第9話~仲間(旅は道連れ?)~
皆さんこんばんわ。投稿遅れましてすみません。
ちょっとずつ人が増えていきますね。
ルリと出合ってから3日が過ぎた。王都を出てからだと4日。1週間でゼラルに着くそうなので、半分は越えたことになる。クロアシラの死体は水の魔法が得意なリリアによって浄化され、肉は食糧の足しに、爪と牙と皮は売れるそうなので、剥ぎ取って保管している。
昼頃になって、そろそろ昼食にしようかというところで、俺達は街道に倒れている女の子を見つけた。
「人だな」
「人ね」
「人ですね」
『ひとー』
うつ伏せになっているので顔は分からないが、セミロングの金髪に華奢な手足。纏っている外套(だったであろうボロ布)は穴だらけで汚れまくっていてもうボロ雑巾みたいになっている。そして何故か裸足。まぁ見た感じ全体的にボロボロなので、たぶん靴なんてもう履ける状態ではなくなったんだろう。
そして最も目を引くのが髪の間から見えるとんがった耳。まだこっちの世界で人間以外の人型生物は見たことのない俺だが、あれは十中八九エルフってやつだろ。つか違ったら逆に驚くレベル。
「とりあえず助けるか」
「行き倒れでしょうか?」
「それにしては何と言うか、ボロボロじゃない?」
俺達は少し早いが今日はここでキャンプにして、この娘の手当をすることにした。ここ数日ですっかりお馴染みになったキャンピン〇カプセルにエルフ(たぶん)を入れ、ベッドに寝かせる。
エルフ(きっと)は女性陣|(+ルリ)に任せて、俺はキッチンを錬成すると薪集めに行く。すっかり行動がパターン化してる俺である。昼食を済ませた後は特にすることもないので訓練をして暇をつぶす。やがて夜になると夕食をとって各々部屋で床について翌朝。
「おはよう……」
「2人ともおはよう」
「おはよーございます」
「わんっ」
とりあえず全員が起きてきたので、エルフ(おそらく)の様子を見に行くと、ベッドから起きだして、そのフォレストグリーンの瞳を窓の外に向けていた(ユミィの寝巻きを着ている)。俺達が入ってきたのに気づくと人懐っこそうな顔で言った。
「初めまして。私の名前はティアナ・イーチ・ラストス。助けていただいて、ありがとうございました」
そう言ってペコリと頭を下げるティアナ嬢。怪我とかしてないのは昨日の時点で確認済みだったので、朝食をとりながら、何であんなとこでぶっ倒れてたのかを聞くことに。
「実は私、人に追われているんです」
話しをまとめるとこうだ。
彼女の名前はティアナ・イーチ・ラストス(15)。現在妖精族国家『フェアリーアライエンス』のトップを務めるカリク・アイネ・ラストスの次女で、生粋のエルフ。外出先で正体不明の集団に拉致され港町の倉庫街に監禁されるも自力で脱出。ところが途中で発見されてしまい、近くにあった船の貨物用木箱に隠れていると、なんとそれが手違いで積荷として船で出荷されてしまう。カトラ大陸どころか首都からすらまともに出たことのない彼女は、自分がどこに着いたのかも分かっておらず、手違いとはいえ密航してしまったことに罪悪感を覚えた彼女は、到着先の港に着くや否やこっそり抜け出し、後はひたすら街を求めて彷徨っていたそうだ。だが、どういう訳かこっちの大陸に移動した後も度々追跡者に見つかり、とうとう森を突っ切ったりしてるうちに追跡者は振り切れたものの、完全に迷子になっていたんだそうだ。
「んで、結局街道を見つけた途端に気が抜けてぶっ倒れたわけだ」
「はい。ちょっとお買い物に出ただけだったので完全に手ぶらで……。もう2週間くらい食べてませんでしたし」
「ボロボロだったものね」
「着の身着のままとは正に昨日のティアナさんの状態ですね」
随分とエキサイティングな体験をしているお嬢さんである。
「あの、ぶしつけなお願いで申し訳ないんですけど、次の街までご一緒させてもらえないでしょうか?なにぶん自分が今どこにいるのかも分かっていなくて……」
個人的には別に2~3人くらいまでなら増えても問題ないんだが、俺達は曲がりなりにも『王女様御一行』なので、その辺の判断はユミィに一任する。
