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最終節 貫き通す善い事への責任感 1

おはようございます

ついに最終ショーです


 ただの障壁、ただの2枚の障壁。

 片やただ触れれば粘土細工の様に崩れるほどの、虚弱なる魔法の障壁。

 そして二枚目に構えるのは、矛盾を纏った斬撃でしか斬ることしかできない魔法の障壁。

 矛盾を持った攻撃が触れさえすれば二枚目の障壁は意図も容易く破ることができる、だが一枚目の障壁は破ることができない。

 コンマ0秒と更にその先にある秒数、そのズレとも言えない時間をエトワも体感はしてはいる、ただ体感してはいるだけでその斬撃の両方を同時に発生させるには、矛盾を自分の思い通りに扱えるエトワが感じる矛盾、矛盾と矛盾では無いモノを同時に発生させるという矛盾が生じていた。

「二本の刀剣…、一本で矛盾の斬撃を引き起こし、もう一本では普通の斬撃を放つ」

 それが今エトワの行っているこの壁に対する回答、これならば完璧にタイミングさえ合うことができれば、この壁を斬り捨てることができる。

 しかしこれでは上手く行かない。

「矛盾は斬撃の発生…、斬撃の範囲、そして斬撃の威力そのもの…斬ったという事実以外が全て矛盾する斬撃」

 その矛盾に同時発生する普通の斬撃を挟めば、放った矛盾の斬撃が破綻してしまう。

 ここに来てからもう半月が過ぎた、進歩という進歩はない強いて言うならば、エトワに少しだけ人間らしさが宿ったことくらいだ。

 といってもラーヴァストとの会話だが少し弾む程度の進歩だ。

 使える魔法についての問題、なぜエトワが魔物と人間の交配が成立しているのか、そして矛盾とは何か、魔法の効率化etc.戦いに役立つような会話か、あるいは魔導書が積みおかれたアトリエで一緒に魔導書を枕替わりに寝ているか、ラーヴァストの昔話を聞いているか、そこまで寝食住を一緒にする事が増えたとはいえ、流石に再び温泉に浸かるなんて事はあれ以来行われていない、あれは疲れと気のゆるみによる事故なのだから二度目は誰かの意思がなければ発生しない。

「今度は突きとの合わせ技でやってみるか…」

「オイ、そろそろ休め。コンテニが心配していたぞ、またここでぶっ倒れているんじゃないかと心配していたぞ?」

 今一度斬撃を放とうとした矢先に、横にある腰をかけるには十分な切り株にふと、ラーヴァストが何の前触れもなく、いつも通りの瞬間移動で現れる。

 まさに神出鬼没、この世でもっとも強い最強種にあるべき姿だ、それに命令ができる魔王という存在が改めて疑問を抱く、どういう存在であれば逆らわないのか。

「コンテニって誰?夢魔族の方?」

「逆だ、夢魔族のあいつはサキュ…、アイツは悪戯心の塊だが、首なし(デュラハン)のコンテニは首がないからこそ会話は難しいが、他人思いの良い奴なんだ、覚えてやってくれ」

 覚えようという気持ちはある、だがエトワからしてもそれが上手くできない、できるのは精々ラーヴァストとの会話内容、それも精々6割程度を記憶できればいい方なのだから、自分という存在はダメな奴だと最近はよくそう思う。

「まぁ努力するよ、でもラーヴァの会話内容は全部を覚える方を目標にしているかな?」

「そうか……、そうか………」

 少し嬉しそうな顔をしてラーヴァストが、ことんとエトワの肩に首を乗せる、身長差を考えればどうあがいても彼女の顔はエトワの肩に届かない、それこそ体を浮いて乗せるから、立ち上がり首を乗せるかだ、恐らく彼女が取る手段としては胡坐をかきながら顔を乗せているのだろう、ごつごつしていて大して乗せ心地はよくないだろうに。

