第二節 魔族とは、人類とは 2
おはようございます
今回もよろしくお願いします。
もう少しで話が動き始めます
「この辺りでいいわ、多分魔族であってもこの距離ならば探知も届かない」
「それなら良かった、一瞬視線を感じたんだよね。魔族かは知らないけど」
毎日のように森の中で水面が揺れず鏡面であるかのようになるまでの精神統一をし続けた人間のいうことだ、視線を感じたそこに間違いは無いのは確かであろうが、それがどういう視線なのかを理解する程には、彼の技量と経験では少し心もとない話であったのだろう。
自信のない彼の言葉にはどうしても、最後に保険が付いている。
「生存者がいるのかしらね?まぁ居たら居た時ね、なによその顔…傷つくじゃない」
「居たら行くの?わざわざ?情報を集めて?」
「そ…まぁアナタが旅の主なんだもの、エトワという冒険者がどうするか好きにするといいわ」
先程助けると言った言葉とは裏腹に興味も無さげにシエルは答える、彼女は一体なんなのだろう?エトワとの冒険を望んではいるが彼の冒険に関する方針に基本口は出さない、何よりエトワという個人以外を見ていないのだともとれる考えだ。
まるでそれ以外は道端に生える雑草、それに類する何かと変わらないと自ら公言しているようで、冷たい人物だという印象を多く受けるかと思えば、先ほどの様にどうでもいいところで意地の張り合いを行うような可愛らしい一面も持っている。
「私が決めていいのなら一度くらいは行ってみるけれど?わざわざこんな辺境を魔族が襲っているという事は何かがあるのだから。まぁ目標が魔王と言ったのはエトワ、アナタだものあなたの好きにしないさいな」
「まぁ情報とあの村の現状把握、あとは路銀や見込み…かな?」
興味があったとしてもシエルはそれを意図も簡単に切り捨てられる、それはエトワが持つ価値観とは明確に異なるモノだ、彼は興味があるモノには絶対に食いつき、無いモノは要らないで過ごしてきた人物であるからこそ、こうして判断を任された経験も数少ない。
「どーしよ?いつもは流れに任せてってやってきたから…、村に着いてからでもいい?」
「色々やらない理由を探す割には、見捨てるというカードは最初に切らないのね、案外優しいところもあるじゃない」
先に足を進め、こちらに顔を半分振り返り不適に笑う。まただ、またシエルという少女がまるで人ではないモノに感じられる。まるで話に聞く人類を同等である筈の知性生命とも扱わず、観察対象の一家畜と変わらないと言いたげな魔族の様に狂気を孕んでいる目。
その瞳がやはりエトワを捉えている。
(初めから行く気のある彼女の方が、幾分か人間らしい。結局俺は善いか悪いかが全てだ)
その目に背筋を凍らされるような感覚を覚えながらも、エトワは彼女が見ていない後方で笑みを零す、もし彼女が魔族であるならばきっと彼女は人よりも人らしいとそう考えた。
「なーにを笑っているのかしら?面白い事でも発見した?」
「シエルのニタニタした顔を見て笑っていただけ。その顔あまり人前でしない方がいいよ」
「それなら大丈夫、きっとアナタの以外が私を愉快にさせる事はないから」
「…なんだそれ?」
エトワが観察対象なのは理解できるが、エトワという存在以外はシエルという存在にとってまるで騒音とまで言いたげな言葉だ、アナタ以外というにはまだ世界人口の1%とも会っていない程にエトワ同様世界に対しては無知だろうに。
その彼女がまるで世界を見てきたような発言をするのは、若干子供らしい。
昼に腹の虫が鳴く前になんとか森を挟んだ隣町に辿りつく、ただ森を挟んだだけの立地でどちらに行こうが大して代わり映えはしないというのにこちらの村は、あちらがどれ程の惨状なのかも知らずにのうのうと暮らしている。
「ほぼ同じ立地に壊滅した村があるとは思えない活気さだな」
「活気ねぇ、呑気と例えた方が正しいんじゃないのかしら?隣の村に魔族が来ているなんて知らない訳がない、殺しがあるなら悲鳴も聞こえるもの」
「知っていて知らぬフリをしていると?」
