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魔物 Part1

「しっかし、使い魔が記憶喪失とは荒唐無稽な話だな~」


「俺だってなりたくてなってる訳じゃなぃやぃ」


「それに使い魔を使役している知り合いは何人か知っているが、お前みたいに常時姿を現してるなんてことはなかったぞ?さすがは勇者様の使い魔ってところかな?」


「ふ~ん。普通の使ぃ魔はすぐ消えちまぅのかぁ?」


「ものすごく飽きっぽいって言ってたな。食べ物やら、玩具やらでご機嫌を取ってないと、すぐ消えちまうんだと。繰り返し呼び出すのも面倒だから、必要なときにしか()ばないらしいぞ」


 ロアはとても気の回る奴だった。イルーの浮かない表情を察して声をかけたのだろう。さっきは荷物を少し持ってやろうと言い出した。おそらく俺の体調を気にかけてのことだ。ハルの付き添いに抜擢されたのも頷ける。この世界のことも一通り知っているだろうし、何を隠そうハルと同じ魔法使いである。存分に頼りにさせてもらおうと思う。


 旅の目的地である自由交易都市ダースラー・ドットは海に程近い貿易・商業・観光都市で、他国との貿易の拠点として発展してきたのだそうだ。外国人も多く、異世界人の俺でも羽を伸ばせるということでハルが決めたらしい。

 そして俺が一日にどのくらいの距離歩けるかが未知数のため、少し遠回りになるが河川に沿って海まで下るルートを取る。河川沿いには自ずと大小の村々が存在するため、俺の足に左右されずに宿を取れるということだ。

 しかし俺はその心配を持ち合わせてはいなかった。何故なら、すこぶる足が軽いのである。こちらの世界に召喚された時に容姿をまるで別人に変えられたが、どうやら体の悪いところもリセットされたようだ。無病息災なだけでも、この世界に来た甲斐があるというものだ。この調子なら五十キロメートルでも、百キロメートルでも歩けてしまいそうなのだから。

 心配事といえば、他のことである。


「ハルさん。私の我が儘に付き合ってもらって、ありがとうございます」


「いいんです。私も一仕事終えて、丁度お休みを頂きたかったのです」


 改めて考えると、俺は相当に面倒くさいお願いを叶えてもらってる。

 ハルの口から“観光”という言葉を聞いて、その時は気にも留めなかった。しかしこの世界の文明の発展度合いは、おそらく産業革命が起こる前だ。十六、十七世紀くらいの水準だろうか。自動車や鉄道などはなく、長距離移動に死がつきまとう時代だ。しかも魔物に襲われればひとたまりもない。魔法で返り討ちにすれば良いのだろうが、その魔法を使える人間――所謂魔法使いと呼ばれる人達は一握りしかいないらしい。昨日の宴で聞いた印象だと、人口のコンマ数パーセント……。

 そんな時代背景を考えれば、一人の男の我が儘で国の魔法使いという貴重な人材を二人も専有してバカンスなんて、何を暢気なという話だろう……。


「違ぇだろぅ?ミスト。“私めがポカに不徳を働ぃたことにより、お二人の御御足を煩わせなければならなくなりました。誠に申し訳ありません。”だろぅ?」


 このヘッポコ精霊!刺身にしてやろうか!?俺がいつポカに不徳を働いたんだよ!?

 ポカとはこの世界の馬だ。四足歩行で足が細く、人を乗せたり馬車を牽かせたりする。蹄があり、歩くとポカポカ音が出るのでポカと言うらしい。もっとも見た目からして哺乳類ではない。なにせ体中にトカゲのような鱗があり、舌がとても細長いのだ。たてがみがライオンのように顔を一周し、四本の足の付根にも逆立った立派な毛を生やしていた。

 そして何故俺達がそのポカを連れていないのかというと、出立の時――


==== 以下回想 ====


「おいハル、ポカは三頭でいいか?」


「滅相もありません。往路よりも疲れが出る復路です。いろいろ入り用でしょう。私達は暇を貰いに行くのですから、ポカは要りません」


「ポカの足を借りりゃあ、少しばかり早く目的地に着くだろう。そうすりゃ長く休みを楽しめる。俺達は別に急いで帰る必要はねぇんだから、お前が使いな。そして必ずポカを返しに帰って来い」


「……ありがとう。ご好意に感謝して二頭お預かりします。二人で乗れば二頭で済みますから」


 そこまではトントン拍子だった。

 だが俺がポカに跨がろうとすると、ポカが壮絶な拒否反応を示したのだ。他のポカでもダメで、ポカに跨がろうとすればその回数だけ俺は地面に振り落とされるのだった。


==== 回想ここまで ====


 馬車を二頭で牽く案も出たが、コストに見合わないためポカを連れて行く話はご破算になり、今こうしてひたすら歩行に勤しんでいるのだ。

 その一連の光景を思い出してしまった俺は、いてもたってもいられず両の膝小僧を地面に付け合わせた。


「私のせいでお二人の御御足を煩わせなければならなく――」


「平気ですっ!気にしてません――!歩きましょう!ほら!」



 鳥が頭上高くを旋回する。道端の花にひらひらと蝶々が止まる。どこまでも続く空、緩やかなカーブを描く川の消失点の付近に集落のようなものが見える。あそこが今日の目的地だろうか。優しい陽の光が全身を包む。草原に寝転んで昼寝をしたら、さぞ気持ちいいだろう。しかしそこらの草むらは、当然人の手が入っておらず伸び放題である。

 三度目の休憩時イルーを眺めながら閃いた俺は、早速先の罪悪感を薄める可能性を試してみることにした。


「なぁ、イルー。例えばだが風の魔法か何かで、俺の体を浮かせることはできないか?」


「んぁ?……あるっちゃぁるけど、上手くぃくかな?……ははぁ~ん。さてはポカの代わりにしょぅって魂胆だなぁ……?」


「いいから、頼むよ」


 するとイルーの周りに昨晩のメモ帳のようなウィンドウが表示された。やはり昨晩のはイルーの魔法だったようだ。イルーはそのウィンドウをしきりに操作し始めた。すると俺達の目前に小さな旋風が起こった。恐らくこれが風の魔法である。


「ん~加減が難しぃなぁ……」


「乗っても大丈夫かな?」


「……」


 俺はええい!と両足を揃えてその魔法の中心へとジャンプした。


 ドテッ!


 案の定俺の体は大地に寝そべってしまった。もう少し改良を重ねれば、“舞空術”もとい空中浮遊が完成しそうである。


「どうしたんだ?」


 ロアの声が聞こえたので振り返る。脳天気に、青空を見上げる体勢になっている俺を笑いに来たか……。と思ったが、その声は俺達に向けられたものではなかった。


「何か光ったような気がして……南西八時の方向です」


 ハルが川の向こう岸の方角をしきりに気にしているようだ。その様子を察してロアが声を掛けたらしかった。


「了解」


 するとロアは自身の目の高さに合わせ、空中に楕円形のモニターを出現させた。蜃気楼のようなそれは、遠くの景色をズームアップして表示させる。おお、凄い。どこにカメラレンズがあるのだろうか?あるとしたら、随分高倍率の望遠レンズである。それを通して一同の目に、土煙を上げながら右から左へ進む大きな影が映った。


「魔物……!」


 フォーカスが調節されて、鮮明な映像になる。すると地面付近の土煙から、信号弾が空に放たれたのが確認できた。まるで千里眼だな。


「救命信号!人が襲われてる!」


 ハルはそう言い終わる前に、稲妻のような速さで駆け出した。助走をつけて走り幅跳びのように地面を蹴る。すると残像のような輝く火の粉を残して、その姿を消した。かと思うと次の瞬間、十メートル程先にまたハルの姿が現れる。ハルはその動作を繰り返し、水面を物ともせず瞬く間に対岸の先まで行ってしまった。何という速さだ。


「連続瞬間移動!?」


 昨日車上でたんこぶをこさえることになったのは、これのためか……。驚きの余り口にするとロアが反応してくれた。


「俺達も行くぞ!」

ご愛読ありがとうございます!

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評価ポイントとして入るようです!!


そして評価ポイントが高いほどランキングに入って

皆さんに読んでいただけるということで……ぜんぜん知らなかった(;・∀・)


どうかブックマークと★評価よろしくお願いします!!!

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