残像少年
読んで戴けたら嬉しいです。(o´▽`o)ノ
「生きる事には興味が無い」
とその少年は言った。
ガリガリに痩せていて、拒食症なのかと思ってしまう。
踊るのが好きだと言って見せてくれたけれど、まるで壊れ掛けた案山子がおどけてるようにしか見えなかった。
「オレの夢はさ
親父を殺す事なんだ」
少年はそう言って目を輝かせ笑った。
身体中のあちこちにキズ痕や内出血の痕がタトゥーみたいにあった。
彼は倖せじゃないんだろう··········。
ボクはそう思った。
だからと言って、ボクは彼を哀れんだりしない。
それは彼に失礼だと思うから。
彼はそんなボクだから気に入ったのだと言った。
ある夜、ボクは父さんと喧嘩して家を飛び出した。
不良少年とは付き合ってはいけないと言われた。
どうやら彼と話している処を見た母さんが父さんに泣き付いたみたいだ。
ボクは何も知らない癖にそんな事でボクを縛ろうとする二人が許せない。
誰と付き合おうとそれはボクが決める事だ。
ボクは夏のへばりつく様な湿った空気の中を、彼の隠れ場所へと駆けて行った。
隠れ場所は街の東側にある小高い丘の向こう側にある。
枝を重ね合わせて作られた洞穴の様な隠れ家に彼は居た。
懐中電灯をぶら下げた頼りない光の下で、とても疲れた顔で眉間に皺を寄せ眠っているようだった。
ボクは彼の隣に腰を下ろした。
彼は目を覚ました。
だるそうに起き上がって「よお」と言った。
大きく伸びをすると彼はボクの手首を掴んで引っ張った。
「飲みに行くぞ! 」
「え?
ボクお金持ってないよ
って言うかボクたちまだ未成年じゃん! 」
彼は振り返り笑う。
「関係無いね」
ボク等は飲み屋街までノンストップで走った。
走りながらボクは彼と初めて逢った時の事を何故か思い出していた。
ボクは何もかもが莫迦らしいことに気付いて授業をサボり、雨の中を小高い丘を越えてあの隠れ家を見付けた。
近付いて行くと人影が揺れていた。
雨の中を、何をしているのだろうと思い、そっと隠れ家の陰から覗くと彼は雨の中で踊っていた。
濡れた髪を振り乱して濡れた口唇を紅くして、まるで雨の音が音楽であるかの様に。
とても美しかった。
細くて長い腕を伸ばして指先にまで想いを籠めて、長い足でステップを踏みながらターンする。
とても楽しそうに。
いつの間にか隠れている事も忘れて、呆然と立ち尽くし彼に見入っていた。
彼は急にピタリと動きを止めてポーズを決めた。
そして言った。
「アンコールはいるかい? 」
ボクは手を叩いて言った。
「アンコール!
アンコール! 」
でも彼は地べたに座り込んで荒い呼吸を繰り返すだけだった。
彼にはもうアンコールに応えるだけの体力が残されていなかった。
意識を現実に戻すといつの間にか一軒のバーの前に立っていた。
彼はボクの手を引いて地下へと続く階段を下りてバーに入った。
薄暗い店内には、何故か客は男ばかり。
人混みの中を進んで行くと彼はカウンターに座る筋肉質な体型をした厳つい顔の男に声を掛けた。
男はニヤリと笑って自分が飲んでいたグラスを彼に渡す。
彼は受け取ったグラスを一気に飲み干した。
男たちがボク達の周りに弧を描いて集まって来た。
次々とグラスが彼に渡され彼はそれを次々と飲み干した。
周りの連中は彼の飲みっぷりの良さに、掛け声を掛けたり、手を叩いて囃し立て楽しんでいるようだ。
見た目で彼がすっかり酔っている事が解るくらいにはふらついて来た。
そして酔っぱらっておぼつかない足で、彼は男と奥の部屋に消えて行った。
そこで何が行われているのかはボクにも解る。
どす黒い何かが内側から湧き上がって広がって行く。
見るからにそういうナリをした男がボクの肩に手を置いてグラスを渡そうとするからイラついていたボクはきっぱりと言った。
「ボクはそんなんじゃない」
男は肩を竦め去って行った。
奥の部屋から、厳つい顔の男と出てきた彼は赤みを帯びた顔をして、とても艶かしく見えた。
彼はボクを認めると崩れるようにボクに凭れ掛かって来る。
ボクは彼を押し退けてバーを出た。
彼はよたよたとボクに付いて来る。
メイン通りに出るとボクの何かが弾けて彼を振り返り言った。
「たかが数杯の酒の為にあんな事するなんてイカれてる!! 」
彼は一瞬、きょとんとした顔をした。
それから怒った様に言った。
「下らないね! 」
そして真剣な顔をして言った。
「オレは今夜夢を決行する!
