少女は仕方なく受け入れる
気づかんうちにレビューしてくれてて
嬉しくてちょっと貯めてたのを投稿!
ブクマもありがとうございます
「イリス殿、あとどのぐらいで犯人に追いつくだろう」
「魔力路が濃くなってきています、まだ最近のものですのでもう少ししたら見えてくるでしょう」
イリスとエルバインは身体強化を使い移動する
イリスだけならもう少し速く移動できるがエルバインの護衛も担っていたため1人での行動はできない
「イリス殿だけなら奴等に追いつけるだろう、私のことは置いていってくれて構わない」
隣に並ぶイリスに向かいエルバインが叫ぶ
「今回だけは貴方の命令を聞けません」
「しかし…」
「…既に我が同胞に知らせてあります。この森の管轄の者です。恐らくその同胞が犯人共に追いついている頃でしょう」
エルバインはその言葉を聞き、動揺して少し移動が遅くなった
そんなエルバインを見てイリスは少し笑う
「大丈夫です、五星の名は伊達ではありません」
イリスは嬉しそうだ
「…それは分かっている」
そんなイリスに少し子供のような意地を張っている言い方をしてしまう
エルバインの動揺はまだ治らないが移動の速さは元に戻ったようだ
2人は魔力路を辿り森を抜ける
広い荒野が広がりもう少しで国境が見えてくるだろう
「奴等国境を越える気か」
「恐らくそうでしょう、少し急ぎます」
魔力路から意識を外さないイリスは視線を前にしながらエルバインを強化した
「流石だな…」
この速さに着いていくのがやっとだったエルバインは五星の力を身に染みて実感する
2人が少しスピードを上げようとした時…
「っ!」
イリスが視線を前から上空にやり慌てて落下してくる何かを両腕で掴んだ
それほどの高さでは無く、体格のいいイリスは危な気なく何かを受け止めることができた
突然の事で2人は移動を止める
「イリス殿…」
「殿下、同胞が間に合った様です」
イリスの腕の中には攫われたと思われる少女ララが居た
整った呼吸をし、ただ眠っているだけのようだ。気持ちの良い呼吸音が聞こえてくる
「特に問題はなさそうだな…」
ララを見てエルバインは安心した顔をした
「そのよう…で、す、が!
アイっツ、女の子にこんな扱いして!私が色々教えたのに、まだ分からないのかしら!?」
しかしイリスの顔はみるみる赤くなり恐ろしい化け物のような顔をしている
「それより急ごう、イリス殿の言うとおりならすでに戦闘が始まっている」
「…そうですね、お説教は後にします」
イリスは不服そうだったが現状を見誤るほど馬鹿ではない
何が原因で攫われたか分からないためイリスはララをおぶさる形で行動を共にする
3人に増えたが移動スピードは落ちない
魔力路が段々と濃くなってくると同時に肌寒く感じはじめた
まだ春の月だというのに吐く息が白くなってくる
エルバインは異常を感じて足を止めようとしたが、斜め前にいるイリスは平然としていた
正面に視線を向けると暖かい気候には似つかない銀世界が広がっており、イリスの足が止まる
「一応気配を消して近づきましょう」
身体強化を解除し、ゆっくりと移動すると大人3人分ぐらいの大きい岩が見える
邪魔だなと思いつつ迂回しようと思ったがイリスの腕で静止させられた
「約20メートル先に2つ。1つは魔法塔並、1つは見知った魔力があります」
簡潔に説明される
イリスの防御、隠蔽魔法が強くなる
岩の影に隠れつつ先を覗くと2人、1人は人間?だと思われる顔が闇に包まれた者とその視線の先のもう1人少女がいる
「あの方は…」
少女は高ランクの魔獣を一瞬で消し、高濃度の魔法が発せられた瞬間男は気を失ったかのように倒れた
美しい銀髪を風で揺らし、顔には何度か見たことのある仮面をつけて
許された者しか着られないローブを纏う少女
一国の王太子が唯一興味を惹く美しい女神が目の前にいる
圧倒的な力を見せつけた少女の顔は仮面で隠されて分からない
しかしその姿はどこか寂しげでエルバインは胸元に手を当てた
ーーーーーーーーー
「………かっ、でっ殿下!?」
珍しく声を荒げる精霊術師
しかし、エルバインば呆然と立ち尽くし返事が返ってこない
既に礼をかいたはじまりだったが臣下として挨拶はしなければならないのだ
「お久しぶりでございます