まただ意味ありげにシエルはニヤリと口角を吊り上げる。推測が正しいことを証明するかのように、そして人という生物は随分醜い生物だと彼ら村人の前で説く気ですらいそうな少し人に向けるには歪んだ瞳。
「俺以外は君を愉快にしないんじゃなかったのか?」
「いいえ私は嘘を吐かないもの、これは愉快なんて感情なんかじゃないわよ」
愉快ではない、けれど恍惚としたような表情は研究者の好奇心か。
あるいはもう少し悍ましい方向性で考えた方が良いかもしれない、だがそこまで執着する話でもない、彼女は嘘をついていないこれは紛れもない真実というのは、人間関係の乏しく人付き合いというステータスが0にも等しいエトワにですら分かることだ、故にその言葉に嘘はない、裏はあるだろうがという話なだけ。
「まぁいい、聞き込みをする。黒か白か、そもそも何が黒になるのか、それを決めるのはその後だ」
「奪われる命に価値があるか、自らに問いかけでもするのかしら?傲慢ね」
「よくわかったね、俺は傲慢だよ。こちらから手をさし伸ばせば何かが変わるという確信めいたモノを持っている。結局の所どちらに手を伸ばすのが善いことか決めるだけだよ」
「そうなの、まぁそういうことなら私も聞き込みをしておくわね、遅かれ早かれ夕刻にはあの村に付いていないと間に合うモノも間に合わないもの」
「忠告ありがと、まぁ手短に済ませるよ。俺も君も人付き合いに自信はないだろうし、断片的な情報しか得られないだろうしね」
「アナタよりはまだ私の方がマシじゃない?」
シエルが語った内容は鼻で笑いたくなるような、目くそ鼻くそあるいはドングリの背比べもいいところ妄言ゆえにエトワは放って置くことにしたようだ。
突発的にではあるが客観的に見て、実はこの二人パーティにはこれといった欠点がない。
前衛職それも防御の要である戦士と攻撃は物理攻撃を得意とする剣士はエトワが担当し。
魔法攻撃の魔法使いと治療魔法という後方支援はシエルが担当する。
それぞれの分野においては相当の高みに居る以上、穴というのは片手で数える程度の穴しかない、その片手数えられる内の一つが、人生というモノの中に誰かとの繋がりという考えを設けていなかった二人だからこそ生まれる、普通は穴になり得ない穴がそこにあった。
情報収集する為に話しかけるとし、パッと思いつくモノをあげるとするのなら行商人か村の人間全員が顔を出し会話をしそうな道具店、あとは口が軽くなっていそうな飲んだくれが居そうな酒場だろう。
「まぁ同じ部外者の行商人がいいか」
この村と反対の村に何かがあるとすればそこに土足で踏み込むのは後々の厄介に繋がるとエトワは考え、一先ずは一番の安パイであろう行商人の居る場所に足を運んだ。
「「ちょっといいか?」しら?」
ゲッと声が重なる、なぜ別行動をしようと言ってきた奴と最初に話しかける場所が被るのだろうか?それもこの村の住人が空くまで待っていたというのに。
「なにかをお探しかな?めぼしい商品は売れてしまったけど、まだ商品は残っている。仲良く見て行ってくれ」
行商人はこちらが仲の良い二人組とでも思って、好きに眺めるように伺いを出す。
「いや買い物をしに来たんじゃない」
「わー、このブレスレット………たっ……」
「…………ッチ…」「はい…」
何一つ感情も籠っていない棒演技と思わず出た本音、商品を手に取る彼女を見てエトワは鋭い目を向けすぐ違う事に逃げる彼女を邪魔と言わんばかりの舌打ちを送る。
「あはは…、君達冒険者だよね?お連れさんも一緒じゃなくてよかったのかな?」
「悪いが本当に買い物しに来た訳じゃないんだ、聞きたい事が一つあるだけでいいかな?」
「内容次第かな?情報とは高くつくものだからね、私の場合仕事にも関わる」
行商人の言葉を読み取るなら、見返りが無ければ渡さないという事だ。
それは当然の話しだろう、だがその見返りが金とは決まっていない、求めるのは見返りだ。
「あー、交渉事とかはできないからその後に答える見返りを言ってくれ、ここからちょうど反対西側の村で何が起こっている?なんでこちら側の村は知らない顔をしている?」
