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追っ手 Part2

 俺はイルーと共に、屋根の上めがけて飛び上がった。


「あまり時間は掛けられない。ガンガン行こう!」


「ほぃキタ!」


 夜空に幾つもの花火が上がった。それは悠々と流れる雲を――或いは静かに立ち並ぶ家々の屋根を――赤、青、橙、黄色と様々な色に染め上げた。イルーが手当たり次第の魔法を、宙に浮かぶ魔道士に向けて放ったのである。

 魔道士ビュッテの周囲には数々の魔法――天地に伸びる数本の水の巨大渦巻きや、大仏様の手のひらのような、一対の岩壁が蚊を仕留める様に合掌するもの、瞬く間に天を貫く一直線のレーザービーム――等が次々と出現して襲いかかった。しかしビュッテは器用にその魔法達を避けると、複雑な軌道を描いて遠くの空へと行ってしまった。俺は負けじと、空中で《人間ロケット》を発動する。自らの軌道を変えてビュッテの後を追った。しかし距離は縮まるどころか離される一方だ。飛行能力についてはビュッテの方が数枚上手だ。


「チクショーっ!!ぉらぉらぉらぉらぉら!」


 イルーは俺の肩に掴まりながら魔法を打ち続けている。――これは確か以前、イルーが息巻いていた《レ・シュトー追尾型》という敵を追いかける魔法だ。それを何発も放つ。だが、ビュッテが散布する光る粉によって、勢いを消されてしまう。ならばとビュッテの前方に、格子状の光の罠を仕掛ける。しかしこれもビュッテは、いともたやすく急旋回してひらりと躱すのだった。


「このぉ!ちょこまかと逃げ回りゃがってぇ……!ミスト、こうなりゃぁ――」


 そう言いかけたイルーから、言葉が消えた。その途端、目の前で爆発が起こった。爆煙の中を、俺達は真っ逆さまに地面に向かって落ちていく。そしてすぐに、目まぐるしく変わる景色が落ち着いた。ふわっと体が浮き上がったかと思えば、どうやらイルーが魔法で体勢を直してくれているようだった。


「あのぉゃろぉ……何か仕掛けてゃがったな……」


「――っ魔法障壁があって助かった。ビュッテは爆発する系の魔法を使うんだな……」


 頭が完全に起き上がった。俺は頭上を旋回するビュッテを、目で捉えながら口を動かした。


「ぁんなぁ……今の爆発の魔法は俺の魔法だぞ?緊急回避だ!ぁぃつが目に見えない罠を、俺達の進行方向に仕掛けてたんだ。寸前の所で気付ぃて良かったぜぇ」


「俺達の軌道を逸らすために、わざと爆発の魔法を使ったってことか。すまん。何もわからなかった……」


「それよりも問題は、どぅやったらぁぃつに攻撃が届くかだ。このままじゃ埒が明かねぇ!」


 俺の足の裏は、高い塔の屋根の上に吸い寄せられた。イルーがここまで誘導したに違いない。たまたまあった足場がそこだったのだろうが……。


「はぁ……。地に足つく所なら、間違いなく斬り伏せられるんだけどな」


「けど、ぁぃつはずっと夜空の中だぜ?ぁの感じじゃ、近づくことすらままならねぇな」


「このまま膠着状態が続けば俺達の負けだ」


 眼下を見下ろすと、建物の壁に光が反射しているのが見えた。ハルの魔法が炸裂しているに違いない。俺は気になってイルーに尋ねた。


「……そういえば、ハルはどうしてる?」


 ビュッテを目で追いながら、俺は尋ねた。イルーはそれを確認してから目を閉じたようだ。数秒経って回答は得られた。


「……まだ闘ってんな。沢山の剣に攻撃を防がれて、手こずってるみてぇだ」


「沢山の剣か……相手は一人なんだろ?」


「あぁそぅだぜぇ。どぅゃってんのかは知らねぇけど、沢山の剣を振り回してらぁ。動きも素早くはなさそうだし、あのハルのことだから相手の攻撃は当たらねぇだろぅけど、こぅ鉄壁の防御をされたらなぁ……」


