〜6〜 市役所体験
この作品は「てんひじ」と略してくれると嬉しいです。
しばらく目を閉じていた。それでも懸命にまぶたの裏側に届けようとする熱い日差し。あたり一面に感じる軽快な人の声。どこからか流れゆく水音。俺の過ごしてきた世界とは何ら変わらないというようないつもの日常。いつもの風景。そう言い切れる気さえするような確かな居心地。
あれ、帰ってきたのか。
いや正確には還ったというべきか。俺はあの世界からこの普通な異世界にやってきたのだ。
...。
一言目は何にしよう。別に何でもいいだろと思ってしまうかもしれないがこういった転生の始まり、スタートには何かそれっぽいことを言うのが筋なのだと俺の培ったオタクスピリットが揺るがないのだ。
そしてほんの少し悩んでから清々しい気持ちになる。だって目の前は新しい世界。何もかもが新しい。そういう現実に湧き出る気持ちに正直になりたいという本心が叫ぶ。俺はそれに答えることにした。お決まりっぽく、俺流に。
Hello,Wold!!
目を開けるとゲームでよく見た洋風で中世的ともいえるような景色。かといってどことなく建物や人、自然に宿る信念が現代にも通ずる水のようなしなやかさとも感じ取れるようなまさに未知との遭遇。そんなワクワクに満ちた俺をまるで知らんぷりするように当たり前にこの世界を日常として暮らす人々。だけども疎外感は不思議と感じなかった。きっとこの心の温かさこそが天界の持つ気質なのだろう。ただここにいる。それだけで俺は微笑みに満ちていた。
俺が一言目を発した場所はどうやら広場らしい。公園というのには少し遊び人も遊具もないだだっ広い平原平地。素直にそよ風が気持ちいい。俺の湧き上がった独り言に少し注目するもすぐに向き直る人々を見て少し恥ずかしくなっていたちょうどその頃、向こうのほうで何やらブースのような物をやっているのが見えた。うっすらと慣れた手つきで動き回る方と俺のようにこの現実にふわふわしてる方が雑多しているようだ。すると突然、
こんにちはー!ようこそ天界へ!
あのブースのスタッフ側の方が話しかけてきた。街中で話しかけられるのは久しぶりな気で戸惑う。
天使見習いさんは向こうの天界仲介所までお願いしまーす!
華麗なスマイルでそう言うと彼は俺に一つのチラシを分ける。どうやらまず俺がすることはあのブースに行って色々ここの手続きをするみたいだ。俺が慣れない感じでありがとうございまーす...と言い終わる頃には彼は少し先の方にチラシを配りに行った。というかよくあたりを見回す。ポツポツと俺のように人が立ちすくんでいるのが分かった。俺のような新人も結構いるのかと分かると不思議と仲間意識が芽生えた。
受付番号23番の方ー。5番の席までお願いしまーす。
時刻は日本でいうところの午後1時2時あたりといえるだろうか。まだまだ日照りは強いが俺のワクワクはその程度では収まらない。
5番の席にいたのはメガネのしっかりとした雰囲気のある女性だった。
日本から来ました。よろしく、お願いします。(キリッ)
俺は新世界をも受け入れる紳士の心の余裕を見せる。
はい、よろしくお願いします。そちらにおかけください。
反応はあまりよろしくないみたいだ。
天界へようこそたくみさん。私、仲介手続き所の佐藤といいます。
うーん、実にカタカナちっくでかっこよさのあるまさに欧州風のなま...佐藤!すごい日本!凄いぞ日本!
佐藤さんですか!?僕がいた国では多さトップに入る名字ですよ。
はい。その佐藤です。というのも私も日本出身なので必然かと。
あ〜そうでしたか、どうりで。
急に会話のテンポが近所に変化した気がする。
それではさっそく手続きに入りたいのですが本人確認のためここまでの付き人が誰でしたか教えてください。
付き人?
はい。迎神のことです。
あー、アリア様が迎えに来てくれました。
なるほど確認いたしますね。
佐藤さんはカタカタと慣れた手つきで指を弾き始めた。まるでタイピングでもするかのようなというより...
俺は少し受付側をズレた横目で見る。そこには...
パソコン!まさかの天界でブラインドタッチ!
天界でもパソコンってあるんすねー。
はい。私は事務作業はこれが一番やりやすいので。
まさに「事務」をするために生まれてきたような人の返答だ。
確かに確認が取れました。アリア付き人のたくみさんですね。ようこそ天界へお越しいただきました。
あ、ありがとうございます!
ということで天使見習いのたくみさんに今日してもらいたい手続きがあるのですがー、、、
佐藤さんはデスクトップの確認を両立しながらコンタクトをとる。
まずはカードを作ってもらいたいんですけどー。
キター!!!!
新世界!カード!といえばまさに!俺自身の能力値、強さを表すギルドカード的な!?ジョブを登録したりレベルを上げたり、魔法とか使えちゃったりするあの!!!
エンジェンバーカードを発行するのが先決ですねー。
エンジェンバーカード!?なんか聞いたことあるぞその語呂!
エンジェンバーカードを利用することで各種天界施設の利用が可能となりますのでー。
あ、なるほど。
それから転居施設のための転居届なんですけどそれに必要な住民票の登録からですねー。ということでまずはこちらのエンジェンバーカード発行規約なん、ですけ、ど、!
ドスン!
屈んだ佐藤さんは辞典みたいな書面を突き出した。
全144Pで構成されているのですがここでは重要な部分のみを説明しますので各種詳しいことは個人での把握となってます。また分からないことがあれば別途仲介所をご利用ください。もちろんうちでも対応いたしますので。
あ、はい、ありがとうございますう。
それではまずは1P目を開いて頂いてー、、、
その後も佐藤さんの熱心な口頭説明が続いた。彼女の親切心からくる理解度重視100%のプレゼンテーション。その満ちた優しさに嬉しさが湧くのと同時に脳がオーバーヒートしてしまい、後半の記憶があやふやなのは内緒にしておくとしよう。うん。その方がいい。
以上が規約説明になります。お疲れ様でした。
はぁいぃー、ありがとうございましてあー。
では次に転居手続きなんですけどーその、ため、、の、、、!
ドスン!
居住における居住規約から説明いたしますねー。
あともう一つ脳が欲しいと思えるくらいの大辞典が出てきた。
久しぶりの投稿。まだ終わらねぇ。ひじりってひじきみたいでいいよね。