「私は構わないわよ。カイトとリリアはどう?」
「異議なし」
「右に同じです」
全会一致で可決。そうと決まればさっそく移動開始だ。と言いたいところだが、まずはティアナ嬢の服をどうにかせにゃならん。なんせ着てた服はもうゴミ同然で、今着ているのはユミィのパジャマだ。これでゼラルまであと約3日を過ごすわけにはいかない。そこで登場するのがこれ。
「着せ替〇カメラ!」
「?それは何ですか?」
「ティアナ嬢、ちょっとスタンドアップ」
「???」
「はい、チーズ」
「!?これは!?急に服が……」
とりあえず着せたのは、脹脛まであるスパッツにミニスカート。白い七分袖のハイネックに緑色のベスト。両手には指抜きの手袋。茶色のブーツに深緑の外套。また彼女が追われていることを考慮してフードもつけた。
「どお?どっか違和感とかここが気に入らねぇとかあったら言ってくれ」
「い、いえそれは大丈夫なんですけど……。こんな魔法は初めて見ました」
「これは私も初めて見るわね」
「カイトさんの魔法は不思議なものばかりです」
だんだん説明がめんどくさくなってきた俺は、もう魔法でいいことにしている。
「そういや武器とかは必要?」
「いえ、私は魔法得意なので平気です」
「妖精族は杖も必要ないものね」
こうして連れが増えつつも俺達は一路、ゼラルを目指した。
---ゼラル到着1日前---
もうあと少しで着くということで正直俺達は若干気が抜けていた。この2日間でティアナ嬢もだいぶ馴染み、俺達は旅を楽しんでいた。そんな時、前方から結構な早さで走ってくる馬車に最初に気づいたのはルリだった。
『かいと まえから なんかくる』
「前?」
そう言ってめを凝らしていると、俺の声を聞いた3人も目を凝らし始めた。
「どうしたのカイト?」
「何かきますね」
「っ!!……あれはっ!」
ティアナ嬢が息をのんだ。両手を口にあてて顔が真っ青になっている。
「あいつらです!私を誘拐した連中の一部だわ」
「「「っ!!」」」
馬車は真っ黒で大きく、威圧感がハンパない。馬車は俺達の目の前で進路を塞ぐように止まると、中からはいかにもガラの悪い連中がゾロゾロ出てきた。そいつらは半円状に俺たちを囲むと、頭にバンダナを巻いた男が下品な笑みを浮かべて前に出てきた。
「ひっひっひ……見つけたぜぇラストスのガキ。ったく手間掛けさせやがって。もう逃げらんねぇぞ?」
俺は完全に怯えてしまっているティアナ嬢を庇うように立つ。すると
「あぁん?なんだてめぇは?ガキはすっこんでろよ。俺はそこのラストスのガキに要があんだ」
やたらゆらゆらしながら絡んでくるので、何て返してやろうかと考えていると
「あなた達!大の男がこんな女の子に手を出すなんて!恥を知りなさいっ!!」
とユミィが毅然と言い放った。が、この手の連中にそれは……とか思ってたら周りの連中がひゅ~うとか言い始めた。ほら言わんこっちゃない。
「ハハハハハハ!!おいお前ら!聞いたか!?恥を知りなさいだってよ!!」
「いいねぇ~!いかにもオジョーサマって感じ」
「かしらぁ!ラストスのガキはしょーがねーとして後の2人は食っちまっていいッスよね!?」
「ゲヘヘヘヘ。今夜が楽しみだなぁ!!おいっ!!」
ティアナ嬢とリリアは俺の後ろでガタガタいってる。ユミィは俺の横で視線による殺人に目下挑戦中な感じでバンダナ君たちを睨んでいる。ルリはユミィの足元で威嚇してる。俺はイライラしている。前にも言った気がするが、俺は女の子をそういう目でしか見ない連中が大嫌いだ。我ながら潔癖だとは思うが、そーゆーのはお互いが恋人同士になってからにすべきだと思っている。まぁ他にも理由はあるんだが。ついでに言うなら、そのもう1つの理由がもとで、個人的にその手の連中は八つ裂きにすることにしている。
そうして俺の怒りが有頂天に差し掛かっていると腰巾着Aみたいのがニヤニヤしながら俺の顔を覗き込みながら言ってきた。
「とゆーワケでガキ、おめぇは身ぐるみ全部置いて消えな!そうすりゃ見逃してやるよぉへっへっへ」
