第七節 魔王四天王 2
おはようございます
アウラと言えばシリーズ第二弾が登場しました
「お待たせ…アン待たせてしまった悪かったわね、アナタは休んでいなさい」
ピンク色の髪の毛を靡かせる彼女がそこには居た、見間違える事はないもう都市をでて7時間は過ぎたというのに、彼女は舞い戻ってきた、まるでヒーローの様に。
「黒山羊族の少年、君にはアンを任せたつもりだったのだけれど、まぁいいわ…今回ばかりは相手が悪すぎたという事で許すしかないわね」
「誰?魔法都市の関係者、いや違う。まぁ邪魔ものに変わりはない排除しようか」
緑髪を揺らし、エルフはすぐさまシエルの死角に移動し、魔法を展開する。
「『魔法・世界に刻む大嵐』」
「『魔法・生成 持ちてのいない騎士の剣』」
全てが吸い込まれるのではないかというハリケーンを相手に、シエルはいつも通りのネームレスで対応する。
というのも自然そのものという高レベルな魔法を扱う存在にとって、魔法の打ち合いをするだけ不毛というのは500年前に理解している。
「『魔法・自然の怒りを鎮めたもう(ナチューレカルメ)』」
自然は自然現象を魔法で起こしている、魔力で生成や成形している訳ではないどこから持ってきたというのであれば話は変わるが、ならば自然災害時の最後の手段として使うような大魔法で相殺してやれば、自然現象そのものが落ち着く。
「獲ったわ…」
数百の騎士の剣が、相手のエルフを球体上に押しつぶし逃がさないように串刺しにする。
「中々やるね…魔法使い同士の戦いはこうじゃなくちゃ『魔法・この世の地獄』」
彼女を包み込んだ大量の騎士の剣は、彼女から発せられた溶岩の如く固体の様な液体が彼女を中心に溢れでる、名の通りこの世の地獄を今この場に作ろうとしているような魔法だ長い戦いにする訳にはいかない、長い戦いにすればこの都市そのものがダメになる。
「仕方ないわね、これはもう」
諦めたかの様にシエルは杖を目の前に立たせる、そして顕現させるのは天秤だった。
魔角族の力を使ったところで、恐らく意味はない故に魔角族でもなく全く別の存在として自らを成立させる為に現在使用している魔法を一時的に解除の準備をする。
「流石にそれを街中にバラまくのは看過できないわね『魔法・空から生まれた津波』」
「フフッ凄いね君、本当に人類サイドの存在なのかな?どうあがいても君の存在は人類の枠組みを越えている、あぁ成程ね」
迫りくるマグマの対処を大量の水という質量で解決する、途轍もない熱気と水蒸気が上がり視界が防がれる、だが防御魔法という基礎さえ使えたらこの程度は耐えられる。
そしてやはり相手のエルフはこの中でも視認できるのだ、だからこそ納得した。
今からやる行為はシエルという存在の否定であり、同時にこの世から隔絶を意味する。
どういう訳か、ずっとそれを隠してきたのに、少女を守る為ならばそれを明かしてもいいと思ってしまえた、そういう自分がいることが何故か無性に嬉しく感じ、シエルは今の嬉しさの根幹たる少女を守る為に自身に付与されている魔法を解除する。
薄ピンク色の髪が揺れ、紫色のメッシュが幾つも均等に入っておりそして頭の片側に生えた魔角の角が彼女をより目立たせる。
ただの髪色と言ってしまえばそれまでだが、その他の偽装魔法も今勝つ為に解除している以上、もう隠せることは無いだろう、両親が偽装し始めてから500年かけて行った偽装を、彼女はたった一人の命を賭ける価値も感じない少女の為に解く、彼女は少し笑みを零しながら言葉を紡ぐ。
「我ながらなんて無駄な事したのかしらね、だけれどここでアナタを殺せば証人は一人減る…そう考える事で納得することにするわ」
その姿を見て笑っているのはエルフの彼女だけであり、ここに居る全ての存在は助けに来たはずのシエルを見て、感謝などという思いは疾うに消え去り畏怖という感情が全てを支配している。
「シエル君……君は…」
「その特徴は…ハーフ…この世界の禁忌たる存在…」
「校長そして黒山羊族の少年は一目でわかるのね…、そう私はハーフよ」
この世で最も存在してはいけない生物が自らであると、彼女は今簡単に宣言してみせた。
「ある一説によると魔族と人類の違いは、その種族間で交配ができるかどうかと言われていたけれど、私の存在がその説を今否定したわね。……ようするに魔族も人類も同じ根幹は同じ所に帰路する。けれどハーフたる存在がなぜ禁忌と呼ばれるのか?」
