プロローグ 夕焼けと過去
今もはっきりと覚えている。彼女と見た儚く輝く夕焼けを。
あの日、僕は恋をした。彼女の今にも消えそうな夜空の様な微笑みに。
あのさ―言いかけた言葉をさえぎるように涼花は「じゃあまた明日」と去った。
この時から僕自身も薄々気づいていた。だけど、必死に気づかないふりをして…。
夏休み元好きだった人に告白をした。本当にバカやな。
好きやと自覚するのが怖くて手遅れになってしまった。それなのに…。
自分が悪いのに森田君のせいにしようとしてしまう。
こんなのじゃ涼花に嫌われてしまう。わかっていてもこの気持ちは止められない。
恋だと認めたのは夏祭りの日や。夕焼けの中、走って夏祭り会場に向かった。
涼花を見つけた。とても可愛くて綺麗な浴衣姿やった。その横に森田君がいて…。
傷ついている自分に気づいた時、あぁ恋をしているんやと認めた。
本当に辛くて今にも自分が壊れてしまいそうやった。悲しく自分がバカらしくて。
もっと早く認めていたらって何度も思った。あの時あぁしていたらって思った。
そして、今にも終わりそうな儚い夕焼けの中、走って僕はまた家に帰った。
森田君より僕の方が涼花を幸せにできるって思うがやっぱり自信なんてなくて。
弱い臆病な自分が大嫌いになった。夕焼けの中、涼花にふられた事を思い出す。
森田君が好きだって気づいてしまった。翔君本当にごめんね。
と彼女は泣いていた。涼花が勇気を出して言ってくれた事は重々承知している。
だけど…とても傷ついた。やっぱり僕じゃダメなんやって思った。
涼花が声をあげて泣いているのを初めてみた。
きっと今までは気を遣っていたんやと気が付いた。受け止めた。涼花の本音を。
受け止めるしかなかった。好きな人には幸せになってほしいから…。
そんなありきたりな綺麗ごとを呪文のように思い続けるしかなかった。
僕は、春日 翔はそんな人間や。綺麗ごとと遠慮の塊や。
ルールは守る。先生の言う事は守る。そんな人間や。他人の幸せを祈る。
親の為にがんばる。そして、そう思う事が正しいと心から思っている。
人には優しく自分には厳しく。人に迷惑をかけてはならない。そう思っている。
だから、自分のせいで必死に悩む涼花を見ていると嫌だった。
人を困らせてしまうなんて。ましては好きな人を…。
日に日に壊れていった。自分でも気づいていない。僕の『正しい』を貫いていた。
ふと、あの日の夕焼けがフラッシュバックする。夕焼けの中大泣きする兄を。
心から友達の事を想って泣いている兄を見ていると僕は落ち着かなかった。
なぜか無性に怖かった。友達ってなんやろう。友達と呼べるものがなくて。
誰かの一番になりたい。そうじゃない自分にとっての一番を探していた。
人に優しくしなさい呪文のように言われた言葉が頭から離れない。




