第二節 魔族とは、人類とは 1
おはようございます
苦情や批評、そして悪評は作者が喜びます
始まりの街トータスより、魔王を倒すという1000年かけても未だ叶わない大望を掲げてエトワとシエルは旅に出てから約三ヶ月程度の時が過ぎた、道々にある村や街に寄って物資の補充や依頼達成による賞金を得て、ある程度の旅が生活の主軸という環境に慣れ始めたころにふと思い出したかのようなエトワの疑問からそれは始まった。
「ふと思ったんだが、そもそも魔族と人の違いってなんだ?」
「藪から棒になによ?いきなり…敵か味方かの話しかしら?」
魔族が敵で、人類が味方それは当たり前、常識の事だからこそ理解できる。
だが人と言っても多種多様な種族が居て、魔族と言っても一言では説明できない程にはこの世界の種族間の繋がりはあり得ない程に多様化し、そしてそれらが矛盾なく暮らせている、ならば魔族間と人類間での明確な隔たりは何なのだろう、それがエトワの抱いた疑問だった。
「例え話だけど、魔物は人も魔族も両方襲うだろ?名前からして魔族が使役してそうだけどそうじゃない、そこが少し引っかかるって話」
「エトワ…アナタって案外というよりも剣技以外の鍛錬はサボって生きてきたのかしら?」
呆れ顔で問うシエルの視線もその口から発せられる発言も耳が痛い話だが、言い訳はできる決してサボってきた訳ではない。
「興味が無かったから、サボっていた訳ではない」
「それを人生においてサボりというのよ、まぁ簡単に説明してあげる」
歩きながらシエルは雲を種族間に見立て説明をする、黒板の様に分かりやすく縁取りを用意までしてくれて至れり尽くせりという言葉と、魔法とはとも万能なモノだと思わせる。
普通ならば地面に枝でも使って書く方が楽そうだが、確かに最初から図形など用意されているならそれを使うに越した事はない話ではあるか。
「まずこの世界を大まかに分けるわね、言ってしまえば知性生命と魔物あとは野生動物。魔物と野生動物の違いは、人に対して明確な害意を持っているかどうか…」
シエルはいとも簡単に知性生命と魔物そして野生動物の選別をそれぞれ雲に見立て指差しで選択し、目の前に浮かぶ板に転写する。その際既に疑問の種とは言えなかった魔物たちに関してはすぐさま雲を画面から弾いてみせる。
「流石に現実にまでここに映っている景色は反映しないんだな」
「あたりまえ、それがもしできる存在が居るのなら魔王以前に、一瞬で世界を掌握できるわよ。……(まぁ居たとしても傍観を選択するでしょうけど………話を戻すわね」
一度外れた会話というレールを元の位置に着地させ、今度は知性生命と選択した雲を大まかに数えて50程度にエトワは再び雲を切り取って再び講義を取り行った。
「魔族に関しては魔族との対話なんて殆ど話を聞かない以上知る由も無いけれど、少なくても人類という括りに関して説明できることがあるとするのなら、そうね…異種族間でも混血として子孫を残せるという事が明確な違いになるかしら?」
「その気になれば人とリザードマン族とかとも子孫を残せるって事?」
その話が事実であるならば、人と魔族の違いというモノの説得力ができる根本的に体系内であるか体形外であるかの違いこそが魔族と人を分別しているという話になる。
「そう単純なものでもないわよ、混血を作るというのはね、種の存続にも関わる大きな問題になるもの」
「見た目が蜘蛛で体が蛇みたいな化物が誕生するとか?」
「アラクネ族とナーガ族を掛け合わせた場合にはそうなるかもしれないわね…、というよりもエトワあまり想像させないで頂戴。私アラクネ族は苦手なの」
「それはよかった、旅のお供の隠された一面をゲットだ」
エトワという存在同様、シエルという存在はある一定のモノにしか執着していないように思える。
エトワという存在がその人生という自らの礎に剣しか記していないのと同時に、シエルという存在もまた魔法とそしてどこからか来たエトワという人への興味が大半を占めているようにも感じる。
