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第四節 どっちの船がお好みで?(上) 2

おはようございます

アウラと言えばというセリフを言わせる実績を達成しました


 白銀の髪が風に乗せられ揺れ動く、月明かりに反射してそれは幻想とも言える美しさであろうことは間違いない、故に彼女は思う、自らの母を。

 自分には全然遺伝する事の無かった美しい紫色の髪と、魔法という誰もが使えるが誰しもに才能の差を感じさせる世界の一部、その中ですら極まっていたと思える技量、端的に言うのであれば彼女の記憶にある自身の憧れへの記憶だ。

(あの人がどうして、……いや多分答えは簡単な事なんだろう)

 ただ心の中でそう思う、月下に佇む一輪の花。自身よりも幼き少女に自身の母を想い馳せるなど、彼女はどうしようもない程に母に焦がれている。

「アナタはいつまでここに残る気なのかしら?……ねぇアン?」

 月の光が届かぬ軒先にあるベンチに腰を掛け、体を前に出して食い入るように彼女にそのような気が無くとも嫌味たらしくシエルは少女に問う、片手間に杖を用意し彼女に掛かった魔法を解きながら。

 いつまで悩んでいるのか?などという愚問を聞きに来たのではなく、いつまで縛られるつもりなのか、少女もそれを分かっていて今のままではダメであろうと知った上で問うた。

「別に…貴方には関係ない…」

「そうね私に関係のない事だもの、アナタの好きにするといいわ」

 何重にも無駄を重ねたプロセスという絡まった紐を解く為に、彼女の魔法は絶えず行使される、別に何も危害は加えてないというのにそこには確実な圧というモノが存在した。

「その魔法は、いつから使えるようになったのかしら?」

「それは………」

 その圧というのは、魔力による物理的な圧であった。

 そしてそれを放っているのは、少女に施された魔法の効力を解きほぐす為に魔法を行使しているシエルではなく、そして魔法の効力が弱まっているアンでも無く。

 その間に入り込む、誰でもない第三者による魔力的な圧。

「まぁアナタがどう思おうと今のアナタじゃどうする事も出来ない事はしっているつもりよ、だからこそアナタが決めなさい。村をこれ以上荒らされないようにした恩人にどうするかを」

「でも…、私じゃどうしようもできないんだもん!」

 少女は叫ぶ、自分ではどうしようもないのだと。

 魔角族として少女の魔法はとても優れていたのだろう、けれどきっとこの村では少女は落ちこぼれとして扱われていたのだと推測する。その際たる理由は魔角族であれば独自の魔法を持つ、だが少女はそれを持ちえなかった、否…発動し得なかった。

「エトワには気づかれなかったみたいね、彼以外と敵意に対しては鈍感だから気づかなかっただけなんだろうけど、でもここまで抑えようとするなんて失望されたくなかったのかしら?」

