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第三節 悪い魔族と、無知なる人類 1

おはようございます。

ようやく物語が動いてきたと思います

 どういう表情で迎えればいいのか、悩む事は今までにあっただろうか?

 少なくてもエトワが生きてきた中でそんな経験はないのだろう、だって彼はいつの日も人との対話に興味を持って生きてこなかったのだから。

 エトワという個人は何か一つに執着する人間だ、それが星空の下で見た幻とも捉えられる一瞬の出来事、その再現という日にちが経つごとに薄れる記憶の完全な模倣という無理難題、それ以外の事は彼の人生にとっての何の価値もない事だった。

 だからエトワはこう語る、そこに居るシエルという少女は他人なのだから他人事として。

「そっか、それは大変な事だ。そうまでして生きなきゃいけなかったんでしょ?」

「アナタなら別にそう答えるわよね。そうよ、そうまでして生きたいと思ったの、同族を屠った時に抱いた感情(もの)は案外アナタと同じなんじゃない?」

 驚いたと言わんばかりにシエルは瞳の奥の瞳孔が開く、同情や侮蔑そういった感情を送られると悩んでいた自分が馬鹿らしい、改めてエトワについてシエルは考える。

 そうだったじゃないか、エトワという個人はそういう奴だったじゃないかと。

「そろそろ村の中につくわね、探知距離を広げて魔族が来たら知らせるからアナタは好きに探索していていいわよ」

「行かないの?シエル。同族と会うのだって久しぶりなんじゃ?」

「そもそも生きているかわからないじゃない。アナタが言った視線だって本当に同族の視線かもわからない、だから私は期待せずにここで待たせてもらうわね」

 崩れた家屋にシエルは腰をかけ、ドスンとも音が出そうな勢いで座り込む。

 彼女も流石に華やかな女性の一人、そのような音が鳴る筈も無いのだが、考えてみれば今日一日、休憩という休憩を入れていない。

 であればシエルの態度こそが普通なのかもしれない。

「そう、まぁいいや。まだここに魔族は居ないんでしょ?」

「いないわよ?もし居たらこんなところでのんびりしている訳がないじゃない」

「じゃあすぐ近くだ、気配がする。………いま上手く忍んだね」

「近くに居るのなら先にいいなさいよ!私を一人置いてけぼりは寂しいじゃない!」

 この村に生きた人類がいるのなら、きっといきなりの大声に体を反応せざるを得ないだろう、だからこそ潜伏しひっそりその場を凌ごうとした人類も簡単にあぶり出される。

「えーめんどくさぁ、そんなに寂しがりやだったっけぇ?」

「はっ…………ちょっと待って今の無し、聞かなかった事にしておいて」

「どうしよっかなぁー?次の街に行った時の路銀管理は俺っていうのでどう?」

「それじゃあ魔道具が買えなっ……………って見つけた『魔法・私の前に現れて(アパレーモア)』」

 シエルの魔法を詠唱と共に瓦礫下で息を潜めていた魔角族が姿を現した。

「わっ、えっ、魔力を消していたのに…」

 現状を理解できずに運ばれるは、この世全てに絶望しきった瞳とそれでも未だ消せない同胞に送る復讐の祝電を諦めていない敵意が丸出しの顔。

 長らく水浴びもしていないであろうボサボサな銀髪はそれでも夕陽に反射し元は綺麗な髪だったことを想起させ、幼い顔には似つかないヤギの様に捻じ曲がった大きな角を持ち、本来は憎しみなどとは無縁に学びを受けられる、齢15にすら満たなそう少女が居た。

「君なんだね視線をくれたのは、………シエルが強引に連れてきたから敵意マシマシだよ、どーしてくれんの」

「私に言われても知らないわよ、無駄を省くために引っ張ってきただけじゃない」

 ある程度の拘束が効くのか、魔角族の少女はこちらを殺意という凶器をもって睨みつけるだけで何も発言はしてこない。

 なによりシエル言葉に悪気が無いのが、なお悪い状況を引き寄せている。

 魔角族は魔法を使える者にとっては喉から手が出る程に貴重な“素材”だ、その意味を知っているからこそ魔法を使い捉えたシエルには買った覚えのない恨みすら向けている。

「シエル一旦この子を解放してあげて」

「はいはい………っと危ないじゃない」

 宙に浮かせられていた状態から解放されたと同時に、狙いすませたかのような一閃がシエルの首元まで空気を貫き、そして首には届かず静止する。

 エトワが止めると信用していたのか、それともそもそも少女の刃はシエルには届かないと決まりきっていたからの余裕なのか、あと数ミリ進めば死という現実を前に薄ら笑いを少女に見せる。