「…………、そう言えばここから南方に有効な魔族の関所ができたな、その手形が高くて困っていてね、冒険者さんは強そうだねぇ…腕に自信があるかな?」
「アンタはまだ何も答えてないぞ?」
沈黙の後に訪れた行商人による近況の報告、恐らくあの村を壊滅させたのはそこに居る関所を勝手に築いた魔族という訳だ。
「原因は知らないけど、この村の行動は余り褒められたものではなく、アンタ達の信頼に関わる問題なのか……」
行商人は一切の返事はしない、ただエトワからの視線は切った、つまり逃げた。
「魔族が………あー、実はあっちの村には金になる物品が大量にあったとか?」
「………物ではない…と思います」
案外正直に答えた、彼はあくどい商売をできないタイプだろう、根が真面目過ぎる。
「そうか悪かった、………あ、そうだこの村って何か珍しい主産物とかここだけで手に入る珍品とかあったりする?」
「それは無いと思うね、どこにでもある普通の村だよここは、気候には恵まれていると思うけどね」
「無理なお願いをしてごめんね、まぁ関所の事は本当に悪さしていたら何とかしとくよ」
推測で物事を判断することは良くないこと、けれど主産物もない珍しい品も無い村に来る行商人にしては価格が高いというより高級品が多い?もしかしたら道具屋も同じように高いかもしれない、そうなると益々隣の村に何があるのかという推測の幅が狭まっていく。
(道具店も高かった…少なくてもこの村で買い物は出来ないな)
道具屋も同じく普通の村にはまず必要ないであろう高級志向の品が幾つかある、恐らく野菜も肉もいい質のものを他の場所から買っているのだろう、それならば基本的に水準が高いのにも納得が行く。
「お兄さんは何か買っていかないのかい?自慢じゃないが良い品揃ってるよ」
道具屋の店主のばあさんにエトワは目を付けられる、入って何も買わないというのは確かに気が引ける、そこをついたいい商売だった。
「あ、はい、じゃあこの飴一つお願いします…」
エトワが声をかけられたという事は、まず先にシエルもここに来ていたという事であろう、そうじゃなければよそ者に“お兄さんは”なんて言い方はしない。
とどのつまりそういう事だ、ただでさえ高い店の商品を買わされた馬鹿は二人いたという事になる、先ほどまでの威勢の良さはお金と一緒に完全に消え去ってしまっていた。
「次の大きな街まで本当に路銀持つか?」
やはりそう心配せざるを得ないエトワなのであった。
情報収集はこれにて終い、これ以上を求めるならば自分の力ではなく魔法の力を持ったシエルの独壇場だろう。魔法使いは基本役立たない魔法もなぜか使えることが多いと聞く、故にエトワは最初に別れた場所でシエルを待つ事にするのが最善と考える。
「そっちは暇そうね?どう?アナタがあの村に行かなくていい理由が見つかった?」
「行かなくてもいい理由を聞くためにここで待っていた…、けどその顔を見るにやっぱり行くことから逃げられないみたいだ、話は歩きながらでもいいかな?」
「覚悟は決まったの、それなら話してあげるわ!大魔法使いシエルが魔法を駆使し手に入れたあの村の真相を!《魔法・噂話を絵画の様に(リュティール)》」
杖を構え魔法を詠唱する、朝方に見た雲を借りる魔法とはまた違う魔法だ。
その名の通りなのか浮かび上がってくるのは、あの村の風景画と幾つかの人物画そして明らかにあの村には居なかった竜の様な鱗を持つ者達の集団。
「で?……これで推測しろと?」
「ふふん、甘いわねこの魔法の凄いところは噂話が絵画から聞こえてくるところにあるのよ!見てなさい」
「見ているよ、さっきから」
一々言わんでもいいと思いながらも、エトワはその絵画を眺める。
なんとも味がある絵画だ、なぜだろうか?ほわわんという羽毛に抱き着いた時になりそうな音が鳴りそうな絵、こども向きの絵柄と例えるのが正しいかもしれない。
ぽわわんと、不気味にもこの絵画に引き込まれそうな感覚をエトワは覚える。
