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通勤

作者: 日日

改札に触れる名刺入れ

表示される僅かな残高と、迫る期限。

7時47分から50分の間で通るいつもの隙間。


3番乗り場に向かい、三角印1番の真ん中へ。

7時53分に通り過ぎる電車の風がいやで、黄色い線の内側の更に内側に。

7時56分の電車の二人がけ、通路側。窓側であれば、何も気にせず眠りにつけるのに。

手狭な窓側が好みではないが、貴重な睡眠時間と、少し窮屈な空間の天秤は、量る必要もないほど左にしか傾かない。

8時24分、ようやく落ち着ける時間が到来する。

膝の荷物を胸に押しあて、意味があるのか無いのか、膝を揃えて少し上げる。今日は、御婦人が目の前をゆっくりと通り過ぎ、窮屈で心地の良い窓側を空ける。

入れ違う間合いを図り、まだ生暖かい座席へと腰を下ろす。窓からの景色など不要とばかりに、陽射しよけのスクロールを下から二つ目の金具まで下ろし、準備を整える。


スマホの動画アプリから、睡眠導入剤を検索する。

男性の声、適度な盛り上がりと抑揚。

たどり着くのは、レジェンドが集うプロ野球選手達の話し。興味深さの深度も程良い。なんせ、野球をしたこともなければ、9回の裏まで見たこともない。

日々流れる大国で活躍する日本の若者に、胸が踊りホームランの映像は必ずチェックするが、彼の所属リーグまでは、パッと出てこないし、調べない。

この深度で聞こえてくる盛り上がりと抑揚は、実に適切な深度の眠りに誘ってくれる。強いて不平不満を述べるのであれば、時間と途中の広告か。とはいえ、それすらも耳に入らない時もあり、改善必須とまでは考えてはいないので対策は取らない。


8時38分に、車内は大きな変化を遂げる。

ほとんどの人物は、入れ替わる。いや、退場者が圧倒的であり、12両編成が勿体ないとも思えるほどの人物しかいない。この時間の雑音というのか、雑雰囲気というのか雑空気というのか、それらは毎度私を覚醒させる。

しかし、覚醒はほんの一瞬で済む。退場と入場が終われば

あとに残るのは、十分な鮮度が保たれるであろう空間。

レジェンドの話しに耳を傾け、続きをという概念はそこにさないが、続きを聞く。失礼な態度なのかも知れない。眼前で、お話をされているのであれば。無論ここに、失礼というのは存在しない。これは、用途の話しだ。


8時56分

乗車から一時間が経つ。臀部に痛みを感じるのは、削げ落ちた肉のせいなのか。気付けば、真っ暗になっていたスマホ画面を立ち上げる。

あと20分ほど。ショート動画を漁りながら過ごす場合もあれば、突然勧められる動画から目が離せない時もある。

充電の残量が50パーセントを切った事を知り、一度スマホを暗くするが、楽観的な人差し指が指紋認証を突破する。

動画ではなく、ニュースのトピックスで過ごす場合もあるが、やはり動画に戻る。

9時18分

あっという間に過ぎた時間が、勿体ないと感じる感性は持ち合わせていない。

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