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隣人だった人  作者: 砂臥 環


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6/8

先輩の語りによる本編⑤知らぬが仏

 

 そこで話は終わったんだけど、洗濯は終わってないわけで。ちょっと気まずいじゃん。


 誤魔化しに「漫喫でなに読んだの?」とか、どうでもいい話題を振ったら、「そういえば意外とサブカルに詳しいって、〇〇さんから」って。

 思いもよらぬ話題に跳んだけど、正直ホッとしたよね。

 そこからは不動産屋の兄さんとサメ映画の話で盛り上がったこととか話してたら、俺の方の洗濯が終わって蓋のロックが開く音がした。洗濯物回収して「じゃあまた」って挨拶したら、彼は不意にこう言ったんだ。

「サメ映画に救われましたね」って。冗談交じりの口調で。


「〇〇さんって、陽キャ嫌いなんですよ。 だからアナタには注意事項を話してないのかもって思ってたんです」


 急になんでそんなことを言ったのかもわからないし、意味もイマイチ飲み込めなくて。 俺の反応は悪かったと思う。

 でもようやく気づいて『あ』って思って。それが顔に出てたかもしれないし、無意識で口に出してたのかもしれない。

 念を押すようにもう一度「絶対なにもしないでくださいね」って言われた。


 怖かった。漠然と。


 なんか気持ち悪いモノが身体の中をぐるぐるしてるような、そんな不快な感覚で歩いているうちに、気づけば部屋に着いてた。

 思考が定まらなくて。整理したくて汚い箇条書きで紙に色々書いてったんだ。ここを紹介されてから今までに、見聞きしたことを。字もぐちゃぐちゃだったし、端的過ぎて意味わかんなかったりしたけど。


 彼はあの水(・・・)を今部屋にいる子に飲ませようとしてる──それはわかった。


 でもさ、結局あの水はなんなんだ? って話だよ。あの人、なにを知ってんの?

 死ねばいいと思う相手に飲ませて、あんなに爽やかな笑顔になれるくらいのなにかなら、ちょっとした意趣返しとは思えないじゃん。


 それなりに考えて……凄く嫌な想像に行き着いた。

 っても、辻褄合わせみたいな作業だったし、ただの想像に過ぎないよ?


 最初に聞いた貯水槽の噂──『かつての住民が女を殺して隠した』ってやつ。殺人遺棄になるのかな? まあなんでもいいけど。

 で、『その噂はアパートに住む前科者への嫌がらせである』っていう次の噂(・・・)ね。

 あれ実は同時発生というか、う~ん、説明が難しいな……意図的に流された『ふたつでひとつの噂』だったんじゃないのかな。


 目的と方法が逆っていうか。

『なにかがあったから妙な噂が流れた』んじゃなくて、『噂自体がなにかの目眩し』っていう。


 そう、貯水槽の大掛かりな内部清掃。

 アレが怪しい。本当に内部清掃だったのか?

 別の目的があってそうしたんじゃないのか。


 中になにか入れる(・・・・・・)とか。

 例えば、凶暴な元犯罪者が大人しく無害になるような……もう片側の隣人のオッサンみたいになるような、なんかを。


 ──まあ俺がそう思っただけで、結局事実はわからないけど。それからどうなったかも。


 今の会社は転職して入ったんだけどさ。少し前まで寮のあるところにいたんだ。なるべく早くあの場所から出たくて、すぐに就職した。

 思わぬカタチでのモラトリアム終了で草……とか言いたいけど、笑えねぇよ。実際、今まで誰にも話せなかったし。


 コインランドリーで彼が俺に言った〇〇さんの話は、彼自身の罪の暴露というか、そういう類のモノだったんじゃないのか──っていうのが素直な考えね。


 でもどうかな。俺、嫌われてたのかもな。

 そのあたりはよくわかんないし、だとしてもそれがあの人か、不動産屋の兄さんかもよくわからんけど。

 

 俺の方は……なんだろうな。

 別に彼が嫌いになったとか、嫌悪感を抱いたとかはないんだよね。

 まあ、月並みだけど『人って怖いな』とは思う。

 誰がっていうのは難しいかな。俺自身、彼があんな爽やかに笑えたんだな~って感想の中には『良かったなぁ』とかもあるんだよね。

 あの夜だってそう。漠然とした恐怖の中で、高揚もしてたかもしれない。自覚がなかっただけで。


 まあ、誰かの痛みや気持ちがわかるとか、安易に言えないよな、みたいのは……うん、あるよね。

 なんていうか、そんな感じ。



殺人遺棄→正しくは殺人死体遺棄

でもあくまでも先輩の想像でしかない、という会話文。多分そういう言葉も含め、先輩はこれの事件性についてちゃんと調べるのは嫌だと思うので、間違ったままにします。

ご指摘ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
【追加】……あ、未だ完結してなかった(汗)  ふ、不覚っ! m(_ _;)m
ほんのり「人怖」系でしたねー  イヤンなリアリティがよきでありました〜♪
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