「知らない…知らない!知らない!今日あったばかりの貴方に私の…何が…」

 魔力は溢れていく、この現状を見れば村人が少女に自らを殺させる者に選択したのにも納得が行く、確かにこの状況を維持できるのなら殺されても良いと思うだろう。

「恐らくきっかけはアナタのお爺さんの死かしら?身近な誰かが亡くなってアナタは初めて魔角族特有の独自魔法が開花したのよね?」

「……………」

 少女は答えない、ただ睨みつけるだけだ、少女ではない少女の間に割り込む存在がシエルに対して睨みを付ける。

「アナタが命を考えなければこれだけの芸当ができる…けれどそれは諸刃の剣。もうアナタ自身の魔力は殆ど尽きていても、それでも彼らを動かすのは淋しさかしら?」

 存在し得ないモノ、存在してもこの世界にとって相容れないモノ、存在してもこちらに干渉できるはずの無いモノがシエルめがけて干渉を開始する。

 杖をすり抜け、服をすり抜け、筋肉をすり抜け、骨をすり抜け、臓腑に至る。

 何段階かのプロセスを無視して、的確に触れたい場所に触れる、それは確かにこの世に身を置く者にはできない芸当だ。

 いつ心臓を握りつぶされてもおかしくはない。

 けれどシエルという存在は冷や汗一つもかいていなかった、それどころか瞳には魔法の境地をまた一つ見られたと言わんばかりの狂気が宿っている。

「どうして欲しい?まだ生きたいかしら?もしアナタが私を殺したければ殺せるわよ…だって心臓を掴まれた状態から早撃ちで私が勝てるイメージなんて出来ないモノ」

 当たり前だ、それだけアンが暴走させている魔法にはポテンシャルが存在する。

 触れることはできないのに、触ることができる矛盾を成立させている、これがシエルの心臓に届く前であれば彼女も魔法で実体を捉える程度の事は出来たかも知れないが、それを彼女自身が拒み、目の前にいる存在こそが決断するべき事とし、年端も行かぬ少女達と自身の命を天秤にかける姿は実にイカれている。

「「………い…イ…き…キ…た…タ…い…イ………」」

 少女と存在し得ないモノがどこかに抱える心という意識の中で、混濁しながらもそしてそこし得ない怨嗟に塗れても、それは誰かの為を想って語った言葉だった。

「それならちゃんと納得しないと…、アナタのご両親も一緒に暮らしていた村人も、アン、悩む必要はないわよね?……だってもう死んでいて、もうアナタの傍には居ないじゃない」

「「……ぅ…ぁああああ………ああああああ……、アアアアアアァァ………」

 どうしても認められぬ、許容できない現実を許容しきれなければ、彼らは彼らが本来居る場所には居られないし、少女は少女が進むべき道を歩めない。

 だからこそ受け入れる、それしか道はない事をシエルは告げる。

「泣きなさい、泣き喚きなさい。今日一晩くらいは、私が胸を貸してあげるから」

 ただただ月の下で薄ピンクの色の髪が靡いている、たった1日のたった一晩、その無にも等しい短い時間程度、彼女の体で白銀の髪と際限を知らずに溢れ出る水滴を隠すために使う時間としては、彼女にとって魔法を使う事よりも容易な事だった。


 *


 少女は食器を洗いながら、もう5ヶ月は経つあの日の事を引きずっている。

 少女にとっては村が全てという考えだったが故に、それとの決別も簡単なモノではない。

 だがそういう状況であってもここは人類も魔族も関係ない誰の領土でも無い自由な場所、それは自由の楽園であり、自由を求めたモノたちの墓場であり、そしてなによりそこに根付いたモノの生態系が存在する、その存在にとっては楽園などではなく自身の所有物に近しい感覚を持っているだろう。

 そのものらに果たして所有物という思考回路が存在し得るのかは知らないが、一度魔物の群れを壊滅させたからと言って、そこに魔物が居ないという保証はないのだ。

 故に村や街、そして大きな国の領土と言う名の生物を守る魔防障壁が無い、この自由の大高原や山脈それが楽園などとは外に出る事のない存在が名付けた仮の姿。

 真の姿こそが、この野生生物の温床。

 この世界における純粋悪とも言える魔物の住処。

「……ッ『魔法・愛しきパパとママ(シェリーペール&メール)』!」

 アンという少女の魔角族として持つ独自の魔法、それは自分が殺めた死者を使役する魔法であった。

 つまり死者であっても自我ある程度には使役できる、それができるのであれば死者は死者ではなくなる。

 故にあの村の人間は彼女に村人全員殺める事を推奨し、そしてシエルにその計画は破壊され、そして彼女が留め続けた死者の魂は恐らくここではないどこかへ帰ったのだろう。

 それでも彼女の為を想った両親が形だけでも娘の旅のお供に、とでも思ったのか魔族に死体を荒らされない為に焼いて骨になった後もこうして彼女の魔法としてついてきている。

 最初にあった筈の自我などもなく、彼女が動かすモノ言わぬ骸には他ならないが、それでも確かに天涯孤独になる事を強いられた少女でも、家族だけは変わらず娘を案じていたのか、確かに存在した家族愛を証明するような魔法だった。