「そういやラーヴァに聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいい?」

「私は全知を自称できる程に物知りだ、だがだからといって私にそう易々と質問攻めにするのはお前くらいだ、実にお前らしくていい。…たった二つの問以外は答えてやる」

「そう?ラッキー、なら教えてよ。ラーヴァがここまで俺に執着する理由」

「………それがたった二つの内一つだ…これは一生お前に教えることは無い。そしてお前ではきっと最後まで分からない感情だろうさ、次の質問はあるか?」

「じゃあ、ラーヴァが魔王を倒さない理由?」

「それもたった二つの内の一つだな、だが大した理由ではない」

 大した理由ではない、彼女がそういうのだからそれは真実なのだろう。

「まぁ敢えて語るとすれば、魔王という存在に私なりの敬意はある…それだけだが。まぁこれはどの魔族にも言える事だろうな」

 魔王に対しての敬意、それが彼女ら魔族が魔王に忠誠を誓う理由。

 一体何をすれば知性生命の半分が、急に現れた魔王に付き従うのか、それを考えるときっとドツボにハマる、恐らくだが彼女の言った通り本当に大した理由ではないのだろう。

 彼女にとっては取るに足らない無に等しい人生一分一秒、その時間が魔族と人類の争いでこれまでの1000年で生み出された魔法の数々が彼女の人生を豊かにしているのは事実だろう、この動乱の時代こそが彼女に生きる目的を与えてきた、それは恐らく事実だ。

「他にないのか?私は機嫌のいい間しか、答えんぞ?」

「…じゃあ休憩もしたし、最後に一つだけ」

「なんだ?」

 刀剣を二本生成する、誰の魔力でもない魔力が満ち満ちているこの場所では、エトワの魔法への魔力が使用量の問題も、解決してくれる。シエルならばきっと試練を続行すると称して魔法の極致に至る為といって一生ここにいるのだろう、そんな姿が想像でき少しだけ残っていた疲れも完全に癒えてくる。

「魔王の正体って?」

 これは世界の根幹に関する内容だ、1000年前勇者が魔物の王を倒して世界は救われた、そこまでの歴史は真実であり嘘偽りも無いモノなのであろう、それが嘘だと恐らく知性生命の歴史がおかしくなる、問題はその後だ。

 なぜその後魔族と人類の確執が訪れた?


 人類の意見を信じるのであれば、新たな魔王が生まれそしてその魔王に付き従う強者である魔族と、その魔王に屈さない弱者である人類が別れ、1000年もの争いを続けた。

 だが魔族の意見や、閉ざされた村の古い石像を見ると、人類の歴史が偽りの可能性も否定できない、人類の裏切りが生んだ魔王と呼ばれる存在。

「あぁお前は人類側で育っていたんだな、だがそんな事を記憶に………いや常識として記憶しているのか。簡単な事だ1000年前に魔物の王は確かに存在し、そしてそれを討ち倒した勇者と魔法使いは確かに存在した」

 そこまではどちらの歴史として認識されている、だが違いがあるとすれば魔法使いの見た目だ、どちらが正しいのかはわからない。

「魔角族の少女を助けた時に、その閉ざされた魔角族の村では、勇者が俺の知っている像とは違って、背の高いエルフの様な恰好していた気がする、それを今ふと思い出した」

「ほぉう?人類にも正しい歴史を紡いだ存在が居たのか面白いな………」

 エトワが見たというのはアンのディアコルム村の時だろう、だがエトワに残っている記憶はアンという少女が居たではなく、覚えているのは魔角族の少女という概要だけだとシエルが知ったら一体どう思うだろうか?今では関係ない話かもしれない。

「簡単な話だ、人類は勇者を男にしているだろう?アレは男であって欲しかったという訳でもない、勇者は世にも珍しいダークエルフの女性だった、そして人類が勇者と信奉しているのが人の魔法使いであった、それだけだ」

