第八節 エルフ最強種ゆえ 2
おはようございます
フリーレンのエルフと言えば、そうゼーリエ様ですね。物語に対して介入しない最強キャラ大好きです
さぁもう旅は終わりを迎える一歩手前。
武に魅了された青年は善い事をする為に、どれだけ否定をされようとも善い事の為にここまで到達し。
魔法に魅了された少女は、未だかつて成し得られない魔法による矛盾の証明をする為に青年の脊を全力で追いかけた。
残る行き先は目の前にある、エルフが住まう里と。
この距離であれば嫌でも見える、かつて魔物の王と呼ばれた死骸によって形成された、現代の魔王の居城、この二つが彼らの前に待ち構えるのはたった二つ関門だった。
辺境の村、その程度の印象しかエルフの里に抱く感想は無かった、誰かがずっと見張っている訳でもない、来る者拒まずとはこのことを言うのだろうが、故に常に警戒を怠れるはずもなく、いつ来ても良いようにエトワは既に刀剣二本を持ち警戒するが、シエルはどういう訳か杖も出さずにただエトワの後ろをついていくだけだった。
「どの場所よりも平穏な気がする」
「平穏よ、この里は恐らく世界で一番に平穏を地で行っている様な里だもの」
「けれど気は抜けない、ていうかシエルは来た事があるんだ」
シエルは来た事があるからこそのこの落ち着き様だったのだろう、じゃなければここまで魔力で満ち満ちている場所で彼女が瞳を輝かせない筈がない、この再現がなく魔力切れを起こしているようにこの里中に溢れる魔力が何なのかも知っている、これを魔力として認識できない存在からすれば、これは敵意か害意にも感じるという理屈だそうだ。
「その根源たる存在を見たら嫌でもわかるわよ、この違和感の正体もね」
「おやおや?中々の謂われようじゃないか?私はお前の存在を唯一認めた存在だぞ?」
いきなりエトワの目の前に現れた存在を一言で表すのであれば、天から舞い降りる天使、これは比喩表現でも何でもない、実際に天から降りてきて降りた際に発生する筈の衝撃も目の前の重さは羽毛ほどしかないのではなかろうかと思う程に、その着地音すら聞こえず、ブロンドの髪は重力を忘れたかのようにゆっくりと降ろされる。
エトワよりも頭一つ以上に小さい背丈に、一瞬だけなら子供と見間違うかもしれない姿、その放たれる気品の高さや、やや成長した胸や少女にしては嗄れた声を聞けばただの幼子ではないことはすぐにでも理解できた。
「お前…混ざっているな?面白い混ざり具合だ、お前…一体、人と何を混ぜたらそうなる?」
混ざっている。彼女がハーフの事について語っているのは、分かる。
だがそれを見ただけ何と何が混ざり合わせればこの姿になるかを見抜ける存在は、今のいままで存在しなかった。
「ラーヴァスト?私はアナタに口答えはする気もないけれど、そうやってすぐ名乗りもしないで他人を探るのは行儀が悪いんじゃない?」
三白眼のジト目でシエルの方を見て、悦に入ったかの様にあざけ笑うような視線を送る。
「お前は随分見た目が変わったなシエル、いや中身も変わっているのか?少しだけマシになった、…そこは褒めてやろう。特に隠すこと諦め片側に生えた角が実に良い」
「それはどうも、…………ッンッ…………いきなりね…未だに通せんぼかしら?」
ただの魔力の塊が、彼女が持つ防御魔法、そして反撃の為に一切の無駄無しで瞬時に出した騎士の剣すら、そこにない筈の壁に押しつぶされ粉々に砕け散る。
そこには何もない、けれど何かがある。
シエルは無と魔力に挟まれた、そうとしか形容できない現象が今この瞬間にも起こっていた。
「そうだな、お前には一度不合格を出しているが、もう一度チャンスをやろう…」
どこからか出てきたのかも説明がつかない紙を無と魔力に挟まれている無理やりシエルの眼前に持ってこさせる。
「…ッ…」
二刀を構え最初から全力の一撃を叩き込もうとするが、それはシエルに静止された。
「いいのよエトワ、ラーヴァストの言っている事は事実、彼女が合格と認めない限り魔王の居城には辿り着けない。400年前に私は不合格をくらったそれの挽回のチャンスをくれるなんて、アナタにしたら破格の対応よ、…余程エトワを気に入ったのね」
「気に入った?ハーフの中身にってこと?…悪い気はしないけど、俺もその試験?に合格貰わないといけないの?」
