第六節 魔法都市から考える“種族”とは 3
おはようございます
これから結構バトルが始まるってるはずです
批評や悪評をしていただけたら喜びます
錨を降ろして、接岸し船が到着した音をシエルは察知し、空中で起き上がる。
「久しぶりに見る夢がこれとはね…、あまりいい予感がしないわね。魔法都市ジマラ・グレーヌ、アンの入学に余計な事が交らなければいいのだけど…まぁ行ってみて見ましょうか」
未だ目を擦って出てくるアンを担ぎ背中におんぶし、そう遠くはない魔法都市までの道のりをシエルは歩き始めた。
約三日も移動すれば魔法都市に辿り着く、その間に済ますべき会話は終わらせておくのが、今後の為になると思ったシエルは魔法都市の見える場所、山の休憩所の様な場所で飲み物を注ぎながら今後の今後の推移を語り始める。
「最初から言っていたけど、私の目的はアナタを魔法都市の魔法学校に入学させること、そこで私とアナタお別れ、ここまでは納得しているわね?」
「うん……、ん、ありがと」
カップに淹れた紅茶を手渡して、今一度安堵するここでもし嫌だと言われたらどうしようとも考えたが、そこの所はまだ理解してくれているらしい。
「でも魔法学校って私でも入れるの?村でも最底辺だったよ?」
「それは独自魔法が使えなかったからでしょう?今のアナタはそれが使えるし、この数か月、私がある程度の魔法の教養を入れ込んである、そこに心配はいらないわよ」
「でも学校…少し怖いなぁ。この角がまた狙われるんじゃないかって?」
アンが暮らしていたディアコルム村、恐らく相伝の独自魔法を継承することなく術者が死んでしまったために起きた事件だ、誰とも関わらない自給自足を続ければいいと考えたが故に、戦闘魔法の研究を怠り魔族に滅ぼされた少女の故郷。
「まぁアンの場合は大丈夫よ、あの魔法都市は魔角族の保護もしている。それこそ罪人でもならなければ、角を斬られることは無いわ。仮に魔法学校に落ちたら研究として独自魔法解明の手伝いをさせられる程度よ」
「罪人……窃盗とか?偶にシエルがやってる、数の総数を誤魔化して……」
「スゥーー……………………………ッハッケホッ…コホン…」
一度は耐えたモノの、まさかバレているとは思わず守りきろうとしたその表情は数秒の時を経て口に含んだ紅茶を吐き出す事で咳込み、そして冷静を保とうと咳払いを一度…。
「き、ききき気づいていたのねね…、さっさっさ流石がよ、あああんちゃん」
声が震えており、普段は使わない敬称までも持ち出してきている100%黒だ。
「咎めるつもりは無いよ…悪徳商人だったもんあの時は、でもそれでもバレたらシエルが悪いんだよね?」
「コホン…えぇ基本その都市ごとに決まりがあるのは知っているわね?」
「え?うん」
「魔法都市ならではだけれど魔導書、魔道具の都市外への無断持ち出しや、それこそ魔角族の角を無理やりに奪うこと、まぁどれもしっかりとした理由が認められれば厳重注意と軽い処罰程度に抑えられる、一発アウトなんてそうあるモノじゃないのよ。それと魔族も学びに来ていたり、それこそ教壇に立っている魔族もいるけれど少なくても都市としては世界一安全な街よ、安心しなさい」
「魔族が?なんで?人類の魔法が魔族側に伝わったらまずいんじゃ?」
「いつでも戦争する気ならば、それは危ないのでしょうけどけれど、治癒魔法の一部は彼らが研究を続けたからこそ発展してきた一部分もある、まぁ時と場合なのよ」
魔族がいなければ戦争は起きないが、魔族も理由無しに戦争をする程蛮族ではない、大体が魔王と呼ばれる存在に命令されてか、自身たちの更なる繁栄や種そのものの保護の為が理由だろう。
「なんだか都合が良いんだね、魔族って。あまり好きじゃないや」
「彼らの前でそれを言っちゃダメよ?人類対魔族の構図ができたのは、人類サイドの問題もあるのだから」
カップに入った紅茶を飲み終え、今日中には魔法都市に辿り着く為に茶器を仕舞い、再び山を下る準備に入る。
嬉しい事にこの周辺は魔法都市が張った結界のお蔭もあるのか魔物を見ることが少ない、塀や村を越え街や国を出たもっとも自由な場所での死因の5割が魔物による被害だ、その危険性そのものに殆ど合うことが無いというのは、本当に実に安全な場所だ。
