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エピローグ

「長かった、ここまで……」

 吐息混じりの純一の言葉に悠人は目を蕩けさせてじっと見つめていた。

「だから、覚悟して」

 低く短く囁かれた言葉。そしていつものように目を細めて微笑む。

 その視線に身体がわななき、欲望がこみ上げてくる。


「悠人が言ってたとおり、独占欲強いよ? 悠人が気づいてないぐらいに」

「いい、から……っ」

 薬を飲んでいない状態で迎えるヒートは、正直きつかった。

 身体は衣服の擦れでも敏感に感じてしまい、下着まで濡らしているのが分かる。

 完全に受け入れるための身体となり、唯一の存在に早く喰われたいと願っている。

 ぐらぐらと視界も思考も煮えたぎり、何も考えられなくなっていく。

 ただただ目の前にいる純一がほしいという欲望だけがある。


 誰でもいいαがほしいわけじゃない。

 ただ一つ、唯一、純一がほしい。


 どれだけ純一が今まで努力してきたのか。自分を探したのか。そしてこの数ヶ月の間、最後の猶予をくれていたことを知っている。

 それでもなお、彼は自信があったからこそ悠人の判断に委ねると言っていた。

 悠人はもちろん、その自信に応える答えしか持ち合わせていない。


 口を開く。

 ねっとりとした唾液が糸を引き、熟れた咥内を見せつけるように口角をあげ微笑む。

 自分のΩという性にまみれたこの姿は、どれだけ浅ましく見えるだろうか。

 だが純一はそれを嫌がりもしない、罵倒もしない。むしろソレをずっと待っていてくれた。

 噎せ返るほどの甘い匂いが部屋中に充満している。


「純一……早く、噛んで。お前の……」

「俺の?」

「番にして。二度と離れないで」


 微笑んだ純一は顔を近づけた。甘い香りをゆっくりと吸い込み、そして唇を掠めるキスをする。

「俺は一度も離れたいとは思ったことないよ? だから、悠人こそ離れないで」

 悠人はうなずいた。

 二度と離れるなんてつもりはない。そんなことを考えたら狂い死にそうだ。

 この香りを知ってしまったら。あの瞳を知ってしまったら。もう離れるなんて考えられない。

 それはこの一ヶ月ちょっとの間で出た答えだった。薬を飲まず迎えるヒートを受け入れることにしたのも、その為だった。

 思いのほか早くヒートが来たのは、ずっと薬で抑えてたからだろうと冬真は言っていた。


「ずっと、一緒にいるから……だから」

 そう言うと、純一は悠人を抱きしめ伸びた髪の襟足を手で掻き上げた。

 唇を寄せ、そして軽く歯を立てる。皮膚を突き破るような衝撃はなく、ただ軽く甘く噛んで口づけ離れて、純一は蕩けるような瞳を細めて言った。


「ここ……ゆっくり噛んであげる」


 悠人はうなずいた。

 指先が先に触れた場所をなぞりぞくりと熱が走る。

 外の季節は秋に彩りを変えている。

 自然の金木犀の香りよりも、さらに甘く芳しく。ただ世界で二人だけが堪能出来るキンモクセイの香りに包まれて、二人はどちらからともなく唇を合わせた。


<終>

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