そして自分にできるコト Part4
ほう、それは有り難い。慣れないことをしたせいか、とても空腹である。再び厨房へ戻ると、皆先程と寸分違わぬ様子である。恐る恐る昼休憩を取ると告げた。
「……」
コウテンが鍋とフライパンの蓋を取ったのが音でわかった。その横に広い体格からは想像できない繊細な手付きで、ささっと料理が皿に盛りつけられた。流石に手慣れている。コウテンの手から放れたリゾットとスープの皿は厨房の雑然としたテーブルの上に置かれた。実に美味しそうである。
あっと言う間にそれらを完食した俺達の前に湯飲みが置かれ、温かいお茶が注がれた。
「ぬ゛ぁ」
コウテンが指差したのはあの地下への扉である。俺とイルーは地下へ続く階段に腰掛けた。
「はぁ……。落ち着くなぁ……」
建物の中。それも地下室であるにもかかわらず、晴天の下の木漏れ日に包まれているような気分である。
「蔦とか苔が光ってるみたいだな?」
「そぅだなぁ……。幻灯虫のランタンがそこら中にあるみてぇに明るぃょなぁ」
「……」
「……」
「はっ!マズいっ、このままでは寝てしまう!!イルーもど――」
「ぐがぁー。すぴぃー」
イルーとホールに戻ると、そこはすでに戦場と化していた。
「あっ!ミスト君、注文取って!二番さん、八番さん、三番さんね!」
「はい!」
そこから怒濤の客の入りが始まり、俺は齷齪動き回った。休みなく働き続けて、時間はあっという間に過ぎた。そろそろ空の色が変わってもいい時分、やっと息を整えることができた。
「だからぁ!猫人への排斥運動を強めるべきなんだって!」
「規制の強化か?うーん」
忙しく動き回らなくてよくなった俺達の耳に、猫人というワードが飛び込んできた。来店してから随分経つ二人だが、どうやら片方が事業主らしい。その事業がが失敗してしまいそうだと話していることがわかっていた。まだ外が明るいというのに随分出来上がっている。
「もっと抜本的な対策だ!税率を高めるとか、資産を没収するとか!」
――「なんか、無茶苦茶言ってますね……」
――「今口に運んでる料理を猫人が作ったって知ったら、どんな顔するのかねぇ?」
「くっそっ!あいつら身内だけで経済回して、面白おかしく暮らしてやがるんだ!ちょっとぐらい俺らに仕事を回してくれてもいいだろうに……」
「お前の事業拡大の見通しが甘かったんじゃないのか?」
「いんや!そんなことないね。計画書も見ずに俺の顔見て“帰ってくれ”だぜ!?散々営業重ねて、やっとアポ取ったのによ~」
――「ふん。徹頭徹尾、自分の都合ばかりじゃないか。そりゃあ相手方の猫人も嫌がるだろうよ」
――「やっぱり他の猫人もコウテンさんみたいな感じなんですか?なんか、ビンテンさんを見ているとイメージが違っていて」
――「あはは!ビンテンさんは特別!あんなに喋る猫人はあの人以外この世にいないよっ!」
「……実際世界中の資産家の内、相当数が猫人だって言われてるしな。だからこそ、政財界はその利権を手放せずにいるんだが……」
「第一、あいつら生きる歳月が違うんだぞ!?気色悪い!それで散々俺達から巻き上げた金を好き放題にしてやがる!」
「猫人は持たざる者としての生を選び、人は魔法の代償に寿命を捧げた――か」
「寿命を捧げたからこそ、魔物に屈しない今の安定した社会があるんだ!俺達を優先させてもらって何が悪いんだ!」
――「なんか聞いてるこっちがムカムカしてきたよ。ちょっとぶん殴ってこようか?」
――「まあまあ……」
――「コウテンさんを見てごらんよ。金儲けの頭なんか持ち合わせちゃいない。一日中フライパン握ってるだけの猫人だよ?ただ料理を作るのが好きってだけさ。それの何が悪いっていうんだい?」
――「そうですね。他の猫人も儲け話に無頓着なのだとしたら、猫人を取り巻いている人間側の問題な気がしますね……」
――「そうそう!私はそれが言いたかった!……ミスト君、よくよく見ると結構イケメンだね?」
――「はぁ?」
「あ、そうそう。こんな話もある。猫人がすべからく無口な理由だ」
「あ?人間と関わりたくないからだろ?」
「うーん少し違う。……猫人は口の中を見られたくないんだ」
「なんで?」
「実は猫人の好物は……人間だ。夜な夜な人をさらっては、屋敷でそれを味わうらしい。皮を剥ぎ、肉を削ぎ、骨までしゃぶり尽くすそうだ……だから、その口の中は人間の血で真っ赤に染まっているんだ……」
「……だーはっはっはっはっ!それ本気で言ってんのか!?」
「いや、本当なんだって!」
――「あーくだらない。聞いて損したよ!」
「開かれた市場を~!透明な経済活動を~!」
そんな調子で散々酔っ払った二人が店を出た後、ナッポスが戻ってきた。俺は手招きされて厨房まで来ていた。
「いやぁ、今日は助かったよ。えーなんて言ったっけ?タクト君……?」
「ミストです……事務処理は済んだのですか?」
「もうバッチリ!これで休んでる子が来るまで持ちこたえられそうだよ」
そう言うとナッポスは小さな包み紙をコウテンに手渡した。コウテンはその包み紙を握りしめて俺の側まで寄ってきて――
「ぬ゛ぁ」
とだけ言った。コウテンは俺にその包み紙を手渡してくる。そのリレーは必要なのだろうか……?俺の手にズシリと重みがかかった。
「え……?ちょっと多くないですか?」
包み紙の外からでも結構な額が包まれているのがわかる。昨日の荷運びのバイトとは比較にならない程だ。
「トリー君も働いてくれたから、その分も入れてあるよ。あとは僕がやるから今日はもう平気。お疲れ様」
「……俺の名はイルーな?」
「えーっ!?今日だけなのかい!?そんな勿体ない!明日からも来なよ!」
ネデヘリカに挨拶に行くと大袈裟に後ろ髪を引かれてしまった。そうは言ってもな……。俺は決して本分を忘れているわけではない。俺は勇者であり、落とし子である。
「――でしたら!……今日閉店まで働かせてもらってもいいでしょうか!?」
『ええっ!?』
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