アンを預ける都市をここにしてよかった…シエルは心からそう思う。
「そう言えばシエル、一発アウトになることってどんな事なの?」
「興味持たれて実行されても困るのだけれど、まぁ実践しない為にも知識は必要かしら?まぁ基本的には殺害行為やそれこそ性犯罪…………、それと」
「それと?」
シエルの言葉が詰まる、出すべき言葉をどういう形で出そうか悩んでいるように見える、首を少し傾げシエルは悩む、その言葉がアンという少女から出てくるのは好ましくないのだろう、時と場合によっては守衛に調書まで取られるであろう言葉だからだ。
「シエル?」
「うーん、そうね私みたいな存在は一発で首を跳ねられるわ」
「あ…………」
アンは言葉を失う、何故ならばアンはたった一つのシエルが守り通さなければいけない秘密を知っているからだ。
誰かを殺害することよりも国家や都市にテロを仕掛けることよりも重い、この世で唯一破ってはならないとされる禁忌だからこそ、アンから紡ぐべき言葉が出てくることは無かった。
「さぁ、行くわよ。魔法都市ジマラ・グレーヌの試験会場へ!余裕で試験を蹴散らして、アンを一人立ちさせるじゃない!」
「お、おぉー」
いきなり上がるシエルのテンションが無理をしたモノでも無く、本当に魔法都市が楽しみなのだと悟らせる声色をしていると同時に、アンは一つの疑問を抱いた、これはエトワにも感じる二人の類似性だ。
まるで二つ人格があるようだ、と。何か特定の事にだけ興味の指針が働き、言ってしまえばいつもは落ち着いている二人が、特定の出来事に関わっている間だけは言い方が正しいのかアンにも分からないが。
(人間身があるように感じる…そう言えばエトワと別れてからこんな表情するのは、久しぶりに見た)
そう疑問を抱くが、だが知性生命が持ちうる性格などというのは千差万別であり、彼女ら偶々にそういう性格なのだろうと考えた方がまだ納得いく。
「気のせいだよね?」
「何か言ったかしら?アンー、早く行くわよー」
「今行くー」
彼女と少女は駆ける、山を下り、川を渡り、平原を練り歩く、そして今日の昼には辿り着くのだ、目的の地であり、そして別れの都市。
魔法都市ジマラ・グレーヌへと
魔法都市への到着後シエルは唖然とすることになる。
魔法学校への知識が恐らくズレていたのだ、つい最近まではそうだったという認識のままここまで来てしまった、故に魔法学校への入学手続きの話しになった時にほころびが出る、クエッションマークそれが二人の間に浮かぶ、説明している方もある程度の常識が存在だというのに、ある一部分で確実に互いの認識が歪んでいる。
「へ?…学費?」
「えぇ…そうです…。グレーヌ魔法学校に入学して頂くためにはまず入学金の納付を…」
「ちょ、ちょっと持ち合わせを確認してもいいかしら?」
「ど、どうぞ?」
恐る恐る路銀を入れた袋を開く、出てきたのはゴミの様な銅貨が10枚、質も悪いこれではどうあがいても足りない、見せかけだけでも…と思い至ったものの、ここは魔法都市そんな偽装一度で見破られ好くて出入り禁止、最悪懲罰が待っているだろう。
「そ、そうよ確か特待制度があった筈よね?」
思い出したかのようにシエルは声を荒げ、手で小槌を打つように音を鳴らす。
「えぇと、A級魔法使いからの推薦があれば特待制度を使用できますが、推薦状は持っているでしょうか?」
「へ?推薦状?A級魔法使い?全く聞き馴染がないのだけれど、この学校で上位のクラスに所属している相手を吹き飛ばせば特待制度得られるって最近言ってなかったかしら?」
「それは約50年前の制度ですね、魔法都市として優秀な魔法使いを取り入れる為に貧富な差よりも実力を重視していた時代の話しです、ですがこの都市もここ十数年で大きく飛躍し、ここを拠点に住まう方々も増えてきたので、基本的入学に関してはA級魔法使いの推薦特待か、入学試験を受けて貰って入学資金の振り込みが確認でできしだい………」
放心それが、シエルの今の感情であり、アンの心境でもある。
(50年前が最近?)
