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閃光 対 稲妻

 静寂は終わりを告げた。

 ただ、それを終わらせたのは、風の音でも波の音でも、ましてやハルの声でもなかった。突如としてなんの前触れもなく、俺の耳元に現れたその声は、最初意味を持たない音として俺の脳に認識される。


「困るんですよねー。ミスト様ー、先に死なれてはー……」


 俺が音の方に顔を向けるとそこには、数日前まで共に死線を彷徨った見慣れた顔が浮かんでいた。


「……シーク……さん?」


 ズバッ!!!

 閃光の後に旋風が巻き起こった。俺の隣にあったシークの体が、まるごとハルの体に入れ替わる。ハルは勢い余って俺の少し後方まで進んでから静止した。その手には確かに抜刀したブロードソードが握られている。何がなんだかわからない……。何がどうなって……。


「……ミ……スト……気を付けろ。そぃつ、俺にな……なんかしゃがった!」


「イルー!?イルーっ!」


 見れば、苦しそうに震えるイルーの姿があった。宙に浮かんでいられるようだが、青い顔が一段と青く見える。


「んふふふ……この中で一番やっかいなのは、その使い魔ですからねー。一手目で封じさせていただきましたー」


「な……何を……っ!」


 シークは随分と離れた場所――ハルの間合いの遥か外にいた。一瞬であそこまで移動したというのか!?ひょっとして魔法使いなのか!?

 シークは禍々しく湾曲した小振りな剣を、腕の周りで器用に回した。ハルが俺を庇うように前に出る。


「一時的に使い魔を弱らせる魔道具か何か……。彼は参謀室直轄の特殊部隊の構成員……平たく言えば暗殺者といったところ」


「おやおやー。ここ二日間色々と駆けずり回っていると思ったら、やはり正体を掴まれていましたかー。侮るなかれですー」


「暗殺者……どうして?ハルが呪文を唱えれば、ロアが執行することになっているはずじゃ……!?」


「おや、まあー……ミスト様は終始、部外者の立場を貫かれると思っていたのですがー。事情はある程度理解されているのですねー。うふふ……。――それだと不充分だと判断されたのですよー。ロア君があなた方新陽の雷霆の保険だったように、私は政府の保険なのですー。情に絆されて最後の一振りがままならなかったときのためのー……現にこの場にロア君の姿はない。職務怠慢もいいところですねー」


 ハルは軽く鼻息を鳴らして応えた。


「残念ながらロアの追跡を振り切って()()()()()のは私個人の意思よ!ロアに責任を被せることはできない!」


 魔法によって、あちこち燻ったローブが脱ぎ捨てられた。待ってましたとばかりに、シークが顔に剣を近づける。


「あははー私はどちらかと言えば、茶番が好きな方ですからねー。まあ話には乗ってあげますよー。そうそう、私の部下達を見かけませんでしたか?ミスト様を追わせていたのですけれどー?」


「あら、もしかしてあの不審な輩達のことかしら?それなら町外れの草むらで眠ってもらってるけど……?放火でも起こされたら騎士の名が廃りますからね」


「……んふっ……んふふふふっ!……んふふふふふふふ~っ!!ああ!――疼く……っ!いいっ!いいですよっー!流石、私が見込んだ推し騎士ぃ……最愛の人ですーっ!今、私の身体中の細胞が喜んでイますーっ!」


「あなたなら絶対に乗ってくると思った……どう?私のファンなのなら、今からでも部下を連れて王都へお帰りいただけないかしら?」


 シークの目が不気味に笑った。


「それはそれはご冗談を……このまたとない機会、逃す訳には……いきませんよーっ!」


 二人の影が一斉に消え、俺の周囲で金属同士がぶつかり合う音が響いた。超高速で戦いが繰り広げられているようだ。激しい音がしたところほど、火の粉やら稲光が沢山見える。それらはその都度、漆黒の闇を照らした。肝心の二人の姿は、残像という形で俺の前に現れる。