エンセンス王国、王国筆頭魔術師の五星が1人精霊術師です。この度、同胞イリス・ノーデンスから救援要請を受け参上致しました」
アイラは最上級の礼をするが、やはり何も返ってこない
失礼は承知の上で顔だけあげると何故か固まってしまっている
息はしているようなので死んだわけではないようだ
『イリスさん!挨拶おかしかったですか?』
「いいえ」
『何故返事が返ってこないのでしょうか』
「知らない」
『私何か失礼なことしましたか』
「さあね」
「何でイリスさんまでそっけないんですか!」
「それはあんたが女の子を無碍に扱ったからでしょう!」
突然のイリスの大声にアイラは肩を大きく揺らし驚く
ついでにエルバインも正気に戻ったようだ
「あんたねぇ!女の子相手にこんな風に育てた覚えはないけど!?」
「私もイリスさんに育てられた覚えありませ…」
「あ"ぁ"?何か口答えしたぁ?」
「いえ!すみません。でも非常事態だったので、事情を知るイリスさんなら大丈夫かと…」
アイラは俯き、声も体も段々小さくなっていく
イリスはため息を吐いて
「今回大事なのは攫われた子の安全確保。貴方が強い事はよく分かってるけど、私が来てからでも犯人を捕まえる事はできたの。女の子なんだから今後無茶な事はしない。約束よ?」
アイラの仮面の鼻の部分を指で軽く突いてイリスが笑う
「はい…」
そんな2人を見て、いつも無口の精霊術師が少し意外だった
だからって軽蔑とかそんなものは生まれないが、羨ましいと思う
と1人考えて少し恥ずかしくなる
気を紛らわすように2人の話に割って入った
「話は終わったかな」
「あら殿下、お待たせしてすみません」
「構わない、私1人では何もできなかった。イリス殿と精霊術師殿がいたおかげで無事解決することができた。ありがとう」
王族からの礼に2人は跪く
「ありがたきお言葉です」
この国の王族は他国と違い臣下でも貴族でも平民にでもきちんと謝辞を述べることができる
そんな所も国民から支持されるのだろう
「久しぶりだな、精霊術師殿。去年の新年の宴以来か
元気そうで何よりだ」
「お久しぶりです。殿下もご壮健で臣下として喜ばしい限りです」
イリスの時と違いぎこちないアイラは下手をしないよう話を切り上げ立ち去ろうと考える
「では私は…」
アイラが跪いたまま転移魔法で逃げようとしたが
「待ってくれ、今回の事件について聞きたいことがある。ザイルスくんには休む期間が必要だろうから精霊術師殿に聞きたいのだが…」
逃げられなくなったアイラは黙り込む
(そういえばあの男…私を狙ってた、何が狙い?何故私を…)
戦闘前の男の言葉を思い返す
そしてアイラの忘れたい記憶が頭を過った
(…まさか)
アイラの背中に冷たいものが流れる
(たしかに…なら、でもなぜ…)
場に沈黙が訪れる
アイラから返事が来ないことを心配し、エルバインが声を掛けようとするが
「お言葉を失礼してよろしいでしょうか」
そんなことを言うのはイリスだ
エルバインは頷いて返事をする
「同胞から話を聞き次第直接陛下に奏上致しますゆえ、今日は帰してもよろしいでしょうか」
アイラの様子が気になったらしい
イリスは信用に値するため問題はないのだが、エルバインはまだ言いたいことがあるようだ
「分かった。しかし精霊術師殿…」
「…」
「…今度一緒に茶会をしないか?」
「………っへ!?」
アイラは話半分に聞いていたが突然頭に爆弾が投下された
おかげで先ほどまで考えていた事がどうでもよくなったのだが
「い、やっ、その…」
アイラの呼吸が荒くなり威厳のある精霊術師と思えないほど言葉が拙い
その様子はまるで学園でのアイラだった
「いいじゃない、たまにはそういうのもしてみるべきよ」
「えっ!」
そんなことを言うのはイリスだ
顔が揶揄っているように笑っている
「…どうだろうか」
エルバインはいつもの気迫が無くなり少し自信がないように思える
「あ、の…………はい…」
見たことのないエルバインにアイラも了承するしかなかった
最後は全然違う話題で話が終わりアイラとイリス、エルバインはララと犯人たちを連れて別れを告げた
(どうしよう…なんでこんな事に…)
別れた後のアイラは茶会の話を思い出しては枕に顔を押し込めて叫んでいた