ここで入学資金を溜めるとなるとエトワとの合流が1か月は先送りの事項となる、それは避けなければならない。
「そうよ、ボナパルト校長!居ないかしら?私が在籍していた時に…」
「ボナパルト学園長じゃよ今は……久しぶりじゃのシエル君50年ぶりというのに君は随分変わらない」
年老いた老人、いつかの学園生活で校長として彼女の破滅的にまで魔法の極致を目指すという、大義名分の為にあらゆる実験を間近で見続けた数少ないシエルの恩師でもある人なのだろう。
「ん?今さらっと50年前って…つまりシエルって…今何さ…ムグッムゥウウー」
「校長こそ随分お歳を召しましたね、けれどあれだけの始末書を書いていた校長が今や学園長だなんて当時を知っている存在は皆大いに驚くでしょう…クスクス」
「あれの殆どは君の所為じゃ…、ああ思い出しただけで頭痛がしてきたな…」
悪行の数々をその目で見続け、そしてその上全ての責任を負ってきた人物だ、校長をしていた時代で30幾つ校長を背負うには十分過ぎる程若く才能に満ち溢れていた存在でも人として齢90を超えるとその覇気も無くなっていく。
「私はエルフの血が入った混血ですので、見た目の変わらなさという点だけは遺伝してくれたようですね」
「敬語のシエルってなんか新鮮だ…」
手で塞がれたアンがシエルの掌を退けて、空気を確保し今度は逆鱗に触れなさそうな言葉を紡ぐ、確かにいつもはもっと女性らしさを前面に表している事が多いと感じるが、一体どういう了見で、このような人柄を演じているのだろうか?
「ほぉー君は魔法の極致へ至らんが為に一人旅をしていると思っていたが、弟子を取っていたのか、それも魔角族…そして先ほどの荒らぶりよう、大まかな事は察した」
「はい、弟子ではありませんが魔族に故郷を焼かれたこの子の身請けの場所となっていただきたいのです、彼女には、アンにはもしかすると私をも上回る魔法の素質が眠っているかもしれませんよ?」
「君がそこまで断言をするのか…、よかろう!君と同じ方式で試験を取ろう、もし不合格になっても無償での入学も認めよう…」
何か裏がある、シエルでなくてもその言葉の本質には気づいただろう。
「私がこの学園に入ることを約束でもしますか?」
「そうだとも、君程優秀な存在がグレーヌ魔法学校に居れば人類の、そして世界の魔法は今の数倍は進歩する、故にこちらも相応の魔法使いを持って試験を開始させてもらおう、それでも良いかね?」
へばり付いた笑顔をシエルは見せるが、その内面では間違いなく目の前のもと恩師に対して中指を立てる程度には、絶対に嫌と拒否反応を出している。
「それを決めるのは私じゃありませんよ、この子自身です。どうしたいのかしら?アンは」
回答はアンに任される、どう答えても良いのだろう、今のシエルはアンの意見を尊重する。
それがシエル自身の望みを遠のけることとなっても、シエルはきっとこの約束を守る。
「シエルはエトワと一緒に冒険したい?」
「どうしたのかしら急に?」
「答えて!どうしてシエルはエトワとの冒険を続けるの?」
確かな意思を持つその瞳をシエルにあてる、もう光すら歪曲し正しく入ってこない、入れることを諦めた眼球を正常に戻すかのように少女は問う。
なぜエトワと冒険をし始めたのか、それを改めて考える。否…考えるのはエトワに付いて回るようになった理由をきっと少女は求めている。
残念な事に恋愛感情なんてモノは持っての他と言いたくなるほどに持ち合わせていない、そもそもエトワという存在を好くという考えを持ち合わせた事すらない、彼に近づく理由はただ一つだった。
「魔法の極致が見えたの、エトワを観察していたトータスの森の中で彼は、私たち魔法使いが目指す極致に魔法を使わずに到達していた、だからかしら?思いが溢れて止まらない彼を理解したい、この旅もそれが目的。正直魔王の討伐なんてどうでもいいのよ」