「そうだな、お前も私の課す試練を越えれば自由に魔王の居城に行くといい、なんならどちらか片方が合格できたら両方通してやる」
試験というモノがどれ程のモノかが分からない現状、何とも言えないが400年前とは言えシエルですら不合格をくらったという事は、相当な無理難題なのだろう。
それでシエルの試練というのは…、なんとも皮肉なモノだった。
「標的は魔王直下四天王……、龍人族の長、しかも四天王のアナタ達宛てじゃない、私がやっていいモノではないでしょ」
「いいや?お前も半分とは言えエルフだ、魔王直下四天王が一柱のエルフであれば、この魔王の要請応えるのは何も可笑しなことは無い」
魔王からの直接の命令、それも同じ四天王殺させるとは魔王もどういった了見なのだろうと傍ら疑問を抱いているのは、エトワだけでなくシエルも同じ思いは抱いている筈なのだがエトワにはそれ以前に気になることが一つあった。
「エルフの四天王ってシエルが倒したんじゃないの?」
「ふっふ…はは…ハーフ故に記憶力が浅いのか、それとも敢えてシエル…お前が語らなかったのか?まぁどちらでもいい、お前の質問に二回だけ答えてやる。その変わりに二度と同じ質問を私にするな、したら不合格だ」
少女の様な背丈と美しいブロンドの髪が揺れ、恐らくそれは魔力の圧という事をエトワですら察知できる程の圧倒的なまでの迫力を、その背丈とは似つかない彼女が出している。
「それは…善処する。…じゃあ簡単に二つ、エルフの四天王となぜ同士討ちをするのか」
「なんだ?それだけでいいのか、まぁいい前者から答えてやろう、前者は私を代表に全てのエルフという種そのものが四天王というだけだ、後者は知らんこれまでに来た勅命から察するに、四天王という枠に収まりそして欲に溺れたのだろう、向上心の無いものは成長しないからな」
完全には的を射ない回答だが、要するに四天王というのは常に強くてはならない存在であり、強くないモノは四天王である必要が無いという事と、そしてエルフという長命の種族だからこそ誰もが強くて当たり前という認識でいるのだろう。
「そういうこと、じゃあシエル行ってらっしゃい」
「あぁ、まぁそうよね、アナタってそういう性格よね。じゃあ行ってくるわよ…、そっちの試験が先に終わったのなら、そこのラーヴァストに言ってこちらに知らせて頂戴、頼んだわ」
トボトボとよろけながら老人の様な足伝いで、エルフの里から離れていくシエルにエトワは最後まで手を振り続けることにしたが、彼女がエトワを見返していない以上無駄な行為だったのだろう。
「おい、つまらない事をしていないで行くぞ」
「はいはい、えっと確かラーヴァストさん?四天王として俺達を殺さなくてもいいの?」
もっともらしい疑問だ、少なくてもその竜人族の長とやら以外の四天王は全力でこちら殺しに来ていた、それは間違いないだが彼女ら?はそうではないらしい。
「私は魔王に通行を塞げとしか命令されていない、殺せとも殺すなとも言われていなければ、そもそも通すなとも言われていない、だから私は推し量り私の出した問題を越えれば幾らでも通すし、問題を越えられなければ通さん。それで魔王から何も言われていないんだ、今更それを変えるつもりは無い」
「へぇー、ラーヴァストさんって暇なんだね、そんな面倒な事をやっているだなんて」
純粋な気持ちによる質問だというのに、少女のような見た目をしたラーヴァストは、心底嫌そうな瞼を下げて瞳でこちらを見ている。
だがしかしそれを納得はしているのか、面倒くさそうに彼女は紡ぐ。
「あぁ暇だ、暇すぎる、私が知っている限りエルフが寿命で死んだ例はない、だからこうして暇を潰すんだ、エルフの特性上魔法使いになるのもそれが理由だ。無駄に研鑽すれば無駄に魔力は増えていく、研鑽をすれば新たな魔法を創り出す事もあれば、長い年月をかけて誰か一人が産み出した魔法を学べることもできる」
シエルという存在は魔法にハーフの定めとして魔法に魅了されているという話だが、そうでなくともエルフという種は基本的魔法の道に進むらしい。
武であればいずれその体で出せる出力の現界が来る、だが魔法であれば学ぶことも生み出すことも、そして研鑽を積み魔力を増やすことも無限回できること、故に長寿のエルフは魔法使いを選ぶ、それが目の前にいるラーヴァストの意見らしい。
「シエルで500歳とかって言っていたけど、ラーヴァストさんは幾つなの?」
「さっきから質問が多いんだなお前、まぁいい私の領域に入ったら主導権は私が握る、それで年齢か?さぁなもう数えることもやめてしまったよ。逆に問おう私はお前から見れば何歳に見える?」
身体的特徴が一切宛てにならない、年齢当てゲームこれが試験だというのならば、エトワは彼女が答えを口に出すまで答えないが、試験ではないらしい。
「ラーヴァストさんの年齢でしょ?シエルの1.5乗くらいかな強さ的にも1万とちょっと?」
「ほぉー、仮にも女性に対し1万歳を超えると抜かすか…まぁそれが正解かどうかは私にもわからん、だがその馬鹿正直さに免じて私をラーヴァと呼ぶことを許そう」
「短くても覚えられないのに、長い名前なら明日には忘れちゃうところだったから助かったよ、ラーヴァさん…ラーヴァ…うん、じゃあラーヴァで、俺はエト…」「知っている」
食い気味に態々伝えなくてもいい、もう既に知っていると言わんばかりに言葉が遮られ、明らかに他とは異質な空間にエトワとラーヴァストは侵入する。
「……呼び捨てまで許可したつもりは無いんだが…まぁいいか」
「なんか言った?ラーヴァ、ていうかこの変な感覚ってずっと続くの?」
「なんでもない!……まぁすぐだ、ここは魔法の実験場の様なモノだから残留している魔力も異常だが、しかしお前のような魔力感知ができない存在でもここは異質と感じるのか」
一つ勉強となったと言うように頷き、そしてその後はエトワの質問も尽きたのか、大きな門の目の前に辿り着く。
「開けていいの?」
「あぁお前が開くべきだ」
大きさ程の重さを感じない大きな門、手をかざせばその綿すら動かせないような力加減でさえ、扉は勝手に開いてしまう。
エトワ自身がまだ開けるつもりはなくとも、一度手をかざしてしまったモノは仕方ないと言わんばかりに勢いよく扉は開かれ、エルフの里はその姿を露わにする。
「エルフの里?」
「ふっははは…、そういう反応が返ってくると思ってお前を態々招きいれたんだ、まぁ試練が終わるまでは気軽に過ごすと良い、ここの連中はお前を受け入れるさ。…奥にある無駄に大きな協会の様な場所が私のアトリエがある、ゆっくりしていけ」
そう言うとラーヴァストはその場から現れた時の様に姿を消した、今度も足音も飛行したような音も何一つの音を残さず消え去るのだから、真正面からやって勝てる未来が一切見えないというのも戦う可能性があるモノとしては最悪だ。
見えうる限りの知性生命を見る、エルフの里と宣っておきながら肝心のエルフは両手があれば数えられる程度しか居ない。
その代わりに確認できる種族と言えば多くが魔族であり一応人類も居る。
それらが可も不可もなく共存している、これは善い事で、善い事が出来ているこの里は善い里という事にエトワ基準ではなるのだろう。
だが何をもって共存しているのかが理解できない、故にエトワは歩みを進める。
この里の食糧管理を任されているらしいスライム族の女性が居た、彼女ら魔族側の存在だ、しかし第一の言葉はハーフとは珍しいお客さんだと慌て「これは賄いみたいなもんさ、受け取っておきな」といいやけにフワフワなパンを貰った。
貰ったパンはフワフワという以外に言う事が無い普通のパンだった、次に出会うのは魔道具や武具の手入れを担当している夢魔族の女性、魔族となっているが夢に侵入してくるだけの人類に話しかけられた「ラーヴァスト様が魔法使い以外をここに入れるとは珍しい、そのいで立ち剣士か?武器を見せて貰っても?」と執拗に迫られたので瑠璃色刀を見せると、何故か少ししんみりした顔付きになり、感謝の後に再びパンを貰った。
貰ったパンを口に含むと何とも言えない味と、信じられない程の眠気がやってきたが、耐えられない程でも無かったので、エトワはそのまま日用品の備蓄をしている担当者に会いに行った、そこに居たのは首なし族の男?で、ジッとこちらを見つめたと思えば、急いで茶と椅子を持ってきてくれた、茶は普通の味だったが彼は、何か必死に訴えているようで、それを分かってあげられないエトワは少し情けなく感じたが、帰り際には何かが好転したのかはしゃいでいた、その姿を見ているとエトワの眠気もすっかり飛んで行ってしまった。