 ここまでの話では世界が分割されるほどの問題点とは思えない。

 その決定的なまでの確執はどうして生まれたのか、そこが一番の疑問点だ。

「なら魔族と人類の確執はどこで生まれるの?」

 たったそれだけの事で魔族だ、人類だと争うそんなのが知性生命の本質とは思いたくないのも事実だろう、無論理由がそれだけなら、ここまで馬鹿な生物は絶滅しているだろう。

「お前と同じだよ、お前達の髪の毛と同じだ。勇者の場合は私達エルフの真っ白な肌とは違い、ダークエルフは褐色の肌を持っていた」

「だからハーフの疑い持たれた?」

 ハーフというモノがどれ程前から禁忌であると言われ始めたのかは知らない、だが禁忌である存在が世界を救ったと思いたくない存在も居る、それは事実だろう。

 それで人類と魔族が分断するというのは、なんとも言えない結論だ。

「長話をし過ぎたな……、私はアトリエに戻る。偶にはお前から顔を見せにこい……………、そうだ最後に一つ教えてやろう、ハーフが何故禁忌と呼ばれるかと、魔物の王の正体についてだ」

「そんな重要な事教えてもいいの、世界の誰も知らない真実でしょ?」

 魔物の王がどうであったか、そもそもハーフは何故禁忌であるのか、魔物の王については様々な臆説がある。

 例えば大地を食らう巨大な蛇。

 例えば灼熱の炎の剣を携え全ての命を灰燼とする事ができる巨人。

 例えば手を伸ばせば世界の全てに触れ、頭を上げれば星々すらも破壊する異形の怪物。

 世界の奥底に沈み、不可視、不可侵を併せ持ち一たび動けば世界が揺れる海の怪物。

 こんなのばっかりと言えば呆れもあるが、ただ世界を滅ぼしかねない怪物であったというのは、どの説にも言えることではある。

「魔物の王はな、この世全ての種族のハーフだよ」

 ハーフ、つまりはエトワやシエルにとっては第一人者という所なのだろうか?

「この世界にいる全ての種族を混ぜ合わせ、本能のままに何かを食らうことしかできなくなった巨大な魔物。ハーフがなぜ禁忌と言われるか、それはこの魔物の王に由来する、基本的には二度までの性交による交配ならば知性生命としての機能を持つ、つまりは子を成せるという事だ」

 それならばハーフが禁忌と呼ばれる理由がはっきりとする、この世界における知性生命としての区切りは交配をして種を残せる存在、故に知性生命と魔物の間には子を成せないからこそ、魔物という区切りがつけられた。

「そっか…、ハーフの行く先が魔物なのか…だから禁忌たる存在」

「そうだ、そして魔物まで落ちれば魔物同士でしか交配できなくなり、そして魔物は本能のままに生きる、生きる為に食べ、体を休める為に睡眠をとり、種を残す為にただ本能のままに交尾をする、それだけのつまらない存在だ。お前はそこまで落ちてくれるなよ」

「まぁ恋愛感情を持ち合わせてないし、そうはならないんじゃない?」

「そうか…、そうだな。そうだハーフの話次いでに一つ面白い事を教えてやろう」

「面白い事?」

 ラーヴァストは不敵に微笑み、実に面白い結果として彼女は言葉を紡いだ。

「竜を見たことはあるか?」

「竜鱗族ならあるけど、実物は見たことないかな…竜って名前につく種族なら少し心当たりがあるけど…」

 そうかそうかと頷く彼女に対して、何か遊ばれているのではないかとエトワは少し不貞腐れる、無知は恥だという事も重々承知だが、長生きしている種族に知識の量を誇られても、どうしようもない。

「では竜の概要は知っているか?断片的にでもいいぞ?」

 竜の概要というと、端的でいいならばそれこそ幾らでも思いつく、それこそエトワでも思いつくことが多い。

「巨体で、大きな翼?凄く硬い鱗とか赤い見た目、あとはー炎を吐く?」

「実にお前らしい感想だ……」

 断片的でもいいといったのは、ラーヴァスト自身だがその内容が端的すぎて、彼女も苦笑いを止められずにいる。

「……いやなんだすまなかった、あまりに端的過ぎるというか、学のない回答に笑いがな、いや失礼、恥じることはない、なぜなら私も見たことがない、知性生命がイメージするモノにもっとも近しいモノは見たことがあるが」