どうでもいい、どうでも良過ぎる、魔法には不可能な矛盾の実証、その矛盾を魔法ではなくただの剣技で実証できる存在が居る、なればその存在の近くにいればいつの日かは、辿り着くための道のりならばそれが魔王討伐だろうがついでに成し遂げてもいい、ただシエルはそう思っている。
「ならじゃあちゃんと試験に合格して見せる、ちゃんと見ていてね、私頑張る」
「そう、なら応援しておくわ…あと条件追加いいかしら?」
「構わんよ、こちらも君に相当な負担を背負わせているの重々承知だ」
その言葉を待っていましたと言わんばかりにシエルは身を乗り出し、新たな条件を付けくわえる、初めからそれこそが本来の目的だったのか、アンはいいように使われた気もしてしまうが、それはアンにとっても喜ばしい条件である事に変わりはない。
「で条件って何つけるの?」
アンの第一の疑問はこれだ、何を条件にするのか何か自分にとって有利な事を付け加えるのか、それともまたシエルの魔道具や魔導書が増えるのか、アンとしてはどちらでも構わない事ではあったのだが、基本的に何でもいいとする彼女にとっては珍しい為やはりすこし気になったのだ。
「はて、それで条件というのは何かね?」
「あの時の試験はタッチで合格、場外へ弾き出したら特典だったわよね?今回は基本的に結果を求められていない、だからこそタッチで三日間の温泉宿に宿泊権と、弾き飛ばしで魔法都市名物のスイーツカフェ全店無料を特典として私は願うわ!」
シエルはそう己の欲望を高らかに宣言する、それは本当にただの少女のような甘い願望だった、しかし体はいつまでも続く長旅によって極楽を求めているのもまた事実。
「えぇ……シエルだけズルーい」
「何を勘違いしていいるのよ?アナタも一緒によ、旅の別れ、最後くらいは華やかなモノにしましょう、ね?」
「……うん!」
やはり彼女は優しい、本質的には何処か冷酷な所はあれど基本的に善人だ、いわば飴と鞭を上手く使い分けていると言ってもいい。
だからこそ関係を持つ者や、困窮者を見つけた場合積極的に相手の益になることや助けることを優先する、けれども確かな事を言うのであればそれは時と場合に左右される事が多い、それこそ魔角族の村を見に行く時だってそうだった。
彼女は何か理由があれば、その他を容易に切り捨てる。
だからこそ今回のアンを気遣う事自体は珍しことではない、けれど最後だからと理由をつけてまで天涯孤独の少女に寄り添おうと決めた彼女は珍しいのである。
「わかりました、アナタを魔法学校に取り込むのに対等な条件とするにはそれが妥当じゃのう、シエル君の可愛い弟子もそれ程の実力を持っている、私にもそれは見て理解した。……ふむ、…今日の夕刻、グレーヌ魔法学校のアリーナを試験場とする、それでよいかね?」
「えぇわかりましたボナパルト校長、それだけの時間を与えてくれることに感謝します」
「ほほ、よいよい。それでは楽しみに拝見させていただくよ?」
今まで会話をしていたのは学園長の複製体だったのか、会話が終わった直後から徐々に学園長の体が空気に溶けるように消えていく。
「やっぱり食えない人、…でもそんな校長でも私の存在に未だ確信は得られてないのね」
「シエル?何か言った、早く行こうよ、ちゃんとした魔導書を私も見て見たい」
「私が保有している魔導書もちゃんとした魔導書よ、失礼じゃない?」
一度学園長に別れを告げて、ついでに使用許可を得たグレーヌ魔法学校の頭脳とも言えるこの世界ができてから人類が記した魔法書のほぼ全てが保有されている魔法図書館。
そこにあるのはかつて世界を救った勇者の石像、黒い女性の勇者と普通の男性魔法使いの石像の下で、シエルとアンは夕刻の試験への対策を始めるのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました




