮)】/【雷速疾走】――
「キャゥウウウウウウウウウウン!!」
悲しいかな、格好つけようと思っていても、彼は未だ三歳児。
しかし効果は絶大で、その咆哮(笑)の風に触れた魔物は悉く凍りつき
雷の如き速さで掛ける子犬が通り過ぎると、少し遅れて発生した、指向性を持った衝撃波によって砕け散る。
そこに慈悲は無く、魔物のみ、有象無象、強弱、年齢、性別一切関係なく、一瞬にして死に至った。
と、同時に、彼の黒歴史作成によるダメージにより、いろいろ真っ白に燃え尽きていた。
「―――はっ?」
と、誰が言ったのかは判らない。
だが、行き成り目の前の魔物の軍勢が粉砕されていた。
この現象を目の当たりにした者は皆、口をそろえてこう言うだろう【わけがわからないよ】と。
突然の出来事に対し、硬直していた頭を再起動させ、安全を確認した後
落ちていた希少な素材を拾い集める者や、けが人を運び、治療に勤しむ者。
皆、それぞれ違いはあれど、この後の祭りの準備をする為に動き出した。
だが一人だけ、その集団から離れて、軌跡の跡を追う、猫人族の冒険者が居た---
続く。