ブチッ……
「見逃してやる?調子に乗るなよ、カスども……。てめぇら全員、生かして返すわけねぇだが。てめぇらは今日、ここで俺に殺されて死ぬ。見逃してはやらねぇぞ」
殺気を込めた俺の宣言に連中の顔が引きつった。カスでも空気の変化くらいは察知できるらしい。
俺は目の前にいる腰巾着Aを居合い切りで上下半分にすると、そのまま連中めがけて走りだす。
人数は全部で19人。さっきの奴入れて20人の集団だったらしい。
1人目は右下から切り上げて胸部を裂く。返す刀でその隣の奴の首を刎ねる。
俺が一息で3人の命を刈り取ったところで、ようやく連中は事態を把握し、6人が逃走を図り、7人が抜剣し、4人が腰を抜かしてジタバタと後ずさろうとしている。戦闘態勢に移行した7人を優先する。
「我流刀術奥儀!桜花百連刃!!」
桜花百連刃は、水と風の魔法を組み合わせたもので、俺を中心に発生する小規模の竜巻に極小の氷の刃が含まれており、巻き込まれた対象を切り刻むものだ。これは刀身に水と風の魔法を付与して刀を振るうことで発動できるので、対象を直接切る必要はない。また、技が竜巻状になっているので1つの対象に使う意味は特になく、今回のように複数の相手をまとめて殲滅することに特化している。ちなみに、桜花って名前は、傍から見ると氷の刃が光を反射して桜の花びらが舞っているように見えるからという理由でついた。個人的にはこっちの世界に桜があるらしいってことに驚きなんだが。
7人が肉塊になったので、逃走中の6人にタゲを変更。馬車で走り始めたので、でかいのを一発奢ってやろう。
「我流刀術奥儀!炎渦!!」
炎渦は名の通り炎の渦だ。火と風の魔法を付与した刀を振り下ろすことで、前方に直進する炎の渦を放つ。渦の直径は2メートルくらいなので、火傷を無視すれば火でできた筒の中を歩けるだろう(まぁ無理だけど)。10メートルくらいは進むので逃げてく相手には便利。
馬車ごと6人を飲み込んだ炎渦が消滅するとそこには焦げた何か。今の俺の火力では焼き尽くすことはできないので、炭状態の残骸が残る。
残り4人。さてこの腰抜けどもはどうしてくれようか……。
「カイト、ちょっと待ってちょうだい」
4人に近づく俺を止めたのはユミィ。
「どうしたいんだ?」
「彼らは傭兵よ。ティアナを狙っているってことは雇い主、つまり黒幕がいるはず。それを聞きださないと」
「あぁ成程な。そっちをどうにかしないとまた似たようなのが来るかもってわけだ」
「その通りよ」
「おーけー任せろ。こいつらに吐かせりゃいいんだな。てめぇら聞いての通りだ。さっさと雇い主の名前を言え」
4人組はひと塊になって震えあがるとあっさりとゲロった。
「ふ、フェアリーアライエンスのサンジェルマン・ゲルトって政治家のおっさんだ」
「サンジェルマン・ゲルト……。どこかで聞いたような……」
「う、ウソじゃねぇ!!ホントだ!信じてくれ!!」
「誰も疑っちゃいねーだろが。んで、その名前知ってんのかユミィ?」
「名前は聞いたことがあるわ。何でだったかしら……え~っとぉ……」
ま、名前分かってんならゼラルで調べられるんじゃね?ということでこの話はいったん終了。
すると、ティアナ嬢が意外なことを言った。
「あ、あの、その人たちを見逃してあげることはできませんか……?」
「ティアナ?彼らはあなたを誘拐した人間よ?今だってカイトがいなかったらあなた捕まってたわよ?」
そうユミィが言うとティアナ嬢はことばに詰まってしまった。
「彼らはまたあなたに手を出すかもしれないわよ?それでもいいの?」
俺はティアナ嬢の気持が分からないわけではなかった。俺の場合は近衛としての心構えをカイザとミアさんに叩きこまれた時に「ユミィを守る上ではいずれ人を切らなきゃいけなくなることもきっと出てくる」と言われ、1週間くらいかけて覚悟を決めたし、カイザに付き添って盗賊退治をした時に初めて人を切って、これまた1週間くらい塞ぎ込んだりもしたが、良くも悪くも慣れてしまった。人を守るためには躊躇しない方がいいことも学んだ。下手な情けや迷いは自分だけでなく仲間も危険にさらすことも分かった。だから連中を切ったし(多少個人的な都合もあったが)、それを後悔なんてしない。
