第二章:世界最強の男、トモヒロ
「そんな悲しい目をするんじゃないわよ、ボーヤ」
背後から響いたのは、地鳴りのような重低音。それでいて、絹のように滑らかな響きを持つ声だった。
そこに立っていたのは、この道場の真の主であり、世界最強の格闘家――トモヒロ。
彼は筋骨隆々の肉体をピチピチのタンクトップに包み、虹色のオーラを放っていた。
「トモヒロ師匠……。僕は、強くなりたいんです。でも、どうしても拳に力が入りません」
トモヒロはヒロミチの顎を指先でクイと持ち上げた。
「当たり前よ。あなたは自分の心に嘘をついているわ。この世界で一番強い力……それは、己の『愛』を解放することなのよ」
「愛……?」
「そう。私は『世界最強のゲイ』として、全ての偏見を筋肉でねじ伏せてきたわ。ヒロミチ、あなたもこちら側へ来なさい。男を愛し、男に愛される喜びを力に変えるのよ!」
修行は過酷を極めた。トモヒロ師匠との密着度の高いスパーリング、男の美学を説く深夜の講義。
そしてある日、ヒロミチの中で何かが弾けた。
「……ああ、そうか。僕は、中田のあの鋭い眼光に……ときめいていたんだ」
その瞬間、ヒロミチの身体から黄金色のフェロモンが噴き出した。筋肉はよりしなやかに、肌はより艶やかに。彼の拳には、相手の闘争心を愛の情動へと変換する「ゲイ・エナジー」が宿った。
「覚醒したわね、ヒロミチ……。いい顔になったわ」
トモヒロは満足げに微笑んだ。




