フードの男の素顔
間が空きすぎてすみません
黒いフードの男は上空に飛び無数の炎を出現させる
「獄炎乱舞」
一つ一つ統制が保たれた何百もの炎がアイラを目掛けて降り注ぐ
力は魔法塔並、男の攻撃は普通の魔術師なら苦戦する相手だ
しかしアイラが驚くことはない
男の攻撃に右手を軽く振っただけ
するとジュゥ―と炎が消える様な音が聞こえる
男が放った炎は一瞬にして消え失せていた
男はフードの下で苦虫を潰した様に歯を食いしばる
ならばと黒いフードの男は詠唱をし始めた
男に魔力が集まるが、相手の手は出来るだけ明かしておこうと黙って様子を見守る
…しかしその魔力が妙だ
「…っ、何をしている!」
アイラは男を睨みつけて珍しく大きな声で叫んだ
「ハハッ、流石五星…分かるのか?」
「それは禁術だ!」
「禁じゅ、つぅ?これは合理的な魔法だ。魔法を知らない者の魔力を奪って何が悪い?」
話の通じる相手ではない
アイラは男に向かって攻撃しようとした
「やめとけ。術中に私を殺ればコイツらも死ぬぞ」
その言葉に動きが止まる
男の話の真偽は分からないが、真実だった場合…
「この魔力はそこに転がる男たちと先ほどの…女の力だ」
下卑いた声で告げる
アイラが手を出せない今も男に魔力が集まるのは止まらない
「…他人の魔力譲渡はお互いが容認し合わなければ成り立たない。こんな一方的なことは不可能の筈だ!」
「そんな狭い事を…
それが出来てしまう私たちはやはり崇高なる存在なんだ!」
男の威圧により突風が吹く
フードがズレ中身が明らかになった
「―!」
男に顔はない、そもそも顔のパーツ自体がない
顔がある筈の場所には黒く大きな穴しかなく、全てを飲み込めてしまうと思えるほど先の見えない漆黒が顔を覆っている
この世の者とは思えないほど奇妙な存在に今初めてアイラが動揺した
その隙を見逃すほど甘い男ではない
「我と盟約は為された。全てを消し去る獣よ、我が望みのため顕現せよ。火炎魔獣サラマンダ」
男が放った魔法から無翼の火龍が顕現した
火炎魔獣サラマンダ
属性魔獣の召喚は中級魔法士のごく一部、魔術師なら出来て当然の魔法だ
しかし魔獣のレベルによって召喚出来ないモノだってある
サラマンダは見た目はドラゴンだが翼が無いため、飛び回り攻撃してくるドラゴンに比べれば可愛い
しかし全身は炎に包まれており、事前に魔術師と騎士のバランス型の部隊2~30人で討伐できる魔獣である
最低でもギリギリBランク、個体やそれぞれが持つ魔力量によってはそれ以上の魔獣である
1人で討伐することは不可能だ
「…」
「どうした精霊術師。怖気付いて私と共に祖国に行く気にでもなったか?」
黙って立ち尽くすアイラを見て黒い男の声が弾んだ調子になる
顔は分からないが恐らくニヤけたような表情をしているだろう
「これほどの魔獣召喚は其方たちの国でもごく僅かしか召喚できまい。お前がここで食い止めなければ…」
男の言葉は事実だった。即ち今アレが国を襲えば半壊かそれ以上か
「たとえ五星であろうとコイツが破れることはない!諦めて私と共に来なさい!」
それでも返事のしないアイラに嫌気が指したか、男が動く
アイラに向かって指をさし魔獣に指令を出した
「返事は無し、か…ならもうどうでもいい
その女の首を差し出しあの方から褒めてもらおう。殺れ!」
命令を受けサラマンダが一瞬にしてアイラに近づき
体が燃え上がると同時、口から灼熱の炎を吐いた
それは一瞬の出来事であり、アイラの居た場所はクレーターが生まれ爆煙が舞っている
ただのサラマンダでは無かった。地面が消え去る程の力を持つ魔獣はAランク以上と推定される
「…フフフッ……ハッハッ!」
黒い男に有名な五星に優ったという優越感が溢れ出た
声を殺すように笑うが、慶びが収まらない
恐らく目があるであろう所に手を当て、腹を抱えて笑った
「これで私は…」
黒い男はそう言って爆煙が落ち着いたほうを見る
…しかしそこには何もない
アイラはともかく召喚した魔獣すら消えていた
「私はまだ帰還を命じてないぞ」
分泌物というものを感じたことがない男だったが冷や汗が流れるような感覚を初めて覚える
「なっ…」
「なぜってそれは、私が倒したからです」
黒い男が驚き声のする方を振り向こうとした
「…おいでヒュプノ」
アイラは囁くように何かを呼ぶ
魔獣ではない何かはアイラに寄り添うように現れる
アイラに呼ばれた事を嬉しそうにしながら頬にそっとキスをしてまた去っていった
アイラと男の戦いが終わる
今まで戦っていた男はアイラの足元で寝息をたてている
勝者の許しを得るまで目覚めることは無い
そんな男を見ながらアイラは独り考える
(先ほどの魔法…魔獣を召喚した後も発動していた。一度繋げてしまえば相手の全てを奪うまで続く?
…譲渡とは違う、その可能性は高い。続けていれば男たちはともかくララの命まで…)
そんな考えたくもない事を想像し、考えることを辞めた
静寂に包まれた場所でアイラは1人立ち尽くす
周りには氷に覆われた男たちとアイラが許さない限り目覚めることがない男が1人
(…とりあえず一件落着)
「……」
アイラには戦いの途中から気になっていたモノがある
戦いが終わった今その事を片付けようと思う
「…イリスさん、気配を消せていません」
アイラは男たちに目をやりながら背後に向かって声をかけた
「流石我が同胞殿、隠蔽魔法は完璧だと思ったんだけど?」
「ダダ漏れです、どこをどう隠…」
アイラは後ろを振り向き平気で嘘をつくイリスの方を向いたが
「…………かっ、でっ殿下!?」
思わぬ人物の存在に精霊術師に珍しい声を荒げて言葉を放った
イリスは自分に隠蔽魔法を使ったのではなく、エルバインに使ってアイラに近づいたのだ