母さんを守るんだ! 」
それはお父さんを殺すってこと?
ボクは止めようと彼の両腕を掴もうとした。
でも別の誰かがボクの腕を強く掴んだ。
彼も警官に捕まれてボク等は引き離された。
パトカーに乗せられて色々尋問されたけどボクは何一つ答えなかった。
派出所に連れられて暫くすると、父さんと母さんが迎えに来た。
家に連れ戻されて散々説教をされたけど、ボクは心ここに在らずだった。
彼の言った事が気になって仕方ない。
自分の部屋に戻されれば窓から逃げられる。
そう思ってチャンスを伺っていたのに、なかなか部屋にも戻して貰えなくて、ずっと茶の間のソファに座らされていた。
痺れを切らしたボクは立ち上がって出て行こうとした。
直ぐに母さんがドアの前に立ち塞がる。
「避けてよ」
父さんが後ろから腕を掴んでボクをそちら側に向かせ、そして殴られた。
「どうしてお前は心配しているのが解らないんだ!! 」
父さんは泣きながらそう叫んだ。
違う!!
解らないんじゃない、どうしようも無いんだ!
どうしてもボクは彼を止めたい!
ボクにとってそっちの方が価値が上だ。
両親と彼のどちらを選ぶかと訊かれたら、ボクは迷わず彼を選ぶ。
だって··············。
解らないけど、そうなんだ·············。
ボクは母さんを押し退けて外へと飛び出した。
彼が住んでいるアパートへと向かったらパトカーが何台も止まっていて人たがりができている。
ボクは人を縫って前へと進んだ。
彼の家のドアから人が頻りに出入りしていた。
遅かった·············。
彼は夢を遂げてしまった··········。
誰かの会話が聞こえた。
「怖いわねえ、子供が親を刺すなんて」
「父親は病院に運ばれたそうよ
刺した子供は逃げてるみたい
まだ中学生だそう·····················」
ボクは人を掻き分けて人だかりを抜け出ると駆け出した。
彼はきっと隠れ家に居る!
ボクが行った処で何かが変わる訳じゃ無い。
逃げる手助けさえできないだろう。
自首を勧める?
彼は聞き入れてくれるだりうか·········。
そんな事を考えながら、ボクは隠れ家へと走った。
破裂しそうな胸にてを当ててボクは隠れ家へとおぼつかない足で近付いて行った。
呼吸が苦しくて、乱れた呼吸を落ち着かせようとゆっくり吸ったり吐いたりしながら考えた。
ボクは何を言うべきだろうか。
ボクは彼を称賛できないし、軽蔑もしていない········。
隠れ家の中を覗くと彼は居た。
懐中電灯に照らされて、組み重なった枝の壁に凭れて眠っていた。
血色を失った顔がとても美しいと思った。
手は血塗れで、包丁を握り締めたままだった。
そして··················。
彼は首から血を流していた。
ボクは蒼ざめる。
ゆっくりと近付いて、彼が目覚めるのを期待しながら腕を持ち上げた。
その感触はひんやりと冷たかった。
手を離すと腕は力無く彼の膝に落ちた。
彼は目覚めなかった。
ボクは呆然と彼を見詰め続けた。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
ボクは泣いていたらしくて涙が頬を濡らしながら流れていた。
頭は空っぽでボクは彼の横に座ると彼の肩に頭を預けた。
ほんのりと血の匂いと混じって酒の匂いがする。
こんな最期ってあるだろうか···········。
こんな最期って················。
ボクは彼の肩に顔を埋めて泣いた。
何の為に?
彼のあまりに哀しい人生を思って?
もう二度と戻って来ない彼を思って?
違う···········。
彼を失った自分の哀しみの為に··········。
彼の顔を見詰めた。
長い睫毛に窪んだように見える閉じられた目。
緩く結ばれた口唇。
ボクはそっとその渇いた冷たい口唇に口付けた。
死を纏った口唇はとても哀しい手触りでボクの胸をぎゅうっと痛いほど締め付ける。
キミは逝ってしまうんだ、ボクの気持ちを置き去りにして。
fin
読んで戴き有り難うございます❗<(_ _*)>
調子が最悪の時に書いた作品なので、とても暗い作品になりました。
少年の儚さや繊細さが出ていたら良いのですが。