【ねぇ知っているかい?あの村の話を】
突如として語り掛けてくる絵画の中の住人に思わずエトワはビクリと体を揺らす。
脳に直接語り掛けてきているようで不快であり、そしてこども向けのタッチには見えない程に不安を煽る老婆のような声でこちらに語り掛けてくる。
【とある村にね、魔物の様なそれはそれは立派な角を持つ種族がいたんだよ】
老婆の様な声は怪しげに語り部を続ける、まるで絵本を読み聞かせているように。
【その種族は魔法に長けた種族で、自らの魔法の貴重さを知っていたから村を魔法で隠していたんだ。だから村への看板はあるのに村は無い謎の村だったのさ、そうあの時まではね】
二手に分かれる看板の片方が何故か整備されていないという点に合点がいく、その看板を当の本人たちが見ていのだからそれを判別はできないだろうが、まぁそういう事だった。
【隠れひそかに過ごしていた奴らだ、現代での生き方を知らない。だからこそ最初は悩んだ筈だ、悩み悩んで少ない時間で集められる限りの情報を集め、奴らは一つの行動を起こした】
気色が悪い嫌悪感を催す程の、純粋な悪意が籠った男の様な声に語り部が変わった。
そしてこの物語の終着点に凡そ想像がついた。
【私たちは選択を誤ったのです、私たちが使える魔法で出来る事はなんでも一つ叶える、それと食料の優先的な販売を願ってしまいました。ただの等価交換だと思っていたのです、けれどそうではなかった私たちは私たちの種族の貴重性をもう少し学ぶべきだったのです】
エンディングを示すかのように隅から絵画が消えていく、最後に語った少女はきっとあの村に居た誰かだったのであろう、もう存在せぬ誰かか、死を待ちゆく誰かか。
せいぜいエトワとシエルにできる事は、最後の語り出がまだ生きている事を願うくらいで、朝感じた視線があの村に残る誰かなのだとすれば、できる事言えば早くあの惨状を確認する、それくらいしかない。
「絵画の中で画策していた恐らく魔族…竜鱗族かな?竜の様な鱗を持ってはいるけれどって話を聞いたような聞かなかったような?」
「どの程度の数で来るかは知らないけれど、まぁ油断はしない事ね。私もアナタもトータスから出てきた新米冒険者よ、己が内にどれ程の才を秘めていても、それを忘れないことね」
実の所を言うならばこの世界の冒険者の死因において、魔族との戦闘という割合は恐らく2割も無いのだ、だがそれが魔族の脅威を示していないなんて事は当たり前なのだが。
「魔族と接敵すれば7割が生きて帰らない、残り3割の内訳は勝ち残る者が2割と五体満足では無くとも生き残れたか、それとも偶然を掴んだかが1割よ、それとアナタの体質含めれば一つの油断で7割に行くなんて誰が聞いても驚かないわ」
「もし本当にその時が来たら、俺を見捨ててシエルは逃げればいい。そーいう関係だろ?」
後ろで真剣な眼差しでエトワを諭すシエルに対して、エトワはシエルの忠告を聞いてもなお自らのスタンスを崩さない、最悪逃げればいいと考える故か彼を動かすモノは死などでは到底消せない炎だったのか。
「それよりもさ最後の語りで、出てきた貴重性のある種族って何?」
貴重性のある魔族、そして使える魔法で叶えられる事ならばなんでも叶えるという等価交換には重すぎる行動、それほどまでの魔法が使える種族がなぜ隠れて生きなければならなかったのか。
「ねぇー、本当に魔法が得意な種族ならやっぱ魔族と人の違いがその時代の下等生物だったかどうかって違うんじゃない?」
「さぁどうなのかしらね?でもそれならおかしい点が一つあるわ」
そう下等生物なだけであるならば、人からも魔族から観測されないように何百年も自らを隠し通していたという話がまずおかしい。
そうせざるを得なかったという理由があるとするならば、その種族は下等生物なのではなくもっと別の物。
「単純に魔法が得意な種族なら魔族になればいいじゃない、それをしていないという事はそうせざるを得ない理由があったという事、それが何だかエトワ…アナタには理解できるかしら?」
