少女は決める
また長いです
「私は殿下の護衛を承ってしまったので、アイラは寮に戻りなさい
ここからは五星の仕事です」
イリスが言う
アイラはイリスの言葉を理解した
「分かりました。五星の皆様にお願いします
大切な友達をよろしくお願いします」
アイラは笑顔で頭を下げる
エルバインは少し疑問が生まれたがアイラは気にしない
周りにバレない様に独り言を呟いてから来た道を引き返していった
(…やはり、強いな)
アイラの後ろ姿を見送ったエルバインはそう思う
「私とイリス殿で先を行く。お前たちは陛下にこの事を伝えてから来い」
エルバインの護衛を担っていた騎士は命を受けて動く
そんなやり取りを横目にイリスはアイラの後ろ姿に笑みを浮かべていた
「…よろしくね」
しかし誰も気づかない
イリスとエルバインは犯人の魔力路を追うため移動する
――――――――
アイラは寮の自室に入り深呼吸をした
相手が何者か分からない、目的も分からない
しかしアイラは一つ心に決めたことがあった
(ララは絶対に助ける)
ララとの思い出はまだ少ししかないが、どれも楽しい思い出だった
これからもそんな幸せを続けたい、続けられる様に頑張りたい
そんな想いが込み上げアイラの身体に力が溢れる
両手を握り締めると問題ない様だった
アイラは耳元を手で触るとオズ爺作の五星の魔力が込められたイヤリングを外した
姿が変わり先ほどの弱っていたアイラは居ない
髪は銀色に輝き、瞳は星の様に輝く金色の瞳に変わる
先ほどまでごく普通の女子生徒だった顔が美しい女性に変わった
これがアイラの本来の姿であり、五星の精霊術師アイラ・フィンセントなのだ
イリスと一緒にエルバインも居るため、制服ではバレてしまうと考えて適当な服に着替る
その服の上には五星のみに支給された紺色に金糸で五つの星が編まれたローブを身に纏った
そして目立つ顔には仮面をつける
アイラは王城での宴や式典ではこれを付けて出席していた
そのためローブだけでなくこの仮面を付けていれば誰もが五星の精霊術師だという事が分かる
準備を終えたアイラは胸に手を置きもう一度深呼吸をしてから転移魔法を使った
目指す先はイリスではなく、もう一つの場所
アイラが昔からよく知る愛しい精霊達の元へ
――――――――
アイラは転移魔法を使う
そこは森を一望できる夜の空の中だった
『お嬢!見つけたぜ、あそこに居る』
『アイラ様といつも一緒の女の子が男達が担ぐ袋の中に居ます』
アイラの眼科には見覚えのある場所が広がっており、その先に複数の人影が見える
アイラは2人の精霊にはイリス達と分かれる前に、魔力路を追ってもらう様にお願いしていた
精霊の方が魔力感知しやすい上、人より早く移動出来るからだ
精霊が人より劣る事はないが低位な上、ロイの話した悪魔が関係しているかもしれない
万が一に備え見つからない様に上空から追うことも2人はきちんと守ってくれていた
「ありがとう2人とも、後は私がやるから2人はお休み」
アイラは愛しい精霊達にお礼を言い身体の中に入るよう促す
『お嬢、1人で大丈夫か?』
『アイラ様私たちお役に立てませんが、ご一緒に居たいです』
なんて事を言う愛しい精霊達
アイラにとって生まれた時からずっと側で支えてくれる大切でかけがえのない精霊だった
低位精霊は人の世では1人で生きるのが難しく、人を拠り所にして生きる事ができる
そのため低位精霊はその人の感情にすぐに気づくことができ、一緒に喜怒哀楽をすることが出来る存在だ
アイラの先ほどの感情もこの2人はきちんと知っていた
そのためアイラを1人にしたくないのだろう
そんな精霊達が本当に愛しいと思える
「大丈夫、私は強くなったよ
それに貴方達まで奪われたくない」
