後輩視点によるエピローグ(前)
※二話同時投稿です
「いやーなかなか面白かったです。 小説みたいで」
「あ~あ~、きっとお前はそういう風に言うと思った!」
そう大袈裟に返す先輩は、ホッとしてるように見えた。
私はいつも基本聞き役だし、実際面白かったけど。
先輩は多分色々気にしてて、そういう適当なことを言って欲しかったんじゃないのかなって思ったから、お気に召したようでなによりだ。
「でもマジ、小説みたいじゃないすか。 『元犯罪者を悉く更生させる、謎のアパート!』しかも貯水槽の清掃でなんか仕込むとか、大きななにかの陰謀絡みの流れですよ」
「怖っ! 陰謀論怖っ!」
そっからはどんどん酒の席らしい、いい加減な話になって。お気に入りのサメ映画を語って貰ったりした。
終電まではまだあるけど、そこそこいい時間になったので会計をして店を出て、ゆっくり駅へ向かう。
「またな~」
「あ、先輩」
言おうかどうしようか迷ったけど、勘定を多く持ってくれたので言ってあげることにした。
「別に嫌われてなかったと思いますよ、どちらにも」
先輩はちょっと真顔になった後「そうかな~」と、いつものようにヘラッと笑った。
相変わらず変わっていない。
私は知ってるけど、先輩はなんとなく自分が気に入った人と話すし遊ぶ人だ。その範囲が多分人より広い方ってだけで、根本は『愛想のいい内弁慶』である私と大差ない。
周囲は勝手に誤解するけど、実際は別に面倒見も良くないし協調性豊かでもないと思う。
そう認識はされないだけのこと。
先輩を好ましいと思うのは、そこを深いところで自認しているところ。
人より客観性に富んでる割にそこから目を逸らす狡さを、狡いとわかりながら甘んじていて、そのくせそれを申し訳ないと感じている、そういうところだ。
彼等も、それをなんとなくでもわかっていたとしたら、やっぱり嫌いじゃなかったんじゃないかな。
『おかえり』のくだりとか、そのあと過度な親切に及ばないトコとか、(個人的には充分人が良すぎるとか思ったけど、それはそれとして)『人たらしだな~』って思ったし。
──ただきっと、多少の悪意はあったと思うんだよなぁ。
先輩みたく『善良でいられる人』にイラッとする気持ちはわからないでもないし、全然それを責める気にはならないけど。正直私だって、何度か闇堕ちを経験させたろうかと思ったことあるもん。
全く違う理由だとしても、それこそ『変な匂いのするただの水を飲ませる』みたいなちょっとした意趣返し程度で済むような、可愛い悪意だとは思うね。
いずれにせよ、さっさとそんなところから出て良かったんじゃないかな。
ビビリだとは思うけど。せめて隣の居候の末路はちゃんと見届けて欲しかったよなぁ。
大体にして、先輩の想像にはいくつも抜けがある。
そもそも全部が全部、『陰キャの隣人と不動産屋の兄さんから聞いた話でしかない』んだよね。鵜呑みにするのは素直すぎるよ。でも多分、ちゃんと調べるの怖かったってのもあるんだろうな。ビビリだから。
調べればすぐにいい加減な話だとわかるのに。