とはいったモノのエトワとの違いはある、それは今も如実に現れているように教養の差だった。
それが人生経験から来るものならば一体シエルという存在は幾つなのだろうなどという邪推は程々にして置き、再び講義に戻るとしよう。
「最悪な例えだけれど印象には残るから混血についてはその例を使わせてもらうわ…。まず人類側は種族の関係なしに混血にできるという説明は聞いていたわよね?」
「そりゃ俺もそこまで馬鹿ではないよ」
「よろしい、ただしこれには大きなデメリットと制限があるわ、当ててみなさい?」
「さっき言ったように見た目が変になるとか?」
シエルは目を瞑り少し眉間にシワを寄せて考え始める、当たらずとも遠からずという答えなのだろうが、もう少し頭を捻って欲しかったという期待だったのだろうか。
「30点、混血の姿よりも混血による中身が問題なのよね、中身が混ざると言わばどちらの種族にも属しているが、どちらにも属していないという状況が出てしまう、だから血を混ぜるという行為の限界は約2世代までだと言われているわ」
「二世代か…種族としては致命的だね」
二世代目になった時点でその人は子孫が残せなくなる、そう聞くと大きな欠陥の様にも思えるがけれどそれは違うとシエルはつづけさまに口に出す。
「まぁ二世代というのは異なる血を混ぜる限界であって、たとえばアラクネ族とナーガ族の例えならアラクネ族とナーガ族ならば問題なく子孫を残し続けられるわ」
「なるほど混血の限界が二世代までという事か、それなら街で見かける混血?にもある程度説明はつく…でもそれって制限の方だろ?デメリットの方はなんなんだ?」
そうこれは制限だ、混血を進めることができるのは二世代までそれ以降は自らの血筋の種族としか交配できなくなる、そしてその交配が同種族間で幾度の年月が経てば混血という姿なんて忘れさられていることだろう。
「デメリットという言葉は正しく無かったわね、結果がデメリットなのであってその中身は至極当然、自然の摂理そのものだもの」
「だからそれが何さ、もったいぶらないで教えてよー」
エトワが子供の様にぶーぶーと駄々をこねる姿を見かねたのか、シエルは肩をすくめるもう少し自分で考えなさいと言うように、そそくさとシエルはエトワの先を進み始めた、それはもうズカズカと。
「教えてくれたっていいじゃーん、減るもんじゃないんだしー」
「自分で考えなさい、時にはそれも重要なの!」
駄々をこね始め、中々離れないエトワに嫌気が差したのか、シエルは自らの歩きエトワだけを魔法で浮かせ最後の議題の説明を彼だけの視界で開始する。
「最後にアナタが気になっていた事を答えるわ。すぐ納得できる答えになると思う、なぜ魔族と人類と別れ、何故人がというか弱い存在が人類の象徴になっているかというお話」
「人の人口が多かったから?」
無論それもあるのだろう、五百年以上前までは人類は常に劣勢に立たされ防衛線を下げながら戦う事しか出来なかった。その歴史こそが答えであろう。
それが今では魔王城のある程度近くにまで前線基地と言う名の街を置け、領地争いもただの劣勢で済んでいると言った所ところから簡単に予測ができる、魔王が支配した時代の世界その時点での人はどうであったかという歴史的観点の話だ。
「それもある、けれどここからは歴史学者の問題。一般的な学説で言うのならば、人とそれに属する人類の面々は魔王が支配した時代の下等生物だった…そう考えた方が自然じゃないかしら?」
「確かに俺も魔法は大して使えないからな、その説はかなりの信憑性を感じる」
ケロッと自らが下等生物である、と認めてしまうエトワにシエルは思わずクスクスと笑いながらも、エトワを浮遊魔法から解放して語りかける。
「アナタみたいな人が多ければ、人と魔族にここまでの亀裂が出来る事も無かったのかもしれないわね」