「…………魔法が得意過ぎて魔族ですら、その存在を恐れおののいたとか?」
エトワが少し考えた後、指をパチンと鳴らし一説を唱えて振り返るが、まるで違うとまでに言いたげなシエルの顔を見させられ、流石のエトワも少しだけ委縮してしまう。
魔族すら恐れる実力があるならば城塞でも気づいて都市化してしまった方が良い筈だ。
「まぁ簡単な話よ、あそこにいるのは魔角族、魔物のような角を持つ一族。混血を主流にすることになってからその欠点を克服したと聞いたけど、まだ存在したのね、純血の魔角族が」
「どういうこと?種を混血にしても欠点が生まれる可能性があるのに、混血にして欠点を消すって」
「その名の通り魔角族の角を消そうとしたのよ、あれは魔力の塊みたいなものだから。それを魔法使いが奪えば自身の魔力を使わずに、無償で魔法を行使できる。いわば素材ね」
歴史から名前が消えたと言ってもいい種族の特徴を事細かく説明するシエルを後目に見て、エトワは壊滅した村を視界の隅に捉えたと同時に安堵する。
まだ魔族の姿は見えない、これならばこちらに何かしてきた視線の主を探す時間くらいは確保できるだろう。
「まぁだいたいの事はわかった。この村が狙われた理由と魔角族が隠居生活を続けていた理由も、でもそれでも気になる点が二点ある、聞いていいか?」
「答えられる質問にだけ答えてあげるわよ?」
「じゃあ一つ目、気づいたら髪色変わってないか?シエルも俺も」
そう言われて初めて気付く程度には何一つ不自然さを見せずに髪色が変わっている、エトワは本来占めていたはずの茶色の髪色が黒一色になっていて、シエルの方は均一に入っていた紫色のメッシュが無くなりただの薄ピンクに、トータスに居た時にはあった筈の髪色が塗りつぶされたかのようにいつの間にか消えている。
「今更……、アナタ遠くからの視線には敏感なのに自分には無頓着じゃない?旅に出てからずっとよ、私たちみたいな髪色は不自然なの。視線を集めないに越した事はないわよ」
「そういうもんか?誰も気にしてなかったけどなぁトータスでは特に」
「トータスが例外的過ぎるだけ、日常に紛れればいつかはその不自然も紛れるって話よ」
エトワとシエル二人の髪色に共通点は無いが、強いて共通するところを上げるとするのならば二色になっているという事だろうか?
だがそれ位ならば、混血というのが一般化されているこの世界に置いて些細な変化にも思える、順を追って思い返せばきっとどの街にも一人や二人いるだろうこんな感じで髪色を分けている人なんて。
「安心しなさいな、人前に出る時以外はこの魔法は使ってないし、そもそも例えアナタが自分で使ったとしても三日三晩使えるお手軽魔法なのよ?これ」
「ほへー、まぁどうでもいいや、髪色なんて気にした事無いし…」
宿屋のベッドで寝れば今の3倍程度も酷い癖っ毛の様な寝ぐせになる男だ、髪が無くなるとまで行けば気にするだろうが、そこまで気にした事は無いのだろう。
「そうだ最後の質問、なんでそんなに魔角族に詳しいの?魔法使いとしての当たり前?それともシエルも欲しいのかな?魔角族の角」
ピタリと足が止まる、止まったのはシエルの足だけでエトワは何一つ構わずに歩みを進める、沈黙が答えという訳ではないのだろうが悩んでいるのは確かであろう。
風は吹きすさび、紫色を失ったシエルの髪が靡き訪れる静寂、誰がこの静寂を望んだのか。
別に望んじゃいない、ただ何気ない会話が誰かにとってのピンポイントである事もあるという事、今語るべきか隠し通すべきかをシエルは悩み、そしてやはり彼女は語りだす。
杖に腰かけエトワの前に躍り出る、待ったと言うかの様に。
けれど言葉は出ない、その言葉でパーティの解散もあり得るというシエルの過ち、ただ口から出そうという言葉は、恐らくシエルが持つ唯一の人生汚点だ。
旅を続ければいつかは明かす事になるのだろう、だからこそ彼女は今明かす。
「実は私こことは違う村の魔角族を全て屠った最悪な女なの、そして実は私も魔角族なのよ幻滅したかしら?」
ここまで読んでいただきありがとうございました