友は願う
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陽の光が眩しく寝返りを打とうとして目が覚める
「あの人っ!」
慌てて飛び起きると昨夜バルコニーに居たはずなのに今はベッドの上にいた
(夢?)
そう思えるほどに現実味を帯びない記憶だった
「ララ様お目覚めですか。
よろしければ蒸しタオルと軽めの朝食を準備いたします」
ララが目覚めたのを部屋の側に居る使用人が気付いたのだろう。ノックの音がして扉の向こうから声をかけてきた。
ララがお願いするとしばらくしてから使用人が入ってくる
「おはようございます、ララ様
お身体の具合はいかがでしょうか」
1人の使用人が明るく声をかけてくれる
礼だけ伝えてタオルで軽く顔を拭いた
「ララ様昨夜は冷えましたか?
お申し付け下さればお部屋を温めましたのに」
そう言いながらメイドは眉を下げて心配そうにララの顔を覗き込んでくる
何の話をしているのか分からず視線を下に向けると、ララは羽織を着て寝ていたことを気づいた
(夢…じゃない?)
心の中で呟き少し鼓動が早くなる
(また会えるかな…)
胸に手を当てて自問する
願いが叶うかは分からないが、ララは1人願う
―――――――
ララが目覚めた日の夜中
(良かった…ララが元気そうで。様子見るだけにしようと思ってたのに、泣き始めたから声かけちゃった…
あれじゃ不審者だよね。警備の人呼ぶって言ってたし、病み上がりだったから寝てもらったけど…)
ララを部屋まで運んだ後、フラフラ夜の空を浮きながら1人先ほどの出来事を思い返して反省をする
「アイラ様、あの子が目覚めて良かったですね」
そんな事を言うのは女の子の姿をした低位精霊だ
アイラから離れることのない精霊はララの様子を見にいくのに同行してきていた
それはもう1人も同様で
「お嬢、心配でちゃんと寝れてなかったもんな」
と満面の笑顔で言うのは男の子の姿をした低位精霊だった
「今日こそはきちんと寝てくださいね」
「そうだぞ、お嬢まで倒れたら元も子もないんだからな」
「ふふ…ありがとう」
2人はララの事だけでなくアイラ自身も憂いてくれる存在であることを心から感謝する
そして他愛のない話をしながら3人は夜の空の中を
今の居住地である学園寮に向かって移動する
眼下には夜中だというのに星が散りばめられた様な王国がアイラの瞳に映った
その眩しい光景に目を細めて
「まだ許されるかな…」
少し掠れたアイラの声に2人の精霊は気づかない
―――――――――
あの事件の後、ララは医者に診てもらった所
栄養失調のみという事が分かり1週間ほど休んだら
また学園に復帰できる様だ
一連の事件は先生たちと生徒会、そして関係者のララにしか知らされず他言無用とされたが
アイラの判断でダイにだけは事件の一部分を教えていた
そんなことになっていると知らなかったダイはあの日帰る姿を見届けていなかった事を悔いており
次の日には学園を2日休みララの見舞いに行っていた
「大丈夫?」
事件が起きた噴水のある広場でアイラとリーシャが並んで座る
あの後、陛下とイリスの話し合いで1人の魔法では学園の敷地は広すぎると判断し、魔法陣を用いて学園を守ることになった
それは魔術学校も同様で魔法陣が施された後、魔法塔数名が魔力を込めにいくことになっている
魔術学校は白色以上の適正が半数を占めているため、授業の一貫で魔法塔たちと魔力を込めるだろう
問題は…
「大丈夫?」
返事のないアイラにリーシャは心配する様にもう一度声を掛ける
「…じゃないかな」
色々と問題が山積みのアイラは親友であるリーシャには心の声を漏らしていた
「ごめんね、私が色々と頼んだから」
「リーシャのせいじゃないよ。これは私の問題」
「でも…」
普段は気丈に振る舞い自信家のリーシャには珍しく、眉を下げてアイラの顔を伺う様が可笑しく少し元気が戻る
「よし、元気出た」
アイラは立ち上がり両手で拳を握る
「本当?」
「うん、リーシャのそんな顔見てたら元気が出たよ」
そう言ってアイラはリーシャの眉間をツンと指で軽く突いた
アイラの行動に驚いたが、自分が元気のない姿になっていることに気づいたみたいだ
額を手で覆って膨れっ面をしている
「アイラに慰められるなんて」
「昔はよくリーシャに助けてもらったからね」
アイラは笑顔でリーシャに向き合う
「ひとつずつ問題を解決して行くよ」
「手伝えることがあったら言ってね?」
「うん、ありがとう」
これ以上話していてもアイラは喋らないだろう
そう理解したリーシャは寮まで帰ろうとして立ち上がった瞬間、目の前のアイラの姿が消えた
アイラが魔法を使ったのだと思ったが違う
リーシャに転移魔法を使ったのだ
未だ防御魔法が備わっていない学園は何が起こるか分からない
リーシャの安全を考慮してアイラが転移魔法で送ってくれたのだ
見慣れた寮の部屋だったが、突然のことで少し驚く
「この間倒れたばかりなのに、事件も解決してくれて…
お願い。無理をしないで」
そんな事を呟くが、すでに別れてしまった相手からは返事が返ってくることは無い
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