先輩の語りによる本編②注意事項
三話完結と思ってた方いたら申し訳ない……(分割したんや……)
前置きが長くなったけど。
さっきの人はそこに住んでた時の隣人。
俺と同じであの人に前科はないらしい。
最近は引っ越しの挨拶とかしないのが普通だと思うけど、不動産屋の兄さんの話もあって、住民がどんな人達なのか気になってさ。
両隣くらいはしとこうと。
特にあの人には、挨拶ついでに他の住人の話とか聞けたらな、と。
あ、別になにをやらかしたかみたいなのを聞きたいわけじゃなくてさ。別段悪人じゃなくても環境とか、運悪く犯罪に加担しちゃうこととかもあるだろうと思うし。
法的に言えばもう裁かれてるよく知らんご近所さんを、被害者関係者でもないのにわざわざあげつらうほど悪趣味じゃねぇのよ俺も。
でももしも、単に刑期を終えただけの未だにやべぇ人が近所にいるなら、流石に関わりたくないじゃん。
聞きたいのはそういうの。あの人も前科ないんなら聞きやすいなって。
で、挨拶に行ったんだわ。
ネタ的に近所のコンビニで買った蕎麦持って。
当時の彼を一言でいうと、絵に書いたようにわかりやすく『陰キャ』だった。
お前みたいのが自称する陰キャとは決定的に違うやつ。
……さっき驚いたのはさ。彼、あんな爽やかな感じじゃなかったから。
もっと髪の毛もこう、中途半端に長くてボサボサで。眼鏡もあんなスタイリッシュじゃなくて。色褪せたTシャツとスウェット……あ、勿論部屋着だったってのはあるだろうけど。
でも外に出るからちゃんとしてた、とかじゃないくらいには変わってた。
そもそも俺に会釈なんかしなかったと思うんだよね、当時の彼なら。気づいても気づかなかったフリしてるよ、絶対。
そんなだったから、コンビニの袋持ってヘラヘラ笑う知らん俺をモニターで見て、よく玄関開けてくれたよな、とは当時も思った。
でも陰キャだからどうとか別にないしね。むしろ変に陽キャより無害そうでいいな、と。
同年代だし仲良くなろうと「どうせならウチで一緒に蕎麦食いませんか~」って誘って。お隣さんと仲良いに越したこたァないし。
その時は割とけんもほろろに断られて、まあ逆隣に行った。
もう片側の人はガタイのいいオッサンで。
見た目はイカニモだったけど、無礼な若造の俺にもめっちゃ丁寧な、大人しくて感じのいい人だったよ。
もし暴力振るわれたら確実にやられるから流石に家には誘わなかったけど、誘っても平気だったんじゃないかな。その後挨拶くらいしか交わさなかったけど、いつもニコニコしてたし、凄く普通で迷惑掛けられたこととか一度もないし。
まあその程度で人の善し悪しなんて判断できないけど……なんていうのかな~、素で無害そうな空気ではあった。
で、陰キャの隣人の方に話を戻すと。
結局生活範囲が一緒だからさ。すぐ話す機会はきた。
スーパーで無料の水入れられるところあるじゃん。容器だけ買うやつ。
──あ、ごめん。
話し忘れてたんだけど。
契約する前に不動産屋の兄さんから「ひとつだけ注意事項があります、ここの水はなるべく口に入れないで下さい」って言われたんだよね。
実際、顔とか洗うと独特の匂いがするんだよ。気になるほどじゃないけど、注意事項を聞いた後だとちょっと気持ち悪いな、と。
だからか彼、でっかい水ふたつも抱えてて。
「重そうっすね~」って言いながら一本持ってあげたんだ。断られたけど、割と強引に。
だってあの人今も、見るからに華奢だったでしょ? なんか気の毒でさ。どうせ目的地も同じなんだし。
その時に俺は水をどうしてるのかって話になって。もしかしたら注意事項聞いてないのかも、と思われたみたい。
俺、ウォーターサーバー使ってたんだよね。機器が無料レンタルの、水を買うやつ。
姉ちゃんの仕事のノルマ貢献でさ。だから毎月の水代は変わらず実家が持ってくれてた。
いつでも冷水と熱湯が出るよう常に電源付けてても案外電気代食わないし、自炊……というか部屋での飯はカップ麺とか割引弁当だから洗い物も出なくて。
ちょっと匂いが気になったのもあって、水道水はトイレ流すくらいしか使わなかった。顔洗うのは銭湯と、朝は洗顔タオルシート。歯磨きうがいは勿論サーバーの水。
彼、ウォーターサーバーに興味が沸いたみたいで。月いくらぐらいかかるか聞いてきたから、親に聞いてみるねって。
そこから少しずつ、会えば多少話す程度には仲良くなった。まあ頻繁に会うしね。
仕事ない日はコインランドリーとか銭湯とか人の少ない時間を選んで行ってたし、彼もそんな感じだったから、そりゃ被るよねって話ではあるんだけど。
俺がどういう感じかなんとなく把握し、仲を深める気はないけど、気まずいよりもちょっと世間話して終わる程度ならその方がいい、とか思ったんじゃないかな。知らんけど。




