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1−2

 その部屋は、趣きに溢れている。壁は、丁寧に彫り込まれた木材で作られたパネルで覆われており、暖かみのある茶色に塗装されている。


 部屋の中央には、木製のベビーベッドが置かれている。ベッドの柱には精巧な彫刻が施され、そのベッドには繊細な刺繍が施された絹の布団が敷かれていた。部屋の壁には、タペストリーや壁飾りが飾られており、また、大きな暖炉が部屋の一角にある。


 今しがた生まれたばかりの赤ん坊は、柔らかな光の中で眠りから覚めた。眩しい光が目に入り、まばゆさに目を細める。その光が彼を包み込み、ほんのりと暖かみを与える。彼はいつもとは違う感覚に戸惑いながらも、穏やかな雰囲気に包まれていることを感じ取った。


 布団の中で身を起こそうとしたが上手くできず、代わりに周囲を見渡す。彼の周りにはやわらかな布地が広げられており、空気は清新で、花の香りや木々の匂いが微かに漂っている。窓から差し込む光は部屋を照らし、小さな粒子が輝いているように見えた。


 さっきのは、夢だったのか?酷い夢だった。引きこもりみたいな生活を続けること約2年半、そりゃ悪夢の一つでも見るよな。そう納得しそうになった。少女に触れた感覚も残っているし、固いコンクリートに叩きつけられた衝撃、そして突っ込んでくる自動車のライト。全ての情景が音、匂い全てと合わさって鮮明に覚えている。ついさっき経験したことのように。


 寝すぎたかもしれない。それにしても体がおかしい、フワフワと浮かぶような感覚、とにかく体が軽い。いったいどうしたのだろうか。さっきの布だってそうだ。実家ぐらしだが、自分の親がそんなことを今更するはずもない。それどころかいい加減愛想を尽かした頃じゃないだろうか。


 誰がなんで俺なんかのために用意してくれたんだ。そこで、まじまじと部屋を見渡してみた。見知らぬ天井、部屋の様子も自分の家とは全く異なっていることに気づく。


 周囲の音にも耳を傾ける。部屋の外からは鳥のさえずりや風の音が聞こえ、どこか遠くで穏やかな音楽が聞こえるような気がする。驚いているはずなのにそれは彼の心を安らかにしてくれるような気がした。そして、この部屋の中には自分一人だけではないことに気がついた。


 彼が生まれた瞬間、部屋には喜びと幸福感が満ち溢れた。母親の目には涙が宿り、父親の顔には幸せな笑みが広がっている。彼らの手には小さな赤ん坊が抱かれ、その存在が彼らに新たな喜びをもたらしていることを示していた。母親は幸せの涙を流しながら、優しく赤ん坊の頬を撫でる。


「あぁ、あなた見てこの子を。なんて可愛らしいの。生まれてきてくれてありがとう」


 何だこの子?この人?えらく可愛い。率直にそう思った。彼女の髪は、柔らかな金髪であり、太陽の光を受けると輝くような明るさがある。目は、穏やかな碧色であり、その深い瞳には優しさと温かみが宿っていた。その容姿は可愛らしさと女性らしさが見事に調和していると言えよう。日本人離れしている。なにか話しているが言葉がさっぱりわからない。ヨーロッパのどこかの言語かな?北欧とか。


 今度は父親は息子を優しく抱きしめ、幸せな笑みを浮かべながら彼の小さな手を握る。彼の目には誇りと喜びが輝き、この小さな生命が彼の人生に新たな意味を与えていることを感じている。


「でかしたぞ、よくやってくれたマリエル!俺達の子だ。しかも長男だ、跡取りだぞ」


 何だこいつ?彼は黒々とした髪に、深い栗色の目を持っている。身長はやや高めで、広い肩幅と引き締まった腕がその力強さを物語っていた。しかし彼の笑顔と深い眼差しは見ず知らずの男だったが、不思議と嫌な感じはしなかった。まぁ、敵意はなさそうだ。堀も深いし、この人も外国人だろうな。


 男に抱かれる趣味はないが、はて?大の男の俺をなんでふたりともこうも軽々と持ち上げられるんだ?そう思い自分の両手を見てみる。小さくて可愛らしい手がそこにはあった。そうまるでそれは赤ん坊のような手の平ではないか。加えてこの2人の喜びよう、祝福の雰囲気。察するに……。


 どうやら俺はこの2人の間に生まれてきだということらしい。なんてこったい。


 ということはさっきまでのことはやっぱり現実で俺はあの時死んだっていうことなのか。そう思うと心残りにも思うな。まぁ、でも人生行き詰まってたし、これで良かったのかもしれないな。


 あまりにも異常な事態が起きると、人はかえって冷静に思考するものなのかもしれない。何にせよ彼は新しい人生を始めることになったようである。


 これは輪廻転生ってやつなのか、ほんとにあるもんなんだなぁ。神様や仏様、天使とかにも会ってない、そういえばあの世にも行ってない。それは次回までお預けってことか?


 まぁ天国には行ける自信なんて全くなかったし、ちょっと安心した気がしないでもない。何にせよ、こうして生まれ変わらせてくれて感謝しないとな。ありがとう。


―今度は少しは世のため人のために頑張るとするか―


 しかし、せっかく生まれ変わったんだし、しばらくは楽しませてもらうとするか。


 彼はこうして生前の先延ばし癖をキープしたままこの世界への転生を遂げたのだった。


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