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マルチ・ウィッチ:エグザンプル  作者: ギリギリ男爵(:゜皿゜)
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サイモン・シックス博士

 ガガ……ジジ……。

 何も見えず、上空の黒い影に飲み込まれたマチルダ。

 それまで轟音に充たされていた周りの音はかき消え、静寂につつまれていた。

 その静寂の中、かすかにノイズが聞こえている。

 強く閉じていた(まぶた)をゆっくりと開く。

 真っ暗で何も見えない。

 、、、。

 何かいる?

 あれは、何だろう?、、、“影”?

 上も下も、右も左もわからない真っ暗な空間の向こう側に、“影”の群れが見えた。

 『マ、、、チル、、、ダ、、、ガガ、、、マチ、、、ル、、、』

 自分を呼んでいる?

 “影”の群れから一つのシルエットが近づいてきた。

 『マルチ、、、、、、マル、、、ジジ、、、ナ、、、タノム、、、タ、、、ノム』

 影はマチルダに何かを訴えている。

 「何?なにが言いたいの!?」


 ーーその時地上では。

 上空の亀裂と影は、不気味な重低音を鳴らし続け、異変に驚いた十数名の兵士たちがザジーの周りに集まって来ていた。

 「参謀長、アレはいったい?」

 「、、、わかりません。総員警戒を怠らないように!神術使い(ディバイン・ワーカー)神術器(デバイス)の起動を許可します。準備して下さい!」

 「了解です!『神よ、我に力を!』」

 他の兵士に比べて、あきらかに上等な軍服と装備の四人の兵士が、腰に装着されているホルスターから円筒状の機器(ディバイン・デバイス)を取り出し、音声入力にて起動させる。

 「神よ、我に力を!」

 ザジーも自分のデバイスを起動させる。

 起動したデバイス表面の複雑な紋様が青白く光り、先端部分に(まばゆ)い光刃が形成される。

 (受信感度が良くないですねぇ、、、)

 ザジーはデバイスから形成された光刃が短いことを確認して舌打ちした。

 (あの現象が“神力波”を乱している?) 

 ザジーが兵士たちの前に進み出る。 

 「攻撃は考えなくてよい!防御に全力を注ぎます!」

 「了解!」

 他四人の神術使い(ワーカー)がザジーの横に並ぶ。

 ザジーを中心に、一般兵士を守るように神術使いたちが防御バリアの準備に入る。

 (マチルダ、大丈夫ですか?)

 ザジーがあらためて上空の黒い影を見ると、影は巨大なトカゲのようなシルエットに変わっていた。

 不意に影のトカゲが巨大な口をあける。

 「上空に高エネルギー反応!」

 調査用の計測器を携えていた一般兵士の一人が叫ぶ。

 グゴゴゴゴゴ、、、。

 グガーンンン!!

 影のトカゲが巨大な火球を吐き出した。

 「バリア全開!」 

 ザジーが叫ぶ。

 神術のバリアが展開さたのと同時に、上空から放たれた火球がザジーたちの数百メートル先の地上に着弾して廃墟を吹き飛ばす。

 その圧倒的な熱量の炎と爆風に耐えるバリア。

 「一般兵は頭を低く!」

 神術使いの一人が叫ぶ。

 強烈は熱波は、安定しない神力波のバリアでは防ぎきれずに熱風の一部が兵士たちに襲いかかる。

 焼かれて熱に喘ぐ兵士たち。

 「皆さん、耐えて下さい~!」

 ザジーが叫び、上空を睨み付けると、上空の亀裂と影トカゲがスゥ、、、と消えていき、箒に乗ったマチルダが爆心地に落下していくのが見えた。

 「動ける者は負傷者の手当を!」

 そう指示を出したザジーが、マチルダの元に走り出した。ーー

 