「接近に気づけなかった?……いや私が呆けていただけっ!」

 アンの独自魔法である『魔法・愛しきパパとママ』の最大の効果は、アンが魔法のキャパシティを超えていた時に無意識で発動していた、理不尽に強いられる抵触関係だ。

 相手の攻撃は絶対に魔法で存在する少女の父と母に触れることはできない、けれども少女が操る父と母は相手に触れられる、相互に起きる矛盾こそが最大の効果。

「貫通魔法展開ッ!」

 少女がシエルから改めて教わっている人類の叡智の結晶である『魔法・貫通する弾丸(シュピラ・バル)』、これは相手が無抵抗であれば、あるいはただの魔力的施しを受けていないモノであれば硬度を無視し貫通させる魔法だ。

 だが魔物という存在は魔法を使う事がないが、その肉体は高密度な魔力そのものという無駄な贅沢をしている。

 だがその豊潤な魔力そのものによって魔物は常に魔力的防護を張っているに等しい。

「パパ!ママ!」

 少女の号令に合わせる前に家族であるからこそ心が通じ合っているのか、外套を羽織った骸な両親は既に相手からは触れられないという特性を生かして魔物の心臓部にそのか細い掌をねじ込んでいる。

「『魔法・貫通する弾丸(シュピラ・バル)』!」

 アンの詠唱と共にアンが持つ短い短剣の様な杖と合わせ、一斉掃射と言わんばかりに貫通魔法が魔物たちに命中する。

「やった………、ッまだいるの⁉…この数じゃパパとママが居ても手数が…」

 アンが屠った魔物は計3体、小川の対岸からは丁度水分補給の時間だったのか何体もの魔物が続々と近づいて来ている。

「…でもこれだけの数…魔力も…」

 牽制に貫通魔法や父と母を使って確実にダメージは加えてはいるが、これでは時間稼ぎにしかならずその時間稼ぎもたかが知れている。

 アンは落ちこぼれだった、魔角族なのにも拘らず独自魔法がつい先日まで発言しなかった事からだ、徹底的に基礎中の基礎しか村では叩きこまれていない。

 魔力操作などの圧倒的基礎力という土台はあるからこそ、シエルから教えて貰った、生きていくなかで覚えていた方が良い魔法は1週間程度で使い熟すまでには至った。

 だがそれ以外の魔法の下地が全くないからこそ、現状を打開する魔法を知りえない。

 シエルの様に大規模な魔法は慣れが一番大事だという言葉を思い出す、それは規模を大きくすればするほどに自分が巻き込まれる確率も上がるという事を意味していて、故に大規模な魔法に発展する魔法をアンはまだ教わっていない。

「考えなきゃ…、考えろ…考えて、二人に知らせられれば……打開できる魔法…気づいて貰える魔法……あっ」

 アンはこの場を乗り切る魔法をふと思いつく、それは魔法が苦手な存在でも三日三晩何も考えずに継続し続け発動できるコスパの良い魔法、ただその魔法に過剰な魔力を注ぎ込めばどうなるのか、それを実証したことは無いが、アン自らがイメージした事はできるだろう、どこからその自信が来たのかは分からない、けれど確証はないが少女が持つその白銀の髪であればそれを実行できるだろうという確信があった。

「髪を染める……青白い閃光のようにギラギラと…」

 魔物相手の目くらましにもなる、二人にも気づいて貰える、咄嗟に考えた案にしてはそう悪い案でもない、とりあえずやれることはやるしかないと、少女は魔力を髪に集中させた。


ここまで読んでいただきありがとうございました

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