その解答権を受け渡すように、目の前にいるエルフの彼女に目を向ける。
「私も初めてみた、驚きだ。そして君の問いに答えよう、それは魔法による遺伝子学を用いずに性交によって生まれた種である場合、それは知性生命の枠組み両親の種族からも独立した種族、いわば知性生命の枠組みから外れた存在になる、それこそ魔物に最も近しいと言ってもいい、君は人外そのものだ」
人外、魔族という意味で言っている訳ではない、それだけの禁忌そのものたる存在だからこそ生命として芽生えることさえもが悪しとなり、そして生きていくだけでその存在は否定され続ける、これから先彼女が産み出した魔法は誰かのモノへとすり替えられていくだろう、歴史さえも改変しなければならない程の禁忌、それがハーフという存在だった。
「まぁ自己紹介も終えた、問答はもう要らないわよね?」
「そうだね、問答は不要だ」
開戦するのは、頂上決戦。
相対するはこの世の禁忌であるハーフのシエルと、最強種の一角にして魔王直下四天王が一柱エルフ族の彼女。
始めの攻撃から人類の魔法は既に置いてきぼりのモノとなる。
「『魔法・世界を飲み込む業火』」
エルフの彼女が放つ先ほどよりも高密度で高温の恐らく太陽から放たれる爆風そのものとも言える一撃が放たれる、防御魔法越しですら熱波を感じ熱くなり、一瞬でも防御への気を怠ればその隙間から体を溶かすのは容易なほどの熱。
「『魔法・大地を裂く雷』」
そしてシエルが放つのはこの世で誰も見た事の無い雷だ、この星では一生墜ちることの無い雷をその魔法に直接当てて相殺する。
大規模魔法の連発、背の低い建物すらも、視界に映るだけ邪魔だった。故に一度シエルは防御を怠り相殺ではなく、エルフの移動を試みる。
「………」
人が消し炭になってもおかしくない電圧を受けても尚ピンピンとしているエルフの彼女は実に最強種らしい、こんなモノと真面目に戦うのがアホらしく感じたからこそ人類は停滞という戦争を取っているのだろう。
「実はね二度と戦いたくないと思っていたのよ、エルフとは」
「そう…じゃあそのままじっとしていてくれたら楽に殺してあげるけど?」
エルフの彼女は感情が乏しいのか、言葉をその通りに受け取っている、これが良い事か悪い事かはシエルにとっても分からない、というよりエルフとの実践など500年前にしたっきりだ、それ以降も一度だけ手合わせした事がるが、それは戦闘とも言えないモノになっていた。
「けれどアナタがこの程度なら、私の方が圧倒的有利だもの、勝ち馬を逃すほど私、頭は悪くないの…」
「へぇー、言うね」
雷と炎が混じり合い、もうどちらが主導権を握っているのか分からない程の魔法と魔法のぶつかりあい、本来あるべきだった業火も雷もそこには存在せず。
ただそこに在るのはプラズマ化した、攻撃が周辺全てを崩壊させていく光景だけであり、豊な自然は次々と不毛なる大地へと変化していく。
この生態系を立て直すのに何年かかるのか、それを彼女らが知ったことは無い何故ならば有限でありながら無限のように生き続ける彼女らにとって100年後や200年後などその時はその時で勝手に解決しているという結果を認識している。
だからつまりはどうにかなるのだ、ここまで荒らしても誰かが持つ諦めない心が、少しの年月を辿れば実を結ぶという事を彼女らは知っている。
「大きな隙は流石にそう簡単に生まれないわよね…、ならやっぱり隙を作るしかないのかしら?」
「無駄口叩いている余裕があるの?魔力量は大丈夫?私は600年以上生きているエルフだ、君が幾らハーフだからと言ってそんな魔力に余裕があるとは思えない」
残念ながらシエルも500年以上生きている魔角族とエルフのハーフである事に変わりはない、だがこのまま行けば魔力差で潰されるというのも事実だ、相手が同情でもしてくれない限りは基本この生きた年月を追い越す研鑽というのは、時間が一定である限り不可能なことだ、だからこそその時間を覆すようなズルをする必要がある。
シエルが天秤の魔道具を取り出すことができても使用にまで持っていけない、だからこそ大幅な隙を作る必要があるシエルも甚大な被害を受ける事やむなしといった状況であるからこそ、この手が打てる。
シエルは魔力制御を杖の先端に集め、人類の結晶である貫通魔法を放つ。
「『魔法・貫通する弾丸』ただの貫通魔法でもアナタ言っていた通り魔力を盛り、出力を最高効率にしてしまえばこのプラズマの空すらも貫通していく」
相手が防御魔法を選択するか反射を選択するかの賭けではあったが、シエルは賭けに勝ち、故に本来の形での独自魔法を詠唱、展開することができる大きな隙が生まれた。
「私はエルフと魔角族のハーフ、だから独自魔法も使える。本来であれば制限付きの使いみちの乏しい魔法だったけれど、全ての制限を解いたこの状態なら本来の力を引き出せるわ」
「天秤…魔力の総量でも計るのかな?残念だけど君は私より生きた年月が…」
足りない、足りないが魔力量だけを上回ることが可能なのが魔角族だ。
「…成程…魔角かいいよ試してみるといい、私も君の独自魔法は見て見たいからね」
「『魔法・絶対なる公平性』アナタと私の魔力を計り完全な公平に分配する魔法…、魔力が少ないモノは魔力が多いモノから魔力を受け取り普段以上の魔法行使ができる」
「成程それで手数で私から勝つつもりなのかな?」
「違うわ、私が貰うのは後者の魔力量が多い場合、魔力量が少ないモノに魔力を献上する事で魔法の性能を引き上げる」
この魔力の分配は完全に自動で行われ、そして何人たりとも介入を許さない、介入ができないからこそその魔法として特性は一切の不具合はなく、完全なる公平性の中で魔法はその効果を発揮する。
少しこちら側に傾いていた天秤が徐々にではあるが、エルフの彼女側に戻りつつある、故にこの時点で魔法の効力は発動を開始している。
「『魔法・生成 持ちてのいない騎士の剣』全方位に設置完了………」
「っ『魔法・鏡の中のアナタに(ミロワール・ヴ・ダン)』魔力の許容量が増えたのなら、それを逆手にとって…」
「剣の弾丸………発射…」
薄ピンク色の髪に紫色のメッシュを入れた彼女の頭には今まで存在しなかった巨大な角んが右頭蓋からむき出しになっていた、山羊のような形でもアンのように羊のような角であればまだ可愛げがあったモノの彼女の角は頭の外側へとしなりをつけて再び天へ伸びる角だった、それも片方だけの角。
ハーフ故の特性なのか、どうかはシエル本人すら知りはしない、だがこれで帽子は被れなくなってしまった、残念だ…そう思いながら地上へと着地する。
「アナタの敗因は私相手にその魔法を使ったことよ、自分の魔法の弱点くらいよく知っているモノ」
魔法を撃った本人が視認するからこそ鏡として相手を視認できるのが、この反射魔法だ、彼女が作り出した反射魔法は撃った本人へと反射する、だがそもそも相手と視認していなければ?最初から相手を眼中に捉えて無ければ?鏡には誰も映らない、故に反射のしようがない、鏡に映るのはただそちらに向かっていく剣だけ。
「疲れたわね、魔法都市で温泉にでも浸かりたい所だけど…」
きっとそうはいかない、誰もボロボロなシエルを迎え入れる筈がない、それどころか。
「『黒魔法・魔力差による命令権』シエル…その場で自害しろ」
空からシエルが意識していないにもかかわらず操作されて降ってきたネームレスを手に取り首に宛がう、流石に魔法学校最強の存在。
ここまで疲弊すれば魔力量の匹敵する程度にはなる、だがそれでもまだこちらの方が魔力量は若干多い、対抗し続ける度に減っていく一方だが会話くらいは試みることは可能だった。
「寿命を使っての命令権を選択しなくてよかったわ、そうしたら先に死ぬのはアナタだったもの、流石に魔法界にとってアナタ程の人材を失うのは冗談にしても笑えないわね」
「言い残す事はそれだけか…ハーフに与える慈悲など無いぞ?」
言葉通り慈悲など無いらしい、刃が徐々に首元に近づいて来ているのがわかる。ハーフだからと言って悪い事した訳ではないのに嫌われたモノだ。
「アナタ達が私たちを恐れるのはきっと勇者が魔王と呼ばれた魔物を倒した時の伝承から始まるのでしょうね、魔物の正体はこの世界の種全ての特徴を持った魔物、そして勇者が見た愛の街での悲劇、どこまでが神話でどこからが実話なのかは分からないけれど…」
魔王と呼ばれた魔物の話は有名だ、一説には魔物の王こそがこの世界の知性生命の始まりという起源ともされる説も出ていたりする、それはシエルがアンにある授業中の暇な時間の片手間に語った事だからか、シエルはすんなりとその説を思い出せた。
そして愛の街の話しは、禁忌を信じずに愛に生きた街の人々が最後に辿った悲劇の物語であった。
「お前達ハーフの人外こそが我々の祖先という妄言を信じろと?」
「違うわよ、私たちをなぜそこまで恐れるかという事を聞いてみたかったの…、でもアナタの言葉でようやくわかった…黒山羊族の少年、君は人生の内どれだけ魔法に注いでいるか考えた事はあるかしら?」
