少女は慌てている
慌ただしい日々が続き、アイラが転入してもうすぐ1ヶ月が過ぎそうな頃学園で初めて魔法の授業が行われた
「君たちのクラスの魔法学を担当するオフェリア・ルックスです。よろしくお願いしますね」
自己紹介する美しい女の教師にアイラは見覚えがあった
「私はこの国の魔法塔に所属しています。ある程度の質問には応えられると思いますので、みなさんどんどん質問してきて下さい」
そう笑顔で話す教師に男子生徒は少し頬を染める
流石貴族が取り締まる学園だ
中途半端な魔法士等でなく本物の魔術師が先生ならば安心だと思える
「今日は初回の授業ですので、魔法について知識を深めて行きましょう」
頬を染める男子生徒に呆れ顔で見ていた女子生徒も
いよいよ魔法について学ぶことができるみたいで期待を膨らませている
「とうとう魔法学について学べるね」
アイラの横に座るララも少し楽しそうだ
「中等部では何処まで学んだの?」
アイラは高等部から転入したため中等部の事は知らなかった
「全然学ばなかったよ、魔法学校は中等部入学時から毎日学ぶって聞いた事あったから学園も同じぐらいかなって思ってたけど1回も授業はなかったし、魔法適正がない人がほとんどだから学園側は必要ないって判断したのかな?」
とララは少し不満そうに説明してくれる
この国は他国と比べてトップレベルの先進国であり、魔法が必要となる状況が少ない
そのため適正が低ければ、わざわざ魔法を極めようとする者は少ないのだろう
この学園皆に魔法適正が無い訳では無かったが確かに適正が低い人の方が多い
(だから呪術も気づかずに過ごしたのか…でも)
呪術は魔法学校に入学しても専門知識のため一部の生徒しか学ばない分野である。それよりも生活や国に役立つ魔法を学んでいく生徒がほとんどであった。
そのため学園で魔法適正があったとしても呪術の知識が無ければ違和感で終わってしまう。リーシャもその1人だ。ならば…
と1人で考えながら何かが腑に落ちないことに気づく
そんな事を考え出してしまいアイラは周りが見えずにいた
「アイラ!呼ばれてるよ」
そう小声でララが声をかけてくるまで周りの声が入ってこなかった
ララの言葉に急いで顔を正面に向けると
「ではアイラ・ノルエルさん魔法とは何でしょう」
オフェリアは暗い笑みを浮かべアイラに質問をした
やはり美人の笑顔は怖いと思う
「ま、
ま…魔法とは自然の力を借りて人間が生み出すことが出来る自然現象です」
どこまで応えていいのか分からず少し自信無さげに応えてしまう
「そうです、ノルエルさんが答えた通り魔法とは人間が生み出せる自然現象です。そしてこの世界に溢れる自然の力を制御するために必要なのが魔法適正です。魔法適正とは簡単にすると魔力量と言ったら分かりやすいかしら?魔力量が無いと大きな魔法は使えないし、自分の魔力量以上の魔法を使おうとすれば魔力枯渇により死に至る場合だってあるわ」
オフェリアは恐ろしいことを簡単に言ってしまい、クラスに緊張が走る
そしてひとつの水晶を取り出す
「皆も10歳の時に検査したと思うけど、魔法適正検査は自分の限界を知ってもらい危険な行為を阻止するために行われているのよ」
そう言ってオフェリアは水晶に触れる
「これは皆がご存知の通り現五星の1人ルーベン・オズワルド様が10代の時に作られた魔道具よ。これが作られるまでは魔法適正有り無しの2種類の結果しか出なかったけど、これは上から七色が五星級、金が魔法塔、白が中級魔法士、赤が初級魔法士、最後に青がほとんど適正なしの5種類に細分化された事によってより安全に魔法が使えるようになったわ」
オフェリアは勿論金色に水晶が輝く
昔この国の国王を尊敬の意と魔法を極めし者という意味を込めて魔王という2つ名があったという
その頃から魔法の技術も発展していったエンセンス国であったが、急成長をしたのが恐らくルーベン・オズワルドが発明した魔法適正水晶からだろう
特訓次第では魔法の能力を伸ばすことも可能だが、中級魔法士ぐらいの能力が無ければ不必要と判断されている
また身体の発達が十分で無ければ能力が低い者にとって魔法は毒になる
中等部で学ばないのも理解できる
「ではこれから皆さんにこの水晶に触れてもらい、もう一度適正確認をしましょう。可能性は低いですが身体の発達によっては適正有りになっている可能性もあります
皆さんの現状を知りより安全に魔法を学んでいただくのも私の仕事ですからね」
オフェリアは1人ずつ名前を呼んでいく
「…!」
その様子を見ながらアイラの顔が青くなり冷や汗が止まらない
そんなアイラをララは見逃さなかった
「アイラ?顔が真っ青だけどどうしたの?」
ララは心配そうに顔を覗き込んでくる
「へっ?」
アイラは思わず声が裏返る
「アイラ、顔色が悪いよ。保健室に行った方がいいんじゃない?」
ララはアイラの手を取り眉毛を下げている
「あっ…いや、私はだい…じょうぶだよ…」
アイラの異変は誰でも分かる
いつも以上に声のは切れが悪くなっている
アイラは焦っていた
あの水晶に触れてしまえば注目の的になるに決まっている
昔あの水晶に触れ七色に輝いてしまっているからだ
魔法適正は成長することはあっても衰えることはない
ならばあの水晶に触れたら間違いなく前回と同じ色に輝くだろう
(どうしよう、ララの言う通り保健室に行くべき?
でもこの先生には逆に怪しまれそうな気が…)
この事態をどう切り抜けるか考えていた時、隣の席に座るララが呼ばれアイラの事を心配しながら教壇に向かって行った
「ではザイルスさん。この水晶に触れてください」
そうオフェリアに促されララが水晶に触れる
ララは前回水晶に触れた時青色だった
しかし
「ザイルスさんは白色ですね、では次の方お願いします」
ララは席に戻り驚きが隠せずにいる
「私…魔法適正が上がってる」
ララは喜びを抑えられない
今まで勉強も礼儀作法も中途半端だったがララに魔法の才能があった
両手で口元を隠し可愛らしく微笑んでいたが、アイラは納得していた
呪術に違和感を持つようになったララが青色のままの筈がない
この抑圧された環境とアイラが解呪をした事によって生じた能力であろう
アイラが学園に来なければ発掘される能力ではなかったが、ララにとって良い方に働いた事をアイラは静かに喜んだ
そんなララを見て和んでいるうちに気づけばアイラの順番が来た
(忘れてた…)
何の解決策も見つけられずアイラは重い足を動かし教壇に向かう
今ここで逃げればクラスの人にも怪しまれるだろう
アイラはやけくそになり水晶に触れようとした
しかし
オフェリアがそれを止め何も変わらない水晶を見ながら
「ノルエルさんは青色ですね」
それだけ言いアイラを席に戻るよう促した
その際オフェリアは誰にも見えないようにしながら小さな紙切れをアイラに渡す
「では残りの時間は初級魔法について学んでいただきます」
何事もなかったかのようにオフェリアは授業を再開した
読んでくださりありがとうございます(^^)
次話更新28日12時にします
書くのが楽しくて説明文を疎かにしたままですみません<(_ _)>