ある程度のこのエルフの里を見回って、凡その全貌がつかめた辺りで探索を切り上げ、待ち合わせの予定とも言えるラーヴァストのアトリエへとエトワは足を運ぶ。
「見かけよりも随分広く感じる…、てか凄い散らかっている。この本とか巻物は全部魔法関係なのか?」
「おぉ―エトワか存外早かったな、二日は待つと思っていたんだが。お前ちゃんとこの里の存在に挨拶はしたのか?」
ニヤリとした表情をこちらに向けられても、エトワはこの里で重要な場所であろう所は、基本的に目は通している、残念ながら誰が誰だという区別は一切つけられていないのが正直な話ではあるのだが。
「なんだ本当に何もなかったのか…てっきりインス辺りに睡眠薬でも盛られたと思ったのだが…さてはあれか?クーパスあたりが気を遣ったな?」
「確かに酷い眠気に襲われたけど、首なし族の彼?に茶を貰ったら眠気は収まったたね」
「なるほどまぁいい、そこに座れ。試験より先にお前の中身を見せろ」
語られた名前の殆どが記憶に残っていないが、エトワが体験した経験から凡そどの場面であったかという想像はついた。
だがいきなり中身を見せろと言われてもエトワも魚ではない、三枚おろしのようになって生きていられる自信は一切ないが、一応試してみる位の価値はあるのかもしれない。
「オイ待て馬鹿、何刃物を自分に突きつけている中身を見せろという話はそういう話では…お前いくらなんでも常識外が過ぎるだろ……」
呆れてモノも言えないのか、がっくりと肩を落として、魔法によりラーヴァストは彼の動きを完全に制止させる。
魔法が効きにくい、だが効きにくくても、圧倒的なまでの差があるからこそ彼女は彼を静止させることができるのだろう。
「いや中身っていうから内臓系かと…悪かったごめんよ、ラーヴァ」
「あぁもういい、そこに座っていろ。………どうして私が動かないといけないんだ全く…」
愚痴と文句を口にしながらも、なにやら高度な魔法技術が展開されているのは確かだが、この魔法によって何がわかり、何を知られるのかをエトワは知らない。
普通ならば危機感を覚えるような状況なのかもしれないが、何故かエトワは気楽に待っていられる相手は四天王の中でも最強の存在で、恐らくエトワが一生を賭けて挑んだとしても、勝ちを得るのは万に一つか、それとも億に一つか、その程度の勝率だ。
だからといって最初から諦めている訳でもない、だがどうしてか彼女に対しては警戒を少し緩めしまう、恐らく確かにある勝利への確率と、生涯を賭けても届かないという微妙な積み重ねが、その小さい体から発せられていると考えるからこそ違和感を抱くのだろう。
「ラーヴァ?もうそろそろ動いてもいいかな?」
「あぁ構わない…、解析は完了した。ついでに門の外で待っていろ試験はそこで行う」
「はーい、できる限り複雑なモノにはしないでくれると助かるよ、じゃあまた後でねラーヴァ」
エトワは手を振りながらアトリエの外へと出る、エトワが確実に外に出た事を確認してからラーヴァストは自身の胸に手を当てる。胸が高鳴る音がはっきりと聞こえる、そうさせているのは彼が持っている性質もあるが、なにより矛盾を操れる存在だったという事が大きかったのだと思ったのだが、それも違うらしい。
「全くハーフの連中はどいつもこいつもイカレているな、どういう感情で子を宿したんだか全く…、まさか人と魔物の子とは本人も思わないだろうな…」
人と魔物、人類と魔族は交配する事が可能だ、だが人類も魔族も魔物との交配はできない、というより試すモノも居ないだろう、だがラーヴァストにとっては一つだけ心当たりがあるからこそ、ただただ彼女からすればエトワという存在そのものが最高の生きた標本が目の前に現れた、だからこそ彼女は笑う。
「これはもしかすると私が手放せなくなるか?」
そんな世迷言をラーヴァストは口にしながら、彼女はまたも神出鬼没の幽霊かのように、その場から蝶の様に可憐に舞うように彼女は自然に浮き、そして今いる場所からブロンドの髪が一瞬上に舞い上がったと同時にその痕跡をこの世界から消した。
ここまで読んでいただきありがとうございました




