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8. 新生活

城に連れ帰られたラヴィニアは最初こそ戸惑っていたものの、セシルによって住みやすいよう手配を整えられたそこは楽園のようで、本を読んだりお茶をしたりと穏やかな時間を過ごしていた。


「ラヴィニア様、ティータイムなど如何でしょう?」


「ありがとうございます。ペトロネアさんにおすすめしていただいた本がとても面白いのでつい時間を忘れてしまいますね。」


「お気に召していただけたなら光栄です。そちらはシリーズ物ですからまだまだたくさんありますよ。」


口元に小さな笑みを浮かべながらそう言った彼女は机にストロベリータルトと紅茶の入ったカップとソーサーを準備している。

ちらりとラヴィニアに視線を向けると血色の良くなった肌。

バランスの取れた三食と共にティータイムでカロリーを追加摂取させている甲斐もあって細かった身体に少しずつ肉が付いてきた。

このまま病気も早く治癒してくれれば良いのにと思いながら、窓ガラスを叩く音に大きなため息を零す。


「ラヴィニア様!」


「ふふ、オスカルはいつも元気ね。」


「おやつ食べたら一緒にお庭に行きましょ!」


「オスカル。ラヴィニア様はまだ病み上がりなんですから。」


「大丈夫ですよ。この前お話を聞かせてくれた花壇を見せてくれるのでしょう?楽しみにしていたの。」


慈愛溢れる優しい笑みを浮かべる姿は母親のようで、オスカルは勢いよくラヴィニアに抱きついた。

ラヴィニア様を飼い主だと思っているにしても甘え過ぎじゃないだろうか。

せっかく良くなりつつあるのに疲れさせてどうする。

髪を撫でられて至福の顔をするオスカルの姿に青筋が浮かんだペトロネアの口から牙が主張し始めた。


「不機嫌そうだね。」


「殿下も人の事は言えませんよ。瞳と牙が主張しています。」


「…仕方ないだろ。ラヴィニアが最近、冷たいんだ。城下町のカフェに誘ってもやんわり断られるし…。それなのにオスカルの誘いには一つ返事って…僕自信なくしそう。」


「殿下がそれだから困っているのですよ。ラヴィニア様の寝顔を拝見するのを楽しみにしているのにオスカルが早起きなせいで…。」


「本当に困った存在ですね。私もラヴィニア様との城探検を楽しみにしているのですが、最近はお声掛けもいただけないのです。」


何処からか現れたパトリックは優しい声色とは裏腹に二人と負けず劣らず、牙をむき出しにしている。

嫌われるようなことをした記憶のない彼らにとってラヴィニアに避けられるのは相当応えるようで、理性を保つことができなくなっていた。

射殺さん程の視線を向けていたが、彼女の視線が向けられるのと同時にいつも通りの表情へと戻っていく。


「セシル殿下?それにパトリックさんまで…どうかされましたか?」


「ティータイムをすると聞こえたからね。僕もご一緒させてもらおうかと思って。」


「ふふ。是非ご一緒しましょう。パトリックさんとペトロネアさんも良いですか?」


「勿論だよ。皆で食べたほうが美味しい。」


彼女の言葉に満面の笑みで答えれば、嬉しそうな表情が見える。

本来なら身分差で一緒にティータイムを過ごすなどあり得ないが、パトリックとペトロネアはセシルにとって公の場以外では王子と使用人ではなく家族という感覚なのだ。

久しぶりに彼女とゆっくり話すことのできる機会に三人は至極満足気な表情をしている。


「ラヴィニアに嫌われたかと思ってた。」


「え!?」


「最近、一緒にカフェに行ってくれなくなっただろう。僕と行くのは嫌かな。」


「ち、違います!殿下というお立場はとてもお忙しいと思いまして…私に気を遣ってくださっているようでしたからご遠慮するべきかと…。」


「気なんか使ってない!ラヴィニアとのお出掛けを本当にとても楽しみにしているんだよ。断られるたび、前回なにか気に障ることをしてしまったんじゃないかって。」


「気に障るなんて有り得ませんよ?殿下のご都合がよろしいときにまた誘ってくださいね。」


「わかった。でも約束して。」


「はい?」


「ラヴィニアが行きたくないって時以外は断らないで…。君に断わられると結構傷付くんだ。」


「わ、わかりました。」


「それなら私からも一つ。」


「はい。」


「城探検はもうされないのですか?右の塔の鍵を見つけたのですが、あの日から声を掛けてくださらなくなったので…。」


「ごめんなさい。私がパトリックさんのご迷惑も考えずに行動してしまったので…反省しています。」


「反省される必要はありませんよ。声を掛けてくださるのを心待ちにしながら日々職務に当たっていますから。前回入れなかった塔、気になりませんか?」


「気になります!」


「でしたら私は全く迷惑など感じませんから。いつでもお声掛けくださいね。」


理由を聞けたことですっきりしたのだろう。

嫌われてなくてよかったと安堵しながらも先程からずっとラヴィニアの膝に居座るオスカルに眉を歪めるのだった。

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