第八節 エルフ最強種ゆえ 3
おはようございます
意味ありげな文が最後にありますが、それが回収されるのは私の脳内だけです
この世とは思えない幻想的な場所、ただそれと同時にこの世にあってはならないとも感じるこの場所で、どのような試験が行われるのかとりあえずの感覚で、エトワは遠くにある木を切り倒してみることにしてみる。
「おい、お前何をしている?」
「あ、ラーヴァもう来たんだ、暇だから鍛錬でもと…、ダメだった?」
「いいや?別にダメではないが、そんな感覚で魔法の様な斬撃を放つなという事だ」
「飛ばす斬撃ってそんなに、魔法に見える?ただ斬っているだけなのに?」
斬撃を飛ばす、それだけで異常なことだ。
矛盾を起こしているという訳ではないが、言ってしまえば本質的には魔法と同じく、エトワ自身が抱く斬撃のイメージができたから成せる芸当に近いのは、確かなのだろう。
だからこそ魔法を知っている存在からすれば、魔法ではない事を疑問に思うのだろう。
「そんな芸当ができるお前ならば、この試練を与えよう」
二枚の連なる壁がエトワの眼前に広がる、薄い魔法の障壁というのが正しい認識だろうか、だが手をかざせばその手は簡単にすり抜けられるし、斬ろうと思えば斬れるそれ程までに単純な魔法障壁だ。
それがたったの二枚、壊さず通り抜けろという訳でもなく、恐らくは普通に。
「この障壁を同時に斬れ、そうすれば合格をくれてやる。制限時間はお前が諦めるその時まで、水浴びをしたくなれば私のアトリエでも使え、寝るときも使ってくれて構わない、どうせ単なる暇つぶしだ」
この殆ど障壁としての役割も持っていない、二枚の障壁をただ斬ることなら誰だってできる、恐らく武器を初めて持った少年ですら。
「もし斬れたら報告しにこい、嘘は許さん。ではな…」
そう言い残してラーヴァストは姿をまたも自然に姿を消す、だが今回は痕跡が残っている、彼女が居た証とでもいうのかこの魔力で満たされた空間の魔力が大きく乱れている、それこそ実際には感じないが魔力を視られるモノにとっては、この場は今乱気流が起きているように見えるだろう。
「なんか酔うような感覚…気持ち悪い………でもまぁとりあえず斬ってみるか」
一応魔法が使えるというのに、魔力を一切感じた事もない、そもそも魔力を気にした事すらないというのは、魔法使いに対する冒とくなのかもしれない。
ただの斬撃、この障壁を壊す為だけならば斬撃である必要ですらない、だがこの障壁を斬れと言う試験なのだからこそ、この障壁を斬ればいい記憶力が鈍くても忘れない簡単な試験で助かると言わんばかりに右手に持った刀剣で障壁を斬る。
「あれ?」
不可解な感覚というよりは、不可解な現実がエトワの目の前に存在した。
「斬れない…、二つ目が斬れてない?速度の問題か?」
二連射あるいは三連射であればどうにかなると考え、二刀によるほぼ同時の攻撃、障壁じたいはすり抜けられるという性質活かして、三大星も試してみる。
「速さの問題じゃない、そもそも二枚目の障壁が斬れない…どういう事だ?」
ならばとエトワは考える。
今一度矛盾を起こそう、矛盾であれば連続攻撃も速度も関係ない、放った6つの斬撃が起こす矛盾で強引にではあるが、この障壁を破れるだろう。
「秘技・星斬灯……………?………は?」
今度は二枚目の障壁を斬ることに成功したが、今度は一枚目の障壁を破れていない。
ただの斬撃では一枚目の障壁を斬れる、矛盾を使った斬撃であれば二枚目の障壁を斬ることができる。
この試練を乗り越える為に同時に斬ることはどうすればいいのだろうか?
