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1. 始まりと子犬

乙女ゲームに出てくる悪役令嬢ラヴィニア・クロスランド。

彼女に転生したと気付いたのは断罪後、強制的に行われた他国の貴族であるアルフォンス・キャンベルとの結婚式が終わった直後だった。

何故気付いたのかと問われれば至極当然の話。

ゲームのキャラクターを全てコンプリートするために何度も繰り返し見ていたからだ。

そしてこのシーンは悪役令嬢の溢した涙がとても印象に残っていたためはっきりと覚えていた。

好きだった王子からの婚約破棄と断罪直後に他国との関係改善を目的とした政略結婚を言い渡され、愛のない結婚故に夫となった彼には存在しない者として扱われる。

そして、義母はもちろんメイド達からも陰湿な嫌がらせを受け続けた彼女は半年も経たないうちに身体を壊し病気で命を落とすのだ。

物語の中では邪魔してくる厄介な存在だったが、可哀想な最期に同情してしまったのも覚えていた理由の一つかもしれない。

初夜用に準備された寝室はダウンライトで落ち着いた雰囲気を演出しているが、この二人にはそぐわない部屋だろう。

そんなことを考えながら彼の出方を伺っていると大きなため息が聞こえてくる。


「わかっているとは思うが、お前のような者と初夜など迎えるつもりはない。私は寝る。どこにでも行け。」


そう言った彼はベッドに腰掛け、鋭い視線を向けていた。

彼の言葉や態度に本来なら傷付く…のかもしれないが、寧ろ安堵しているくらいで。

とりあえずいつまでもこの部屋にいるわけにもいかないと軽く挨拶を済ませてからお辞儀をして部屋を後にする。

内心は万歳をしていたのだが、ポーカーフェイスで隠し通せたことに拍手したいとそう思いながら、少し薄暗い廊下を歩き始めた。

すれ違うメイド達は皆、彼女に嫌悪感を抱いているようで、端へと避けて通り過ぎていく。

その姿はまるで子供がする嫌がらせのよう。

吹き出しそうになるのを必死に堪えながら急いでその場を離れた。

といってもこの屋敷に彼女の居場所など、どこにもない。

次、同じ行為を見てしまったら声を出して笑ってしまうだろう。

嫌われているがゆえに笑ったことがバレたら面倒なことになりかねないと、この時間ならメイド達の来ないであろう裏庭に続く扉から外に出てみた。

綺麗に整えられた薔薇園の中央には白い噴水があり、月明かりに照らされて水がキラキラと光って見える。

幻想的な世界に暫く眺めていたが、夜も更けてきたようで少し肌寒い。

吐息を溢すと少し白く染まるそれに冷え込むわけだと納得しながら噴水の端に腰掛け、これからどうするべきかと考え始めた。


半年後の病死。


心労によるものであれば、その心労さえ感じなければ避けられるのだろうか。

正直、先程の行為が陰湿な嫌がらせというなら可愛いものだ。

笑わないように堪えるのが大変なだけで、今の私であれば心労になるはずもない。

だが、この"身体を壊し病気で命を落とす"は棺で眠る彼女の挿絵と文字で書かれていただけの演出で、実際に何をされていたという詳細は描かれていなかった。

そのため、どの程度のことが起こるのか。

現時点では一切わからない。

困ったものだと視線を遠くに向けながらも、転生してしまったからには拒否権などないかと眠気の感じ始めた身体に小さく欠伸を溢した。

暫くぼーっとしていると薔薇の間から感じる視線。

月明かりがあるとはいえ、眠気と暗さでよく見えないと何度か目を擦ってみるとそろりとした足取りで黒色の子犬が近付いてきた。

寒いのか、身体を震わせている。


「おいで。ドレスの間なら暖かいよ。」


そっと手招きしてみると最初は躊躇していたようだが、警戒しながらもドレスの上に収まっていった。

軽く触れてみると意外にも抵抗されることはなく、ごわごわになってしまった毛並みを整えるように何度も撫でていると気持ちよさそうに眠りについたよう。

子犬が乗ったことでじんわりと温かくなる太腿に再び眠気を感じ、そのまま眠りについてしまうのだった。

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