「あっちも持久戦になりそうか……戦況は芳しくないな」


 俺はそう言うと、どっしりとその場であぐらをかいた。腕を組んで“動かざること山の如し”の風体である。そのまましばらく目をつむっていると、顔の周りを騒がしい声が飛び交った。


「……ぅぉい!マジかよ!?そんな簡単に諦めちまぅのかぁ!?さっき三人で決めたじゃねぇか!研究所に行こぅって!それで身の潔白を証明してもらぅんだろぉ!?」


「……」


「ちぇっ!なんだぃなんだぃっ!知らんぷりかょ!さっきちょっとでも心動かされた俺っちが馬鹿だったょ!そぅか!諦めんのかっ!なら、もう知らねぇよ!」


「……」


「ミスト、ぉ前の覚悟はそれっぽっちの覚悟だったのかょ!?ちくしょー!なんだょ!こんだけのことで諦めちまぅんなら、さっさと魔王にでも何にでもなっちまぇってんだっ!こんな壇上を用意してくれた、ハルの気持ちはどぅなるんだょ!これで精一杯ゃったって言えんのかょ!?」


「……」


「……俺はさ、ぉ前が自殺をするって言ぃ出した時、本当に悲しかったんだぜ……悲しくて悲しくて、目の前が真っ暗になったよぅでさ……ひとりぼっちになっちゃぅのも嫌だし……この先どぅなるんだろぅって……でも、どこかでそぅなっちゃうんじゃなぃかって思ってぃた自分もぃた……それはさ、俺もハルの命を助けたぃって思ったからなんだ……だから、ぉ前を強く止めなかった……止められなかった……」


「……イルー」


「それが何だぃ!?今の投げやりな姿はっ!?そんなんじゃ俺は納得できなぃ!力を振り絞って、根性で何とかしょうとして!皆で知恵を振り絞って!最後まで戦い抜ぃて、それでもダメならわかるんだぜっ!?でもな、でもな――!」


「……何か気付かないか?」


「ぁぁん?手前ぇの根性のなさかょ!?それなら薄々気付ぃてはぃたけどな!まさか今際の際になってまで腑抜けだなんて思ぃもょらなかったょ!」


「一向に仕掛けてこない」


「あぁ、そうかぃそうかぃ。それが戦意喪失の理由ってかぃ?下手な言い訳はょしなっ!この際正直に説明してもらおうか……ってホントだ。随分何もして来やがらねぇな」


「俺達への攻撃の意思がないのか……それとも……」


「へっ!何か考ぇがぁるんだな?流石だぜ相棒!」


「いや、殆ど博打みたいなものだ。これで相手が乗ってきたら儲けもの。乗ってこなかったらまた別の手を考えるさ」


 俺はイルーに特別ド派手な使い魔を呼び出してもらった。燃え盛る羽を纏った、紅蓮に染まる巨大な鳥〔フィアニクス〕である。

 登場時の演出は、ロックスターのオンステージのイメージだ。火属性魔法を幾つも発動して、豪華になるようにお願いした。風に乗って飛散する数多の火花の中を、〔フィアニクス〕は天高く上った。そしてビュッテの頭上で大袈裟に羽ばたきを繰り返した。

 俺達はそのどさくさに紛れてハルの下へと急いだ。元いた場所には、俺とイルーのホログラム――霧と光の魔法で作ったできの悪い映像――を置いておいた。それも数分で消えてしまうと言うことだが、ないよりましだろう……。ビュッテに捕捉されないように建物の屋根の下を進む。〈神速〉を数回発動させてその場所へ到着した。


 住宅街の路地では、ハルとひらひらのスカートを履いたお嬢様のような女が対峙していた。そのお嬢様はハルの方に一歩一歩と歩を進めている。対するハルは後退りしながら、お嬢様へ攻撃を打ち込んでいた。しかしお嬢様の周囲には、ゆらゆらと浮かぶ無数の剣や鎖が何本もある。ハルの攻撃はそれに阻まれて、お嬢様の懐までは届いていないようだ。


「ハルっ!」


 ハルの側面から声を掛けるなり、ハルは一足飛びで俺達の方へやってきた。


「ビュッテはっ!?」


「あの使い魔の()()だ!!」

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