答えは単純だ、普通に斬って、普通に矛盾で斬ればいい。
だがそれは矛盾を起こし、その矛盾に整合性を求めないといけない、ならばそこにも矛盾から整合性を取ったまま矛盾を起こす、その事実そのものが矛盾だ。
「つまりどうすればいいんだ?」
矛盾による斬撃、普通の誰もが放てる斬撃、二つ同時は無理というのはわかっているからこそ、できる限りの最速で二つの攻撃を連続で出す。
それを繰り返していたら、いつしか日が暮れ朝を迎え、また日が暮れて朝を迎える、三度目の夕日を見る前に肉体の現界が近づいている事にようやく気付き、ラーヴァストのアトリエに戻ることにした。
首なし族の彼?が待ち構えていたように駆け足で食料を持ってきてくれたので、それを加えながらそこに在ると言われた、ラーヴァストのアトリエにある水浴び場に移動する。
「つかへた…、あ、これがシエルの言っていた温泉か…」
服を脱ぎ捨てて、体の汚れをこそぎ落とすように磨いてから、温泉とよばれるような夢の温水湖の様な場所に飛び込む。
「あったかーい……極楽…」
水面に背を向けて遊覧するように流れに身を任せると、枕のような柔らかい感覚が頭に当たる、グイっと押せば跳ね返る弾力性があり、少し戻される。
それが少し心地良くて繰り返していると、どういう訳か周辺の水辺真上に弾け飛び、体は壁に打ち付けられる。
「敵?……………は?」
刀剣を顕現させて衝撃波が発生した方向へ刃を向ける。
そこには布一枚通さないラーヴァストの姿があり、エトワは思わず疑問符を浮かべる。
「敵はお前だ、馬鹿者が。使用中の文字が見えなかったのか?いきなり入ってきて私の胸に何度もぶつけよってからに…………、おいお前ちょっと待て」
疲れすぎて目の前に入る情報の殆どカットしていたエトワが十中八九悪いのは当然なのだからこそ、反省して外に出ようとしたのだがラーヴァストは唐突にここに留まれと命令してくる、自分を信じるかラーヴァストを信じるか、答えは勿論勝てる見込みのない存在に逆らって試練の強制終了なんて面白くもない、故に留まる。
跳ね上がった温水がそのまま降り注ぎ、お湯が溜まれば再び当たり前の事かの様にラーヴァストは今一度湯に浸かる、その姿を見たからこそエトワも再び腰を落とす。
「で…なにさ?…覗いたことは謝るけどぉ」
「人様の裸体を見ておいて、なんてふてぶてしい態度だ。……まぁそれはいい、その刀どこで手に入れた?いや違うな…どこにそれが置いてあった?」
「この刀?お墓の中だけど?俺を助けてくれた爺さんの墓」
「そうか…まぁ当然かそれにしても、短いモノだな。あの子がこの里を出てたった80年、だが死ぬには十分過ぎる程の時間だった訳か」
ラーヴァストはエトワから取り上げた刀剣を観賞し、しみじみと語り始めた。
ラーヴァストが語る存在と、エトワを助けた存在が同一存在か懐疑的だが、80年ぶりの再会という事に違いはないらしい、ならばそれが同一人物かどうかそれはどうでもいい話ではあるものの、エトワは気になりラーヴァストに質問をする。
「その剣の持ち主が同一存在かはしらないけど、どんな人だったの?」
「なんだ興味があるのか?記憶に残りもしないというのに」
確かにエトワは横切り自分が逃げるまでの時間を稼いだ老人という以外の記憶を何一つ有していない、ただ記憶に残っているのは眩いくらいの星空と、その下でみたあの矛盾の塊である武術の境地、それだけが全ての記憶を根こそぎ喰らっていく。
「でも俺の生きる理由もあの人が星空の下で見せた技だけが、ここまで連れてきたから」
「ほぉーやはり私の知っているあの子だ、お前を助けた後どうなった?」
「多分死んじゃったみたい。俺が見たものは、老人の千切れた腕と残されたこの剣だけだ」
薄ら笑いを浮かべこちらを見続けていたラーヴァストの表情が固まる、だがそれと同時にどういう訳かその結末に納得したように優しい瞳を瑠璃色に光る刀に視線を向けていた。
「あの子、エスポワールはな、四天王として活動している時に、街道で捨てられていたのを誰かが拾って来た人の子だ」
懐かしく、今でも昨日の事に思い出せるというのか、自らの掌に湯水を掬い空に掲げたと思えば、その水を指の隙間を開けることによって全て流す。
「あの子は、残念な事に魔法の才を持ちえなかった、魔法の事なら私が全てを教えることができたのに。……だがあの子には剣に関する才能を持ちえた、それこそこの世界を歪めてしまう程に……、お前もこれが何を指すかを知っているだろう?」
掌から零した筈の湯水はまるで逆再生されたかのように、彼女の掌に先ほどと全く同じ挙動で戻っていく。
「矛盾の剣…だけどそれは魔法でしょ?」
原理も何も知らなければこれは、大きな世界に対する矛盾だ、ただこの世界では大抵の事が原理を記されている、それの発見された原理全てに当てはまらない現象、それこそが矛盾という現象だった。
「あの子も大きくなり、私たちが魔王にとって都合良い手駒に過ぎないとしってから、どういう訳かあの子は魔王を倒す事を目標にし始めた」
再び温水は彼女が放つ魔力によって揺れ動く、その怒りにも似た表情に秘めるのは本当の感情は恐らく後悔だろう。
「あの子の歳が20を超えた時に魔王を倒しに行くと行って聞かなかった、良くしてくれていたエルフの一人が魔王の命令で命を落としたからだろうな……、私も死んだエルフもあの子が死ぬ事を望んじゃいない、できる限り平穏に生きて欲しい…そう思っただけだったんだ」
ただエスポワールという少年の為を想って行った行動の果てに産まれたのは恐らく…。
「私は私の本気をあの子に見せた…殺すつもりで殺さないように、魔王とはどれ程の存在かを知らしめようとしたんだ、そうしたらどうなったと思う?」
ラーヴァストは逆に質問を返す、彼女が持ちえる本気の矛盾を扱えたとは言え普通の人が見たとしたら、恐らくエトワが初対面で感じた感情よりも酷い事になるのではないか?