「挑発は程々に、……まず君に言いたい事があってね、俺達は君を助けに来たんだ。君以外のお仲間はどこかな?」

 精一杯の優しい声を喉から出し、慣れていない作り笑いを少女に送る。

「全員殺した…、私が!………皆は私が助かる為に自ら首…を…オェッ…うッェ…、だから皆の代わりに貴方達を殺す!」

「そう大体わかったわ、今は休みなさい。……アナタがそうしたいのもわかるけど、アナタにはきっと無理だから」

 首元に杖を当て、詠唱すら必要としない簡単な魔法を使ってかハイになっていた少女を眠らせ、シエルの上着を少女に被せる。

「あの状態じゃアナタも聞き出せないでしょ?魔力の形跡で大体の事はわかった説明は…、必要そうね」

「簡潔にね、夕暮れ時をめがけて進軍、やっぱり間違っていなかったみたいだ」

 エトワとシエルが目をやった先に見えるのは、夕焼けで照らされた赤黒い鱗を持った兵士の群れ。

 竜の様な鱗という言伝に聞いた通り、なんとも堅そうな見た目をしている魔族だ。

 救いとしてはリザードマン族と違いその鱗はワニの様な硬さは持っていない事、ようは見掛け倒しの見た目と見かけ通りの重そうな大斧を担いでいる、だがその情報だけが全てという訳もあり得ない、ならば彼らという存在は人類に属するべきモノだから。

 「ほぉー?馬鹿な人類しかもただの人如きが魔族に盾突くとは…、随分舐められたモノだな!」

 態度からしてもやはり魔族というのは、人類を下等種族として扱っている。

 シエルが語った人類と魔族の考察は間違ってもいなかったらしい、だがその傲慢さこそが人類にとって何よりも手繰り寄せやすい命綱だ。

「頭を取れば終わるのか…、それとも全滅させれば終わるのか…」

「魔族相手に勝てるのは2割。私たちはどちらかしら?」

 シエルが杖を構え魔力の防壁を展開させ、気を失わせた魔角族と自分達を区切る。

「人間如きが魔族に逆らったらどうなるかわかっているのか?そもそもその女の価値をお前達は気づいているのか?ただの善意でやっているのなら滑稽だ」

「残念ながら魔族に逆らうのはこれが初めてなんだ、どうなるか教えてくれよ」

「アナタ達竜鱗族こそ大丈夫かしら?魔族でも下級のアナタ達が人類二人に負けたとしたら、アナタ達は一体どうやって魔王様とやらに報告するのかしら?」

 弱いモノができる強者の余裕を無くし、こちらを優位にさせる方法が一つある。

 安い挑発だ、普通ならば乗らない。けれどこれは大金が動くモノに身の程知らずのガキが大人の邪魔をする構図だ、故に売り物に傷がつけば損失も計り知れない。

「上等だ……腕の一本で許してやろうかと思ったが、もうそうはいかねぇ!野郎ども加減はいらねぇ、蹂躙しろ!」

 故にその安い挑発にも乗る。

 相手がその何も考え無しで突っ込んでくることを望んでいたとしても、人類よりは優れている魔族だ。

 リザードマン族とは違い普通に魔法も使えるし、身体能力も比べ物にならない。

 彼らは千年以上も、この世界の上位種として君臨する魔族なのだから。

「『魔法・顕現(マナ・ステーシオン) 瑠璃色刀』…いつも通り雑魚はよろしく、俺は頭を獲ってくる…」

 魔法によって顕現させた刀剣をその手に取り、腰元にとりつけると同時にエトワは姿を闇夜に消した。

「いつもどーり私が死守して後ろから……ってもういないじゃない!」

 闇夜に紛れ姿を消したのではなく、己が出す最高速度を持って相手の認知を掻い潜る、ある体質の引換としてか生まれた時から持つエトワの異常性でもある。

「おう嬢ちゃん相方は……」

 何かを喋りきる前に竜鱗族の上胴体が消し炭になったかのように消失する。

「アナタ達には興味が湧かないわ………だから死んでもらえるかしら?」

 自身の魔力を打ち出すだけの魔法の詠唱すら要らない、そもそも攻撃ですらない初歩中の初歩である魔力の放出、敵の戦意を煽るには大きすぎる花火を打ち上げる。

 その瞬間から人類対魔族の戦いが始まった。


ここまで読んでいただきありがとうございました

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