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追っ手 Part1

「よぉぅし!そぅと決まれば早速、研究所に殴り込みじゃー!!ぅおおおおぉぉぉっ!!」


「――研究所の使用許可を得るために、寄り道するよー」


「ズコーッ!」


「使用許可?」


「なんだょぉ。研究所の奴を脅して働かせるんじゃねぇのかょ……?」


「いや、そんなことしたら即拘束されるだろ……穏便に済ませる()()があるってことでしょ?」


「ええ。私の持っている最強のコネを使うつもり。目指すは中央区“白夜の帳”!行こう!――賽を振り直すために!」


『賽を振り直すために――!』


 俺達はまた駆け出した。道案内でもしてくれているように、幻灯虫が俺達の先を漂っていた。俺の気のせいに過ぎないのだが……。

 川沿いを進み、橋を渡り、別の繁華街を越えて、何度も塀をよじ登った。遠くに目を引くのは、上空からでも一際存在感を放っていたその場所。ネオン煌めく山のようなビル群がある中央区――この都市の中心であると共に、この国の中心であるその区域が徐々に俺達の元に迫ってきていた。


「間違いねぇ……」


 イルーが空から降りてきた。偵察でもしていたのだろうか?


「川の水が……逆流している……!」


「何を血迷ったことを言ってるんだ?」


「ホントだってぇ!!この運河があの山の天辺まで続いてるんだょ!そんで当然、途中は上り坂になるんだけどょぉ、そこの水は下から上に流れてんだ!」


「んな馬鹿な……」


「それ本当だよ」


 はぁ……なるほど。流石異世界。俺もこっちに来て早三週間――数え方によっては一月ばかり経つが、まだこっちの常識に頭が追いついていないようだ。


「中央区は三層構造になっているの。一番上の上層に人や物を届けるのって大変でしょ?だから先人が巨大な登り運河を建設したの。お陰で朝の運河は通勤舟で満杯!」


 そこから更に進んだ所に、首都高の入り口のような登りの坂道が現れた。坂道の真ん中に流れる運河の水は、力強く坂道を登って行く。そして町の上空へ架かったその坂道は、緩やかな弧を描いて民家の向こうの空へ続いていった。



「えっ!?シークの正体を教えてくれたのはコレンさん!?」


「ううん。あの時点ではまだ誰が暗殺者なのかまではわからなかった。ただコレンは参謀室から暗殺者が派遣されたことを私に知らせてくれたの」


 随分走り続けた俺達は、大通りに出ると同時に速度を緩めた。等間隔に並ぶ街路樹の下をせっせと進む。中央区とそのビル群は目前まで迫り、俺達の前にそびえ立っていた。

 途中何度か空に架かる橋をくぐった。橋達は合流を繰り返して山の頂へと伸びている。どうやらそこ――中央区の上層は、方々からの運河を複雑に内包する水上都市のような景観を装っているようだ。湖から幾つものビルが生えている。そう形容しても差し支えない姿である。


「――にしても、シークの野郎っ!暗殺者だってことはぉろか、魔法使ぃだってことすら隠し通して俺らと寝泊まりしてたなんて、信じられねぇぜ!」


「きっと波殲滅作戦時には、まだ暗殺命令は下されてなかったんだと思う……。あの時のシークの目的は多分、下見。私達の力量や力関係、ミストの能力の調査をしに来た。シークの調査報告を受けて、暗殺命令が下されたんだと思う」


「っ!だからぁいつ、ハルの攻撃を易々と見切ることができてたんだな!?ハルの必殺技を悉く避けやがって!癪な野郎だぜ!」


「はは……。それを抜きにしても、シークは本当に強かったよ。……でも負ける訳にはいかなかったの。皆の思いが、私に掛かっているのだもの――」


 その時である。浮かんでいたイルーが、目を閉じてポトリと地面に落ちた。俺とハルの方を向きながら、後ろ向きに進んでいただけなのに。


「ぐかぁー……」


「下がって!」


 イルーに駆け寄ろうとした俺を、ハルが諫めて声を荒げた。次の瞬間には、ハルの放った〈フィアーボール〉がイルーの頭上で爆発する。俺はハルに手を引かれて、細い路地へと身を隠した。


「一体何が!?」


「微かにスッとした匂いがしたの。きっと睡眠作用のある薬品か何かを、宙に漂わせていたんだと思う。待ち伏せね」


 ハルは焦った顔をそっと建物の陰から出した。


「相手の数や位置関係がわかればいいんだけど……足止めを食らえば食らうほど、こちらが不利になるから」


「ちょっと待って……魔法使うよ?」


 俺はハルの言葉を受けて咄嗟に思いついた。ショートカットから〈蔦地獄〉を発動させる。地面を這った蔦をイルーに上手く巻き付けることに成功した。手元に戻ってきた鼻提灯を膨らますイルーの顔を叩いて起こす。


「はぁっ……!?レーザーの発射を止められずに衛星が爆発して宇宙空間に投げ出されたはずなのにっ!?なんでミストがぃるんだっ!?」


「いや、物の一瞬でどんだけ濃い夢見てんだよ……そんなことより、索敵魔法――ホイネ村で追っ手を見つけたあの魔法、使えるか?」


「んぁ……。……俺を誰だと思ってんのょ?」


「――イルカ。ウ○ンドウズの」


「違ぅわっ!次それ言ったら問題だからなっ!?」


「魔道士を探して!衛兵もいるかもしれないけど、魔法が何よりの脅威だわ」


 イルーは聞き分けよく目をつぶった。


「ちくしょー俺を眠らせた奴を探せばぃいんだな……?ちょっと待ちな……」


「数と位置。わかれば、どんな武器を持ってるかもお願い」


「……四、五十メートル前方に一人――こっちに向かって歩ぃて来てる……デカぃ剣を持ってるな……ぃゃ、一本じゃなぃ……なんじゃこりゃ。他にも沢山持ってるぞ……?こぃつ腕が何本あるんだょ?」


「他にはいないのか?」


「ぁぁ、他に起きてる奴はいなぃなぁ……路地に倒れてる酔っ払いはぃるけどな」


「やった!なら、屋根伝いに先へ進める!」


 ハルが喜んだ顔を俺に向けるので、俺も嬉しくなって安堵の息を漏らした。


「――ちょっと待て!ぅ……上だ!上にもう一人ぃる!まさか……こぃつ宙に浮ぃてるみてぇだ!」


「……ということは、風使いのビュッテね……待ち伏せを仕込んだのはビュッテの方……相手を攪乱するように歩いてきたつもりだったけど、空から見られてたなら待ち伏せも頷ける……これで素通りする選択肢は消えた……」


 俺とイルーが試行錯誤して完成しなかった禁断の技、武空術。まさかその使い手が俺達の追っ手だとは……つくづく運がないようだ。


「私じゃ分が悪い……ミスト、イルー。頼める?」


「任せろっ!」


「はいっ!」


「ちょこまかとして攻撃が当たらないと思う。けど、必ず引きずり下ろして。あと魔法の威力はそうでもないけど、待ち伏せや不意打ち、飛び道具に気を付けて。私は()()とぶつかってくるわ」


 ハルはチラリと大きい路地の方へ目をやった。俺は機を逃すまいと声を上げた。


「ハル――!ハルも気を付けて……!」


「――!……うん!」

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そして評価ポイントが高いほどランキングに入って

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