「ラーヴァを超える為に鍛錬に明け暮れた?」
「お前じゃないんだ、そんな事は基本ないさ。普通の存在はな、自分が殺されるかもしれない状況に陥った存在は震えて逃げるんだ、それがどれ程勇気を持った存在であっても絶対的なまでの差は感情を恐怖に陥れる」
濡れた掌でラーヴァストは己の顔を覆う、彼女にとってはたった80年前にした過ちで幾つ生きたかもわからない年数の内の100分の1にもならないだろう、だが彼女は今日この日まで毎日のように自責の念にかられている。
「私があの子から未来を奪った。…ただ優しく私達の為に行動してくれようとした勇敢な子を…私が死なせたくない余りに…私が殺した様なモノだ…」
どれだけ後悔しようとも彼女が涙を流すことができないのか、彼女はただ掌に溜めた温水を握りしめる、手を開けば何度も水は入ってくる。
まるでエルフの寿命を表すかのように、彼女ら以外は時のある存在だ、その一度握りしめる行為、それがこそが知性生命が歩む一生の摂理だった。
だが悠久の時を過ごす彼女らそれらを何度も繰り返し試行錯誤する事ができてしまう。
だからそんな姿を痛ましいと思ったのかもしれない、昨日の自分が何をしていたかすらも記憶できない彼ですら、彼女が苦しむことは見てられなかったのだろう。
「大丈夫だ、ラーヴァそのエスポワールっていう人の剣技が俺をここまで連れて来たんだ…、だからラーヴァは苦しまなくていい」
だから彼女を抱きしめる、彼女の小さく華奢な体とブロンド髪を巻き込むように、ただエトワという存在で包み込む。
「お前に…私の何が!…お前の様な魔物と混じった出来損ないの人間が!…」
「……そうなんだ………俺って魔物と人の子なんだ………」
言ってはいけない言葉を口にしてしまったとラーヴァストが思わず目を点にする、だがしかし彼女が持つ怒りが勝つのだろう、そんな存在が自分を理解した気になっているのだから、だからこそ彼女は更に激昂した80年抱えた全てを吐き出すように。
「わかる筈がない、たった数分だ!あの子と過ごした20年にも満たない…たった…」
「わかんない…だって俺はラーヴァの事全然知らないし、エスポワールっていう人が何を思って俺を助けたのかもわからない…、だけど多分俺に役目があるとしたら…」
役目があるとしたら何があったのだろう、ただあの星空の下に見たあの剣に届きたいという思いだけでここまで歩いてきた善し悪ししか分からないエトワに何の役目があったのだろう、善い事だからという理由で魔王討伐を進めてきたエトワにとっての意味とは。
「俺が持っている基準は善いか悪いかだけ、けど今日ここでエスポワールっていう人の人物像を知れて、多分初めて俺がするべき役目を理解できた…」
あの日の絶技と、この剣がエトワをここまで連れて来た。
そんな中途半端な覚悟な彼にここまで来た事の意味を与えたのは、皮肉にもラーヴァストだった。
ラーヴァストがいつかの日に本気でエスポワールを殺そうとしてくれたから、回り回ってエトワが住んでいた集落が襲われ、そして魔物と交わった存在の子として本能でしか生きられない存在だった、中身のないエトワに中身が宿ったのだろう。
「少しだけ人って言うのがわかった気がする、ラーヴァがエスポワールをこの里から逃げ出させたから、エスポワールっていう人が最後の最後で俺という命を救ったから、そして俺にあの絶技を見せてくれたから、エスポワールが望んだラーヴァ達の為に行う善い事を、ようやくしてあげられる。だからそこで見ていて試練なんてすぐ超えて80年前から始まった魔王に対する攻撃をようやく見せてあげるから」
やるべき事は決まった、今は彼女の傍に居ることが自身の役目ではない、今の自分の役目最初から変わらない、きっとあの壁を破れれば当初の目的通り武の極致に至ることができるのだろう、だからこそそれを超えて多分この世で一番善い魔王討伐をすれば、全ての歴史がようやく紡がれる、人や魔族なんて括りのない善い世界が作れるのだと思う。
「超えてやる、エスポワールって人の極致も…魔王も…そしてラーヴァという世界最強も」
服に着替え彼は再び、あの魔力が留まっている空間に立ち、改めて試練とされた壁を見る、超えられるイメージなどはわかない、けれど今にも試してみたいことが幾つも頭に過る。
魔力で満たされた空間に自然という風は吹かない、この空間で風の様な事が起きるとしたらそれは物理的に魔力流れを乱した時だけだ。
そしてそれは彼の斬撃から生み出された、生み出され乱れた魔力で出来た風がエトワの髪をふわりと持ち上げる、どこか少しだけ黒髪の部分が増えたような気がする。
ただそんな気がすること以外は、未だ変わることを知らない。
ここまで読んでいただきありがとうございました