ユミィはユミィで何らかの覚悟を決めているようだ。今は俺1人でなんとかなっているが、相手が多ければ、いづれユミィが戦闘に参加することもあるだろう。彼女はそれを見据えたうえで、ちゃんと自分と向き合っているように見える。
でもティアナ嬢はそうじゃない。誘拐された彼女に相手の命を奪う覚悟なんてあるわけないし、してるはずもない。だがそれが悪いことだとは思えなかったし、本当の意味でその心を捨ててはいけない気もした。だから俺はティアナ嬢に助け舟を出してやることにした。
「こいつらの元々の目的はティアナ嬢の奪取だ。だがそれは失敗し、こいつらももう俺らにちょっかいだす気はねーだろ。なぁ?」
俺がそうふると、4人組はガクガクと首が取れんじゃねーかって勢いで頷いて見せた。
「こいつらがこう言ってる以上、後は狙われてたティアナ嬢次第だと俺は思うぜ?結果的にこっちは被害ゼロなわけだし」
「カイト……。だけど万が一ってこともあり得るわ」
「確かにこいつらがまた襲ってくる可能性もゼロじゃないが、そん時は今度こそ殺すさ」
俺の意見を聞いて考えこんでいたユミィだが、やがて顔を上げて言った。
「…………分かったわ。カイトの言うことも一理あるし、仮にまた襲撃されてもカイトがいれば平気なのも確かだし。あなたは本当にそれでいいのねティアナ?」
「は、はい、いいです」
ティアナ嬢はどこかほっとした雰囲気の空気を出した。その後ろでリリアが胸に手を当ててほぅと溜息をついている。ユミィは少々複雑な表情をしていた。
「そーゆーワケだてめぇら。今回はティアナ嬢に免じて見逃してやるから、とっとと何処へなりと消えちまいな!」
そう言うと4人組はオリンピック選手もかくや!という速度で離脱していった。
「あ、あの、ありがとうございます。変なわがまま聞いてもらっちゃって」
「狙われてた君自身がいいって言うならおれは別に口出ししない。それだけのことだよ」
「それでも!ありがとうございます」
そういうとティアナ嬢はなにやらモジモジし始めた。花を摘みに~ってやつか?
「あ、ああああのあのあの!か、かかか、カイトさん!!」
「???急にどうした?」
「えっとそのそのその、わ、私のこと、ティアって、呼んで、くれませんか?」
「なっ!?」
「!!」
ユミィは複雑な表情が一転、驚愕の一色に染まる。リリアは何か顔を真っ赤にしながらも目がキラキラしてる。2人ともどうしたんだ……?
「ティアって呼べばいいんだな?分かった、これからはそうするよ」
「あ、はい!!」
「「!!」」
だから2人いったいどうしたんだ……。
「ま、まさかカイトに告白するなんて……いいえ落ち着くのよユミエル。カイトはあだ名で呼ぶのはただ親しくなった証しくらいにしか思っていないんだから……」
「はわわわわ。カイトさんモテモテです……。でもあだ名のこと知らないんですよね。ティアさんにはそのこと言っておかないと……」
何やら2人がぶつぶつ言っているが小さすぎてよく聞こえない。ティアはティアで茹でダコみたいになってるし……。これが、あれか、噂に聞くよく分からない女心ってやつか……。
翌日、俺達は技術大国として名高いゼラル連邦国に足を踏み入れるのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
当初の予定では戦闘シーンはもっとネタ満載になるはずでしたが、もうカイト君勝手に技作ってますね……。ひみつ道具がちょいちょい便利に使われてるくらいだしょうか。
いつかカイト君が初めて人を切った時のこととかカイト君の過去とか書きたいですね。かなり先になりそうですけど。
近日中に設定資料的なものを投稿します!でわじかいもよろしくお願いします。
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