少女は知る
読んで頂きありがとうございます♪
「急に呼んで悪かったわね」
「大丈夫ですよ」
「久しぶりだね、アイラ」
「久しぶり、ロイくんも元気そうで良かった」
「こないだ振りじゃのぉ、アイラ」
「オズ爺!素敵なブローチとイヤリングありがとう」
「あらヤダ、私達も魔力提供したのよ」
「そうでしたね、皆さんもありがとうございます」
ある夜のある場所にて
エンセンス王国最強の魔術師達が集まっていた
「アルベルトさんは?」
しかしこの集まりに1人足りない
「いいわよぉ、あんなムキムキのむさ苦しい男」
「イリスさんも変わらないと思うけど…」
「あ"ぁ"ん"?ロイくん何か言ったかしら?」
「いえ、何も…」
普段の高い声ではなく、野太く低い声が聞こえてくる
「彼奴はわしの頼みでドラゴン狩りに行っとるわ」
ロイとイリスの会話に呑気な口調でオズ爺が話に割って入る
「え、この国のドラゴンってアルベルトさんが狩り尽くしたんじゃ…」
それに返事をするのはアイラだ
「じゃから、ラング島まで狩りに行ってもらったわい
それにあそこのドラゴンなら…」
と言いながら老人は薄ら笑いを浮かべる
ラング島とはエンテンス王国から何万kmも離れた島であり、人間が住むことのできない上位魔獣達で溢れた島である
そんな島の魔獣達の素材は超一級品の価値があり、世界中の剣士や魔法士、魔術師達が喉から手が出る程にその島の魔獣狩りを望んでいる
しかし島に行くまでに数々の試練があり、その試練を何日も掛けて抜けたとしても
疲労や食糧不足からその島の上位魔獣を討伐する事はほぼ不可能である
そのためラング島での魔獣を討伐できれば国で英雄視されるぐらい栄誉と高額の報酬が詰まった宝の島である
そんな島であったとしても五星なら容易く島に行く事は可能だ
しかし望んで誰も島には行かない
(あの島の魔獣って品性無いのよね)
(あそこの魔獣は汚い)
(沼にハマってイリスさんに怒られたからちょっと…)
(あの島の素材は最高じゃが行くのが面倒じゃ)
「「「「…」」」」
沈黙が流れる
皆それぞれ思うことがあったみたいだ
「まあ、あんなむさ苦しい男の話はどうでもいいわよ
ロイくん話を始めて」
イリスはやれやれと言った様子でロイに話を振った
「そうですね、あの人の事は忘れましょう
今日皆さんに集まってもらったのは…」
イリスに話を振られロイも考えるのをやめて本題に戻す
「コレを見てください」
と言って差し出したのは一冊の本
その本の表紙は失われた古代文字で書かれており
"楽しい呪術の本"と記されている
「これは何?」
古代文字で書かれているにしては珍しい表紙だった
「この本は偶然見かけた本だったのですが…
少し失礼します」
そう言ってロイは魔法を唱え始める
その魔法に皆んなが違和感を持つ
「…表紙をめくります」
ロイがそう言って本を開いた瞬間
悍ましい程の呪術がこの場にいる者を覆う
ロイが本を開ける前に呪術耐性の魔法を施し、五世並みの魔法適正おかげで何事も起こらないが
一般人がこれを開けていたら即死するだろう
それほどまでに強烈な呪術が施されていた
「この本どうしたの!?」
イリスが慌ててロイに尋ねる
「この間、偶々魔法塔に行った時に魔法士から渡されました
この本の出所をその魔法士に尋ねましたがこの本を貰った時の前後の記憶が思い出せないらしく
気づけば僕に渡していたそうです…僕も色々試しましたが…」
そう言ってロイは首を振りながら険しい顔をする
ロイ以上に魔法知識に優れた者はいない
そのロイがあらゆる手を使って本の出所を掴めないのなら他の者でも不可能だろう
「ロイくんで無理ならしょうがないわね」
ロイの肩に手を置きイリスが励ます
姉御肌なだけあってイリスの励ましは1番効果的だ
「それでこのページを見てください」
少し元気を取り戻しロイがページをめくる
「これは!」
「そう、学園の呪術によく似た魔法陣があった」
アイラの驚きにロイが返事をする
「じゃあこの本の作者か読者が…」
「いや、これほどの呪術を使える人間は恐らく僕以外存在しない」
ロイの自慢にも聞こえるが、皆んなはそれ所ではない
「まさか…」
イリスが呟き、アイラとオズ爺も手に汗を握る
「そう…悪魔です」
ロイは少し間を空けて告げる
この世界から姿を消したはずの存在が再び現れた
それは最も強大な憎悪の塊、ただ破壊の感情だけを有する存在
「…あれは御伽話の話じゃない?」
イリスが空気を和らげる様に話す
「しかし実際に文献には残されています
悪魔の存在は僕の名を賭けて誓います」
ロイはそこに集まる皆を見渡し宣言する
"名を賭けて誓う"
この国で一番信頼できる言葉であり、ただの口約束であってもその言葉は法の力が働く程重い言葉だ
ロイは冗談なんて言わない性格だ
そんな彼から悪魔の存在を知らされ動揺が隠せないのに名を賭けて誓われれば信じるしかなくなる
「…」
その場には4人以外居ないため、静寂が訪れた
「…なら、陛下にこの事を伝えてくるわね
学園にそんなものがあるならアイラだけじゃ不安だし、面倒くさいけど私もたまーに護衛につく様にするわ」
その静寂を破るのはイリスだ
「ならわしも一緒に行こう
こないだの通信機の話をしとらんかったしな」
と笑顔で答えたのがオズ爺だった
まだ話していなかったのかと少し呆れたが重い空気が和らいだ
誰も始めからロイの言葉を信じていない訳ではなかった
少し時間が必要だっただけであり、五星の彼らだからこそその存在の恐ろしさをきちんと理解し次の行動に移そうとしている
普通の人の精神ならそんな事を言われ戸惑ったり逃避したり怒ったりする所をきちんと現実を見れる精神もあるため五星という存在は尊く、敬わせているのだ
アイラは本当にこんな人たちとここに居ることができ嬉しく思うと同時に、胸の中に複雑な思いも芽生える
「それじゃあ行ってくるの」
「じゃあまたね」
そう言い2人が転移魔法を使おうとしているため見送ろうとしたがオズ爺がアイラの頭を撫でる
「また学校の話を聞かせておくれ」
オズ爺は皺を寄せながら笑顔でアイラに伝える
(オズ爺…)
オズ爺は本当のおじいちゃんみたいに昔からアイラの話をよく聞いてくれる
話せない事で悩んでいてもこうやって頭を撫でて元気にしようとしてくれる
昔から変わらない優しさ
そんな優しさに触れ胸の中の思いを大きくしながらアイラは今できる精一杯の笑顔で見送った
2人を見送り、ロイはまだ研究を続けると言いアイラに挨拶をしてから転移魔法を使った
そこに1人残されたアイラは胸を抑えて屈む
人の優しさに気づいた時からアイラは段々と自分の過去に対して息苦しくなってきていた
遅くなりました
新生活とワクチンの副作用で死んでました