「笑うなよ、恥ずかしい。落ちこぼれというのは皆に言われて嫌なくらい知っているの」
「そうかしら?魔法に関しては0点もいい所だけど、アナタは常人よりも遥かに強いじゃない、それなのに?」
シエルの言葉には嫌味なんて一つたりとも含まれていないのは、わかる、わかるのだが。
「嫌みにしか聞こえねー、なんでも魔法でござれの魔法使いに言われてもただの嫌みだー」
「そんな、ちょっと待ちなさーい。今の言葉に嫌味なんていってないじゃなーい!」
地図曰く次の村は二手に別れており、その距離もここからでは馬鹿に出来ない距離だというのに二人は行先看板も見ずにそのまま走りだしていく。
彼らが向かう村の看板だけがやけに風化しているのは、恐らく気のせいではないのだが。
何も考えずにおふざけ半分で走り出したが、最後に待っているのは意地の張り合いだ、どちらが最初に根を上げるかという話なのだが、片や脚力で走っている剣士に対して相対するのは魔法を使って浮遊で追いかける怠け者なのだから、勝負は既についている様なモノだった。
「テメッ…、ハァッ……、いい加減…自分の足で……オェ…」
「私の圧勝…完膚なきまでに、種族なんて関係ない世界という歴史が築き上げてきた魔法の偉大さに敬服しなさい」
「その割には…、無駄な魔力が溢れている…なっ!」
魔力の溢れ、それは自らが自らの魔力を制御できなくなり始めている何よりの証明だ。
魔法は運動機能で動かす訳ではない、自らの体にある魔力とそれを自由に扱う魔法という公式によって結果が目の前に算出されるモノ、魔法使用中は延々とこの世界に対する解を証明しているに他ならない。
それこそ説明するのならエトワに起こっている現象こそが、激しい運動後に起こる息切れ、そして今シエルに起こっているのがその頭版、息ではなく魔力を流失している魔力切れ。
「アナタがアホみたいな速度で走るのが悪いんじゃない!その所為で余計に魔力の浪費が…はぁ―疲れたわ一旦休みましょ、そもそも私ここが何処かもわからないもの」
「え?シエルも分からないなら俺も分からないよ、どうすんの?」
「意地を張ったアナタが悪いんだもの、アナタがどうにかしたらいいじゃない」
どの口が言っているのやらと呆れたくなる気持ちと、そしてその腹立たしい態度に対し頬を引っ張ってやろうかとエトワは本気で考えるが、それも馬鹿らしくなってやめる。
そんなアホな考えを捨てて前を向く、前を向いたからには取る行動は一つに絞られた。
「ッ……」
「へ?………キャッ……なにするのよ!」
随分現状把握に時間がかかったような気の抜けた声を出すシエルを構うそぶりも見せずにエトワは彼女を担ぎ上げ、自身の肉体に置ける最高速度で向かうべき街から離れ始めていた。
先ほどの根競べとは打って変わって、尋常じゃない速度で脚を動かす、それが今取れうる最善策という事は、担がれ揺れるだけのシエルでも状況を見てしまえばわかることだった。
「反対側の村まで走る、ふざけ過ぎて気づかなかった…喋ってると舌噛むよ」
「だから一体………なるほど、これは迂闊に近づきゅ………いたぁーいー」
シエルがエトワに担ぎ上げられながら見た景色は、完全に魔物ではなく悪意を持った魔族によって破壊されている人の村だった。
あの村に何かがあればそれは珍しい事ではないが、ただ不用意に近づいたという事実は、エトワとシエルが出会うきっかけともなる細かな失敗から作り出された惨状の時と同じ、慣れが生んだクソみたいな驕りと油断がきっかけという状況と合致している。
救いだったのはその状況に置ける最適解を二つとも叩き出せたこと、惨状を迎える前にその場から離れる選択を即座にでき、決して近い距離ではないがこのまま今まで向かっていた道の丁度真横にもいくつかの平原と森を超えれば村が存在していた事。
本当にただの偶然を引いただけ、運だけで彼ら二人は今この瞬間を生き延びた。
ここまで読んでいただきありがとうございました