アイラは仮面を外して美しく笑い、精霊達が安心できるように伝える
『…分かりました』
『でも、呼んでくれればいつでも出てくるからな!』
「分かった、ありがとう」
悲しそうな顔をするがアイラのお願いはきちんと聞いてくれる
身体の中に2人が入った感覚があり、これ以上に安心する事はない
アイラは仮面を付け直し急降下した
――――――――
「もうすぐ国境だ」
「本当にコレでいいんだろうな?」
「アイツが言ったんだから間違いない」
複数の男たちが話す
その中の1人は大きな袋を担いでいる
「これで本当に報酬が出るんだろうな?」
先ほどの男たちは1人の男に視線をやった
「間違いない、祖国に帰れば倍の報酬をやろう」
黒いフードを深く被る男が言う
その男の言葉を聞き、他の男たちは目前まで迫った国境を見て興奮が収まらない
男たちが見る国境に門などは無くただ広い荒野が広がっている
迷いの森の外れ、強力な魔獣が蔓延り国境沿いだというのに誰も手を出せなくなってしまった場所だった
噂によると五星がこの辺りを管理していると聞いたが、そんな奴が出てくる様子もない
男たちは莫大な報酬の事しか考えられなくなっており周りを気にする様子が無くなっていた
あと数十m、荒い息を吐きながら男たちが移動している時
何かの気配がし黒いフードの男は大きく後ろに飛ぶ
しかし男たちは気づいていない
「止まれ」
囁く様に発せられた声
何かが聞こえた様な感覚があったが男たちは分からない
男たちは目前に迫った国境を最後、時間が止まったかのように動けなくなり声を出そうにも喉が震えそうになかった
状況を確認したいのに眼球さえ動かない
しかし先ほどまで興奮していた身体の体温が徐々に奪われていくのは分かる
思考のみが働く状況で数時間とも思える葛藤の末男たちは気絶した
しかしこれは魔法で造られた時間であり、実際には数秒程度しか経っていない
相手の時間までも超越してしまう魔法だった
黒いフードの男は上空から降りてくる何かを警戒する
あたり一面、凍てつく氷に覆われた所へ何かが舞い降りた
「お前は何者だ」
「…」
男は警戒する何かに向かい叫ぶが返事は返ってこなかった
何かは違うものが気になっている様だ
何かの視線の先を見ると男たちが担いでいた袋を丁寧に下ろし中を確認している
袋にはエンテンス学園から攫ってきた少女が入っているだけ
攫った時にひどく暴れられたので男が催眠術をかけて眠らせておいたため、どんな状況に陥っているのかわかっていないと思えるぐらい整った呼吸をしている
「…った」
何かはその少女の頬を撫で、大切そうに抱きしめる
そして腕の中から消えた
その時男はやっと理解した
攫った少女が突然消え、言葉一つで男たちの時間までも操る強力な魔法
あの国の選ばれた者しか着用することを許されないローブ、そしてあの仮面あの髪
「アッハッハッハッ」
黒いフードの男は何かの正体がやっと理解でき、嬉しさのあまり大きく笑う
「嬉しい…嬉しい…
あの人から褒められる…
嗚呼、こんなに嬉しい日はない…」
黒いフードの男はネジが飛んでしまったか先程とは別人のように話す
「我らが至高の存在
やっと…やっと貴方様のお役に立てる…」
男は天を仰ぎ両腕で自分を抱きしめる
「嗚呼…嬉しい。
お前を探してたんだ……精霊術師ぃ」
天を見てたかと思えば前を向き首を傾げて遠くから覗き込む様にして見られる
「奇遇です、私も貴方を探していました
このまま私と引き返しませんか?」
そんな気持ちの悪い男を前にしても淡々と話す
アイラは男たちを無力化し、ララの無事も確認出来たのでフードの男と向き合った
「違う……お前がくるべき場所は……私の祖国だ…!」
制限なしっ