「貴方の閃光と私の稲妻、どちらが対人最強の名に相応しいか興味はありませんかー?」


 シークのケラケラとした声がドップラー効果によって、波打つように耳に届く。地面は斬撃によって削れ、けたたましい音と共に道端の木が倒された。


「何がファンだょ!何が最愛の人だょ!剣で切りかかるなんて、てんで真逆のことをゃってるじゃねぇーか!?」


「んふふふっ!わかっていませんねー……」


 俺はその声が自身の肘の辺りから聞こえたため、戦慄を覚えた。小脇に抱えられながらヤジを飛ばしたイルーの目と鼻の先でシークが呟いたのだ。


「私は一番になりたいんですー。推し騎士の一番にー!これはそのために必要なことなんですよー?言わば、通過儀礼ですー!そして私はハル様にとっての唯一無二、永遠となるのですー」


「ばばば……馬鹿言ぇ!相手の嫌がることをして、一番になんてなれる訳ねぇだろっ!?馬鹿も休み休み言ぇってんだ!」


 イルーの隣にあるシークの顔めがけてハルの剣先が迫るが、斬られたのは残像だけであった。


「そうですねー。頭の凝り固まったお魚さんのためにお話ししましょうー――その人の一番好きな人になるには一つ一つ順を追って、時間をかけて地道な関係の構築が必要ですー。他人、知人、友人、恋人と段階を踏まなければなりませんー。しかも努力の結果、結局恋が実らなかったなんてこともありますー。つまり時の運なのですー」


 シークは離れた場所で講釈を垂れた。随分余裕がある。対してハルは、俺達の前で肩で大きく息をしていた。大分疲れているのではないか?

 ハルが再び跳躍をして姿を消す。続けてシークも姿を消したが、その不気味な口上は尚も止まらなかった。


「――では、どうすればいいのでしょうー?一心にその人のために努力を重ねたとして、“ごめんなさい、タイプじゃないの”と断られたら諦めるしかないのでしょうかー?いいえ、確実に一番になれる方法があるじゃないですかー?簡単ですー。その人の一番()()()()になれば良いのですー。邪魔をしてー、妨害してー、行く手を阻んでー、大切なものをー、希望をー、未来を踏みにじればー、自ずと一番になれるではないですかー!――好きも嫌いも紙一重♪人は好きな人と同じぐらい……いいえ、時としてそれ以上に嫌いな人のことを考えてしまう。そういう生き物なのですー」


 地面を長い電光が走った。光の終着地点には、鍔迫り合いのまま膠着する二人が現れる。


「貴方の弱点は持久力です。高速、高火力で押し切られずに体力を削り続ければっ――!」


 シークの周囲に数十という雷電の筋が出現し、シークの剣に向けて集約された。明滅が繰り返された後、爆音と共に凄まじい爆発が起こる。


「ハル様は何が嫌いですかー?どのようなことが嫌いですかー?誰が嫌いですかー?私のことが――嫌いですかー?」


 空を漂う煙を辿る。すると丸まるハルの背中へと行き着いた。直撃は免れたようだ。しかしその姿からは予断を許さない緊張が伝わってきた。


「ぉぃ……ハルのゃつ、ャバくねぇか?かなり圧されてるぜぇ……」


 爆煙が風に流される中、尚も衝突は続けられた。シークの剣は雷を纏って光を発している。まるでビームサーベルのような軌跡がハル目掛けて乱舞した。ハルは猛追をただ必死に防いでいる。防戦一方だ。


「んふふー。縛り上げて時間をかけて嬲ってあげますー。安心してくださいー。ミスト様も一緒ですー。直ぐに貴方の後を追わせてあげますよー。――んふっ。貴方は最期の瞬間どんな顔をするのでしょうかー?ちゃんと私への恐怖と憎悪で心をいっぱいにしてくれるでしょうかー?……いいえ、そうしてもらわなければなりません!ならないのです!!……私の存在で満たされた貴方を殺して、初めて永遠は手に入る―……他の誰でもない――貴方の心を私だけが占領した状態。んふっ……肉体からの解放によって、貴方の中の私と、私の中の貴方は永遠に生き続けるっ!!んふっ、んふっ!んふふふふふふっ!」

ご愛読ありがとうございます!

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評価ポイントとして入るようです!!


そして評価ポイントが高いほどランキングに入って

皆さんに読んでいただけるということで――


どうかブックマークと★評価よろしくお願いします!!!


2022/05/17 8:13 読みやすいよう加筆修正しました。

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