「……人生のほぼ全てを捧げているつもりだが?」
「やっぱりそこが違うのね、私たちから言わせればアナタたちはなんら人生を捧げていない、何故ならばアナタ達は関係を大事にする、娯楽を楽しめる、そして今会話しているこの時間ですら、会話もできるしそして私に対する危機感という感情を抱いているんだもの」
いつの日かアンが言っていた、魔法に依存し執着していると言っていたが、ここでその話がようやく合点がいく魔法に魅了されたのが本来の彼女である。
しかし普通の存在では依存も執着もできないのだ、できるのだとしたら魔法都市なんて場所は必要ないのだ、彼女ように魔法というモノに魅了されているのならば、彼女と同じく一人で魔法を極めたほうが早い。
「私はこの瞬間も魔法の事を考えているの、魔法について考えることに脳が支配されている。自発的に魔法を考えている時は若干の人らしい人格で私たちは会話ができる、けれど今の私には会話ができない、アナタ達は私が数秒前に何と言ったか思い出せても私は思い出せない、魔法に依存し執着しているからこそ人生の全てを捧げるべき命題を見つけてしまったからこそ、人外の一歩は大きくなるのよ」
「そうか…そこまで狂っているなら今楽に……なっ」
そこにはネームレスを首元に宛がい血を流す彼女は居らず、ネームレスを分解し髪の毛を直しているシエルが存在している。
抗っている間は魔力を使う、故に魔力量が一度劣った場合どれだけ抗っても命令権は持続する、その筈だった。
「魔力量も命が源だとするのなら、効率の悪い魔力の前借という寿命を削って行う魔法詠唱という荒業が確立されているのなら、寿命を削ることで魔力も回復できると私は考えたわ…、そしたら案の定上手く行ったわね、使った寿命は1年で普通の種族からすれば大きな一年かもしれない、けれど私はエルフでもある100年だろうが200年だろうが大して違いが分からない、エルフの寿命は永遠に近いとされているのだから…」
そうして彼女は浮遊し前に進む、誰も手を加える事は出来ない、先ほどの戦いをみてなお自らが彼女らの領域に及ぶと錯覚できるのなら、それは途轍もない大馬鹿者だ。
けれど一人だけ動ける存在がいる、この中で唯一彼女がこの世の禁忌である事知っていた少女だけが彼女を呼び止める。
「シエル!」
「あらアン…よかったわね掌の傷塞がって、エトワに伝えたい事であったかしら?」
「ううん、違うよシエルに伝えることしかないから。………あの日私を助けてくれてありがとう!そしてこの場所に連れてきてくれてありがとう!私は正直ハーフが禁忌ってこと以外詳しく知らないから」
涙ぐみながらも少女ははっきりと、この世の全てから否定される存在に感謝を述べる、助けてくれたこと、ここまで面倒を見てくれたことそれは、シエルがどんな存在でも変わりはない事実であるからこそ、アンは涙ぐんだ顔でも笑って手を振り続ける。
「だから改めて言うね、また会おうねシエル!次会う時には私ももっと強くなって…シエルの魔法開拓の役に立てるように私も頑張るから、シエルも頑張って!」
無垢な少女の言葉、彼女の言葉がどれ程重みのある言葉なのか、どれ程覚悟のある言葉なのかそれを知ることはシエルにはできないが、それでもシエルは耐え切れずに少女へ向かって駆け出し、そして少女深く抱きしめる。
(私にもう一度光を見せてくれたアナタが、私も大好きよ)
そう想いを込めて抱きしめる、言葉にはできない。下手に言葉にすると少女すらも罪に問われる可能性が捨てきれないから。だからこそ耳元で囁くようにそっと呟く。
「私も愛しているわ…アン。それじゃあね……………」
その一言を残しシエルは移動魔法を使い、その場から姿を消した。
残ったモノは少女が流した涙の水たまりと、そして崩壊した魔法都市、そして再び安息がやってきた事を伝えるように朝日の陽が山脈から顔を出す。
少女はすぐには立ち直れないであろう、けれどそれでもいつかまた会おうと約束したのだから、シエルという存在は今ここで母親の想いを理解した。
母もこういう感情だったのだと、ハーフとして失われた知性生命として持つべき感情を少しだけ理解出来たような気が、シエルは産まれて始めてできたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました




