追っ手 Part3
そう伝えるなりハルの姿が俺達の前から消えた。どうやら俺の意図を察した……というより、ハルも同じ気持ちだったのかもしれない。阿吽の呼吸過ぎてビビる。その場に残された武器に囲まれたお嬢様は、呆気にとられた表情でこちらを見ている。
「話の途中だというのに、お姉様はどちらに行かれたのでしょう?」
「残念ですがダンスの相性が悪かったようですね。これより私がお相手しましょう」
お嬢様の周りの武器達は、先端をだらんと地面に付けていた。しかし俺の挑発を聞くなり、遊園地の回転ブランコのようにお嬢様を中心にゆっくりと回転しながら起き上がる。それから武器達は、自分の収まりの良い場所にピタリと空中で静止した。そしてまるでそれぞれの意思を持つように、刃をこちらにキラリと向けるのだった。
武器達は身の丈もあるような巨剣やジャラジャラと金属音を響かせる長い鎖、トゲトゲが幾つも付いた鉄球や死神が持っていそうな鎌などバラエティー豊かである。全部で幾つあるだろうか。十本程であろうか。
「ビュッテ、そっちにお姉様が向かったわ。代わりにこっちに男が来たけど気付いてる?」
お嬢様はここにいないはずの相方に向けて言葉を発した。恐らく何らかの通信手段があるに違いない。イルーはそれを聞くなり、すかさず〈蔦地獄〉を伸ばした。しかし武器達の間合いに近付いた蔦は、器用に動く刃に全て刈り取られてしまった。
「――まあ良いわ、警戒して。慎重に行きましょう」
その言葉に俺は少しの希望を抱いた。
「イルー、二つの《光球獄》で武器を挟めるか?」
「ぁー……ゃってみっか」
イルーは俺の想像通りに大小の《光球獄》を発動させた。大きい方は武器達の外側に、小さい方は武器達とお嬢様の間に瞬時に出現した。思惑通り全ての武器達は光の格子に挟まれて思うように動けなくなった。
「上に隙間を空けてくれ」
お嬢様の頭上に武器も《光球獄》もない空間が現れた。俺はいつもの要領でお嬢様の足元に風魔法を発動させる。《人間ロケット》だ。お嬢様が――某“剣を刺されて樽から飛び出す海賊の玩具”のように――《光球獄》から上空へ跳ね上がった。俺はそこ目がけて飛び立つ。丸腰になったお嬢様を空中でキャッチして、そのまま《光球獄》の向こう側へ着地した。
「な……ななななななな!」
あまりの動揺からか、お嬢様が着信中のスマートフォンばりに震えだしてしまった。目が点になるとはこういう顔のことを言うのだろう。
「すみません。危害を加える気はないんです」
俺はそう言いつつも、お嬢様の手足に伸びる蔦を払うことはしなかった。お嬢様は俺に両手で抱きかかえられ、赤面しながらジタバタもがいた。イルーの〈蔦地獄〉が上手い具合に絡まって、身動きが取れないのだ。俺は腕の中で暴れるお嬢様を地面にそっと降ろすことに成功した。そのまま持っていては落としてしまう。
「本部!本部!掴まりましたっ!ビュッテっ!」
手足が縛られたお嬢様は、できる限り体をくねらせて少しでも俺達から離れようと必死である。
「なぁ、こぃっ眠らせた方がょくねぇか?」
「いや、ビュッテの動向もわかるし、このままハルの所へ連れて行こう」
「ビュッテっ!?……」
お嬢様は俯いたまま静かになってしまった。
「……」
「――喋んなくなっちまったな」
「あっちも決着が付いたんだろう。行こう――いだっ!」
お嬢様の体を起こそうとするが、必死の抵抗をされる。見かねたイルーが風魔法で俺の肩へとお嬢様を飛ばした。
「ひゃっ!」
「ぅゎっはっはっ!俺達の勝利だなっ!」
「……く……屈辱です……あなた達の目的は何なのですか!?あの巨大な鳥で何をしようというのですか!?」
俺は背中から聞こえる甲高い声を無視して〈神速〉を発動させた。
「……直ぐに沢山の魔道士達があなた達を捕まえに来るでしょう!逃げられる訳ないのです!今のうちに降伏しておいた方が身のためではありませんか!?」
「けっ!俺達が一体何したって言ぅんだょ!?誰も傷つけちゃぃねぇし、悪さしょぅなんかこれっぽっちも考ぇちゃいねぇ!そんな人畜無害な俺達を殺そぅとしてるのはどこのどぃつだぃ!?」
「イルー。余計なことは言わなくて良い……上空の鳥は陽動です。ビュッテは私達が隙を見せても、なかなか攻撃をしてきませんでした。逃げ回るか、罠を仕掛けるかしかしてこない。そこで私はビュッテが非常に慎重な性格――悪く言えば臆病な性格と仮定しました。まあ直接的な攻撃をせずに、様子を見るよう命令を受けているというのも考えられましたが」
「だから頭上にド派手な何かを呼び出せば、危険を感じて低ぃところまで降りてくるんじゃねぇか、ってのがミストの読みだったのさ」
「――ですので、ビュッテさんが無力化されているのを確認したら、空の鳥はひっさげます。どうぞお気になさらないように」
「う~っ!ぎぎギブっ!ぎ、ギブっ!」
俺達が〔フィアニクス〕の真下へ到着すると、ビュッテとおぼしき男の上にハルが覆い被さっているところであった。よく見ると後ろ手にされたビュッテの胴と腕の間には、鞘に納められた剣が通されている。関節技が決まった状態のビュッテは、堪らず唸り声を上げていたのだ。
「首尾は良さそうだ……ね?」
「あ。ミスト!良かった。早く縛り上げちゃって!」
サラッと凄い台詞を言うな……。〈蔦地獄〉が綺麗に成功して、空の巨鳥は姿を消した。
「本当にビュッテもやられているなんて……」
「こここ、この通りです。はい……」
ビュッテと呼ばれた男は、真っ二つに折れた杖を縛られた手で器用に掲げて見せた。涙目で訴えてるが、どこかホッとしている。杖が折られたことより、関節技の方が効いていたようだ。
「――しかしよく対戦相手の入れ替えに気付いたね」
「モアレアと戦いながら思っていたの。ミストだったら、意外とあっけなく倒しちゃうだろうなって……ミストも同じじゃなかったの?」
「実は俺もそう思ってた。ビュッテさんよりハルの方が速いなって……だからハルの攻撃が届くところまで、ビュッテさんを引きずり下ろすことを第一に考えた」
「ぼぼぼ僕達は二人の阿吽の呼吸にやややられたんですね……な、納得です。はい」
「悔しいですぅっ!お姉様はずっと独り身だと思っていたのにっ!」
「いや、モアレア……。どうしてそうなるの?」
「む~っ……!」
「ぅぉい!もぅ面倒くせぇからこぃっらほっとぃて先行こ――」
タタタタタンッ!
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