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鉄血 Part1

 イルーの訴えを遮るように、軽快な発砲音が建物に反響した。――と同時に俺達を覆うように魔法障壁が出現していた。イルーの魔法である。その盾に弾かれた何かがぽとり、ぽとりと地面へ落下した。俺達はすぐさま音のした方に顔を向ける。そこには煙の立ちこめる道路と、その真ん中に佇む女性のシルエットがあるだけであった。


「イルー。今のはあの人から!?」


「クシアおば様!?」


 イルーからの返事がない。見渡せばイルーの姿が何処にもないことに気付かされた。俺はそれを後回しに返事をする。


「知り合いですか!?」


「ええ。王都の魔道士で知らない者はいません」


 クシアは一歩一歩と間合いを詰めてきていた。暗がりからご尊顔が、街灯の下へ出る。


「随分と良い精霊を連れているじゃないか……」


 凜と立つシルエットに反して、その女性の顔には多くのしわが刻まれていた。しかし年老いている感じは毛頭ない。白髪のショートヘアーでオールバック。片方の前髪だけ顔の横に流している。その月の輝きのような、青ざめた目の色が一層俺の背筋を凍らせた。


「……最悪。一番敵に回したくない人かも……」


「イルーどこだっ!?イルーっ!」


「あははは……。そっちの坊やはどうだろうねぇ?主人が木偶だと、使い魔も浮かばれないよ?」


 クシアはそう言うと、後ろ手に回していた手を前に出した。両肩に垂らしたショールが動きに合わせてひらりと揺れる。そしてその先に掲げられた手には、金属製の籠が握られていた。なんとその中にはイルーがいて、見事に捕まっているではないか。


「イ、イルー!いつの間に……」


「はっ!何じゃこりゃぁ!?ぃ、ぃっの間にっ!?」


 俺は軽く目眩がするのを感じた。シークの時とまるで同じ轍を踏んでいるではないか……。クシアのもう片方の手には、宝石の付いた尺のような棒が握られている。そのまま流れるような動作で、その棒の端を自身の顎にあてた。


「おば様!道を通して頂けませんか!?これにはちゃんとした訳があるのです!」


「そうかい、そうかい。なら聞こうじゃないか……留置場でたっぷりとね!」


 宝石がキラリと輝いて、その棒はクジャクの羽のように広げられる。扇子である。そしてクシアの足元からは、直立した細長い棒が数本生えてきた。その棒達はクシアの胸の辺りまで来ると伸びるのをやめる。


「ややややったね!モアレア。てて鉄血のクシア様――ひひひ火とち地属性のま魔法を極めたひゃ百戦錬磨の騎士様が増援でききき来てくれるなんて!」


「……いいえ。クシア様は既に現役を引退されている身よ……。今はどこの部隊にも所属していない筈なのに、何故……?」


 光を放ちだした扇子が、クシアの前方に並ぶ棒達の先端を撫でて回った。棒達のすぐ上には三日月型の残像が浮かんで消える。すると地面に接していた棒の先が一斉に起き上がり、俺達の方を向いた。


「ミスト!全力でシールドっ!!」


 俺は言われたとおりに、ショートカットから〈アスシルド〉を発動させる。そして更にその内側には、幻灯虫の光に似た分厚い魔法障壁が姿を現した。意図したことではないが、これ以上ない万全の態勢である。


 タタタタタンッ!


 棒の先からフラッシュの光が飛び出し、遅れて先程と同じ発砲音が辺りに鳴り響く。俺はイルーを取り戻す方法を模索しようと、考えを巡らせようとしていたところだ。しかしほぼ同時に俺の左肩には衝撃が走り、反動で左によろめくこととなった。

 一呼吸置いて痛みが伝わった。俺は咄嗟に右手で左腕を押さえる。そして右手に付く赤い液体を見て、俺は腕から血を流していることに気が付いたのだった。


「なっ!?」


 そんな馬鹿な!?今まで魔法障壁は事あるごとに俺を助けてくれた。ハルやシークの攻撃を凌いできたそれを、クシアの攻撃は貫いて、俺の肩を負傷させた。つまり間違いなく過去最高の威力だということ……。

 俺は砲身の先から出る煙の向こう側で、冷静を決め込むクシアに目線を戻した。


「ほぅ……まだ腕がくっついているとはね。坊やも伊達じゃないようだね」


「おば様は鉱物と爆発物の扱いに精通している。本来対極にあるはずの火と地、その両方の魔法を同時に極めた魔道士。それが鉄血の名の由来――」


「ほらぁ!次行くよ!」


「――ならっ!」


 俺は〈グラードカッパー〉で前方に分厚い石の壁を築いた。いくら現代の地球において、貫通力の高い銃でも数メートルクラスの壁を貫くことはできないだろう。クシアの銃が魔法障壁を貫通できるとして、それならば物理的に貫通させなければ良い話しだ。


 ドォォンッ!


 これまでとは比較にならない爆音が響いた。と同時に強い爆風によって、俺は後ろへ吹き飛ばされる。急いで顔を上げると、俺が築いた石の壁は悉く粉々に粉砕されていた。

 石畳から生える石壁の残骸の向こう側には、黒光りする金属が待ち構えていた。それはこちらに大穴を向け、睨みをきかせているドデカい大砲だった。瞬時にこんな大掛かりな武器を構築できるとは、予想外だ。


「はっはっはっ!無駄だよ!石の壊し方なら私の専売特許なんだから!」


 そう言ったクシアは間髪入れずに、金属の盾を胸の前に出現させて見せた。俺の視線とその盾の間に、躍動する短い赤髪が姿を現す。ハルだ。しかしハルの初手は、多くの火花を散らせて盾に塞がれてしまった――のみならず攻撃を防いだ盾の裏側では、ハルに向けて無数の銃口が突きつけられていた。

 ハルは攻撃の手を緩めて姿を消した。そんなハルを尻目に、クシアは足下の地面を隆起させてイルー片手に上昇し始める。空に伸びる足場は、ぐんぐんと高さを増していった。一旦後ろへ下がったハルが、二メートル、三メートルと距離を離すクシアに飛びかかる。すると足場の側面から無数の棒が伸びて、ハルに照準を合わせた。


 タンタタタタンッ!タタタタタッ!


 出鱈目な発砲音にハルを捕らえることはできなかった。ハルはせり上がる土色の足場の裏側――クシアの死角に回り込んでその懐を襲う。


 バンッ!


 黒煙と共に爆発音が響き渡る。クシアとハルの間で爆発が起こったように見えたが、どちらがどちらを攻撃したのだろうか……?そう考えている俺の隣には、背中から煙を昇らす息の荒いハルがいるのだった。


「耐火性のアクセサリーかい……助かったね。うかつに飛び込むと火傷じゃ済まないんだけどね」


 爆発の衝撃のせいかわからないが、土色の塔はボロボロと崩れた。クシアはイルーの籠を手に、階段状に構築した足場を使って地面に降りてきた。


「ハルっ!ミストっ!俺のことはぃい!ぃいから、先に行ってくれ!!このままじゃ!お前等も捕まっちまぅょ!!」


 そんな訳にはいくか……!まだ諦めてたまるかよ。まだ〈蔦地獄〉も《光球獄》も試しちゃいないんだ。……だが、気のせいだろうか。この蛇に睨まれた蛙になったような感覚は。この御仁の前では、どんな小細工も姑息な手段も通用しなさそうだ。人をそんな心持ちにさせてしまう貫禄をクシアは放っている。

 ハルは右肩を押さえながら項垂れた頭を引き上げた。そしてイルーの叫び声を上書きするかのように言った。

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