5.今度は俺がそうなりたがそうなりたい
俺は勇気を出してもう一つの事も聞く。
「今年の夏休み、実家に行ってもいいですか?」
母さんは驚いたように固まった後、頷いた。
「血の繋がっていない私に引き留める権利はないもの」
「は?そんなわけないだろ!」
「あるわよ。それに朝陽の事を放置した…」
「それとこれは別だろ?」
「でも…!私は朝陽を引き留めれないっ!」
「母さん!俺にとって母さんは他でもないあんたなんだよ」
俺は必死に諭すように母さんの瞳を見つめて言う。
でないとこの人は簡単に頽れてしまいそうだったから。
「だから、止める権利はあるよ」
「朝陽…」
茫然としたように母さんは俺の名前を呟いた。
それはまるで幼い女の子のような面影があった。
母さんと父さんがどこですれ違ってしまったのかは知らない。
だけど、何があっても俺は母さんの味方だよ。
俺の事を愛してくれている事を今日、知ったから。
味方になりたい。
傷ついているこの人の。
父さんの事だって嫌いじゃない。
だから、この夏休みに向き合いに行くのだ。
あの時は、中一の時は目を背けてしまった事としっかりと向き合いたいから。
今だって不安で押しつぶされそうだぜ?
でも、春日が一緒に行ってくれると言ってくれたからもう大丈夫だ。
俺は強くなれる。
支えてくれる人がいるから俺は強くなれたのだ。
あの日の少女。涼花だって同じだ。
俺が中学生まで頑張って生きて来られたのはあの日、彼女と出会えたから。
涼花という希望の道しるべがあったからだ。
今度は俺がそうなりたい。
母さんの希望になりたいのだ。
そうして、俺は母さんと向き合えた。
夏休みに実家にも行ける事になれた。