 「マチルダァァ~!」

 「はっ!?」

 遠くで叫ぶザジーの声で、マチルダは目を覚まし自分が落下しているのに気づく。

 腰に装着していた杖を爆心地に向け呪文を唱えると杖の先端の魔力結晶が光り輝き、炎の一部分に円形の水溜まりが出現した。

 「大丈夫よ、ザジー~!」

 マチルダが手を振って(こた)えると、それを視認したザジーも手を上げて返す。

 それまで老体に鞭打って大活躍したザジーだったが、さすがに体力を使いすぎたのか、その場でガックリと膝を着き、追いかけてきていた二人の兵士に支えらて来た道を引き返して行った。

 それを見てからマチルダは魔術で作り出した水溜まりに降り立つ。

 ポツリポツリと雨が降ってきた。

 じきにこの炎も消火されるだろう。


 ザジーが去っていった方向を見ていたマチルダが、何かの気配を感じて振り向くと、そこには煤で汚れた一人の子供が立っていた。

 ようやく一人で立ったり歩いたり出来るようになるような年齢に見える。

 子供は上を向いていた。

 その顔は無表情で、目は虚ろだった。

 子供がマチルダに視線を移す。

 その子供の虚ろな目と視線が合った瞬間、マチルダの視界は歪み、意識が引っ張られる感覚に陥る。

 「やぁ、はじめまして」

 先ほど上空で見た真っ暗な世界にいた“影”の群れから一人のシルエットが近づいて、マチルダに向き合う。

 今度はノイズではなく、ハッキリと声が聞こえた。

 「どうしてもキミに会いたくてね。申し訳ないがキミが管理してる次元断層を(いじ)らせてもらったよ」

 「、、、あんた、誰?なぜ、そんなことを?」

 マチルダは声を出していない。思考が“声”として出力されていた。

 「わたしは時空物理学者のサイモン・シックス。シックス博士とでも呼んでくれたまえ。どうしてもキミに頼みたいことがあったんだが、緊急事態が起きてね。キミに来てもらうにはそうするしかなかったんだ。おかげで、こうしてキミに会えたわけだ」

 影のシルエットが徐々に明度を増し、その人物の顔を浮かび上がらせる。

 白衣を着た若い銀髮の男だった。

 「どうやら、わたしを含めたこの街の住民は、次元断層の内部にとり込まれてしまったようなんだ。知ってのとおり、次元断層の中は次元潮流が吹き荒れていて、生身の人間は一瞬で粉々に引き裂かれて死んでしまう、、、。ここまでは誰でも知ってることだが、どうやら原子レベルにまで分解された肉体は()()()()で再構成される、、、見てのように半物質化してしまってはいるがね。人格や記憶の連続性は保たれている。そちらの世界(向こう側)戻ろうとしたが、それは無理なようだ。なかなか魔獣や魔物のようにはいかないね。彼らと我々では“存在”のレベルが違うらしい」

 シックス博士はうなだれた。

 「こうなってしまって、わたしもこちら側で色々と試してみた。彼らと協力してね」

 シックス博士が後ろに控える影の集団を見る。 

 「そしてわかったことだが、この世界に存在する全ての次元断層は同じ場所に繋がってる。それが()()だ。そして、今の状態なら他の次元断層を少しこじ開けることが可能だったんだよ。それで、近くの次元断層から覗き見して、キミを見つけた」

 シックス博士は両手を広げてニヤニヤと笑った。

 「いや~、うれしかったよ。こんな近くに、こんな力を持った()()がいたんだから!」

 「あたしは悪魔じゃないわ!」

 マチルダがシックス博士を睨み付ける。

 「いや、失敬。こちら側にいると、そちら側の過去が少しだけ()()()ようになるんだ。失礼だとは思ったが、キミの過去も少し見せてもらったよ?マチルダ・フレンジー。そうだな、キミのことは“魔人”とでも呼んだ方が良いのかな?」

 「“魔女”よ」

 「わかった。では“帰らずの森の魔女”。改めてキミに頼みたいことがあるんだ」

 シックス博士はニヤニヤと笑っていた。

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