「長生きなラーヴァストでも見たことないって、それ本当に存在するの?」

「いい疑問だ、先ほどの竜のイメージとは違って、こんどは幾分かマシだな」

 あまり冷やかすと感情に乏しいエトワでも、そっぽを向くと察したのか彼女は本題を語り始めた、竜というモノとは何かを。

「竜というのは、知性生命が恋焦がれた憧れの存在だ。その実態なんてモノはない、いくら見た目が似ようと、中身が似ようと憧れの竜には誰一人として成れなかった。思い描く性能にしたければハーフを作るしかない、けれどハーフは知性生命としての尊厳を失う事と同義だ。そしてその結果生まれたのが魔物の王、この世でもっとも竜に近づいた紛いモノだ」

 確かにラーヴァストはそう語った、結局はそれも結局は本能に生きるだけの怪物だという説明もさっきしていた、知性生命抱いた願望の行く先、それが魔物の王であった。

「ハーフの行着く先は、我々知性生命かつて抱いた竜というイメージに最も近い何かだ、本能のままに貪り、本能のままに眠り、本能のままに子孫を残す、そこ自我なんてものはない、まぁ何が言いたいかというと、あまり本能のままに生きすぎるな…私は…いやなんでもないさ…」

 ラーヴァストは言いたい事だけ言うと、その場から姿を消す。

 どこか寂しげな表情をしていた気もする、ハーフとは尊厳を殺しながら本能のままに生きるモノ。

 どういう訳か彼女は、エトワにはそうなってほしくない、おそらくそのような感情を抱いたのだろう。

 そして彼女との問答によって答えは得た、ハーフなぜ何か執着するのか、それは本能だと、運命的な出会いと言い換えてもいい、生涯を捧げたいと思えてしまう事に出会うからこそ、それが知性生命の持つ三大欲求よりも本能として強くなり、それに命を捧げ続ける。

 そしてこれは最初にシエルが語っていた事と同じだ、いわば血を薄めることがハーフを魔物にさせる条件なのだとしたら、それから遠ざけるには同じ血を入れ続け、元がハーフであったかどうか分からない程に世代交代をしなくてはならない、故に禁忌である。

「シエルは混血の説明としてこれを用いた、けど面倒だったんだな、ハーフであることがバレてしまうと、今までの道すがら何も良い事がなかった、確かに面倒な事だ…」

 自分が面倒な存在だという事を知らされた、だからこそ感じる感情だ。

 本当に嫌で、本当に厭で、本当に否だった、


(認めたくない、そんなこの世に産まれてこなかった方がよかった存在なんて、認めてなるモノか。絶対に認めてやらない、シエルも俺も世界に居てよかったって証明してやる)

 空っぽで中身から欠けた心の破片がコロコロとなり、心が延々と叫んでいる。

「産まれて来てもよかったんだって思える為に、魔王を討って。………いや違う、魔王を討つのはついでだ、武を極めるという事だって、80年前にラーヴァが失敗した思いやりは別に間違っていないと返事をする為の理由付けに過ぎない」

(だから善い事をしよう、善くない存在が善い事をして認められう訳ではない事くらい知っている、だから善い事をして、誰かに褒めて貰おう)

 ただの本能だったからこそ、何も考えずに剣を振るえた、けれど歪な願いを持ってしまった、持たなくても良い感情なのかもしれない、けれど最後に善かったと思える最期でありたい、決して善い存在ではないけれど、そう思うくらいはきっと。

「善い事だ…」

 エトワの心はたった今、本能ではなく感情を持つ事で完成した。


ここまで読んでいただきありがとうございました

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