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そして自分にできるコト Part3

 男はバーカウンターの隣にある扉の鍵を開けた。振り向いて俺と目を合わせると、中に入っていった。後を追うと直角に曲がったところに、もう一枚鍵付きのドアが構えていた。男と一緒に部屋に入ると、そこはひっそりとした厨房であった。男はおもむろに、床から生えた可動式の取っ手に指をかけて持ち上げた。四角形に縁取られた蓋が開かれ、床下からは地下に続く階段が現れた。


「ここ、届出上は食糧倉庫なんだけどね。皆さーん、そろそろ時間ですよー」


 男が口元に手を当てて、地下にいるだろう何か達に号令をかけた。まるでバスの添乗員である。覗いてごらんよと言うので、頭を開口に突っ込んでみる。俺の目にはビンテンと同じ猫人が、四人仲良く寝っ転がってくつろぐ様子が映った。


「皆さん猫人……ですか?」


 俺は頭を戻してわかり切ったことを聞いてみた。いや、もし違ったら失礼じゃないか。


「そうだよ。因みに一番大きくて奥で仏頂面してるのが、オーナーシェフのコウテンさん」


「へ……?あなたが店長さんじゃないんですか?」


「僕はバイトだよ、バイト。申し遅れたね。僕はナッポス。バイト同士よろしく」


 なんだ。気を遣って損したぞ。地下の様子を見ると、猫人達はいっこうに動く気配がない。

 そこは地下にもかかわらず、植物の生い茂る不思議な空間だった。カーペットも敷かれているが、同じぐらい緑の芝が広がる。柱やインテリアとして置かれた丸太には蔦が絡まり苔が付いているが、じめじめとした感じはしない。そして日の光が届いているかのように明るい。どこかエルアヘシア森林を思い起こさせた。

 猫人達はそこが安住の地だと言わんばかりに根を生やしている。ナッポスが独り言をぼやきながらフライパンとお玉を持ってきた。ガンガンガン!と始業のベルが鳴らされて、猫人達はやっと階段を上がってきたのだった。


「ひっ!……」


 猫人達は上がってきてはイルーをじっと見て涎をすする。イルーはそのたびに情けない声を上げた。


「ぉぃミストぉ~早く厨房(ここ)から出ちまぉぅぜぇ……」


「本日こちらで働かせていただきたく存じます。ミストと申します」


 俺は最後に上がってきた大きな大きな猫人、コウテンに頭を下げた。


「ぬ゛ぁ」


 コウテンは短くそれだけ声を発してから他の猫人と同様、割烹着に着替えて支度を始めた。


「よし。じゃあオープンだ」


「ぷはぁ……()は生きた心地がしなかったぜぃ」


 ナッポスは店の看板を切り替えて、入口の戸を片側だけ開けっ放しにした。


「あの……私働いて大丈夫なんですよね?」


「いいんじゃないの?コウテンさん嫌がってなかったし」


「はあ……?」


「猫人ってほら、一般的に変わってるでしょ?よく言えば職人気質?悪く言えば協調性ゼロ?人の好き嫌いも激しいの。ビンテンさんが見込んだとおり、君は合格だったみたいよ……いらっしゃいませーお好きな席へどうぞー――注文取ってきて」


「は、はい」


 俺は最初の客である二人組から注文を受けた。ドリンクはバーカウンターで準備できるが、料理のオーダーはどうやって厨房に届けるのだろう?俺は書字板をナッポスに見せながら尋ねた。


「すみません。私この国の文字が書けなくて……」


「あー大丈夫。ここに穴空いてるでしょ?ここに普通の声で伝えればいいから。猫人って耳が良いからさ。鐘が鳴ったらそっちの扉開いてね」


 バーカウンター内の壁には、丸い穴とイルー専用かと思われるくらいの小窓があった。厨房に繋がっているのだろう。注文を伝えて数分後に鐘が鳴る。引き戸を開けると、皿に載った出来立ての料理がそこにあった。厨房側にも引き戸があるため、猫人達の様子を伺い知ることはできない。

 その二人組を皮切りに、酒場は朝食を求める人で溢れた。俺は料理の名前と出てくる料理が一致せず、何度かミスをしながらも何とか客を捌いていった。頭の上にはイルーが常に乗っているのだが、意外や意外。センスがいいのか、イルーの言うとおりに次の手を踏めばことが上手く運んだ。

 やっと店が落ち着いたのは三時間ほど経った頃だった。


「いやー助かった、助かった。やっぱり二人でやると早いね」


「まさか、いつもは一人で捌いてるんですか?」


「はは、実はね。もう一人朝と夜どっちも来てくれる子がいるんだけど、今病気で休んでるんだよ。前から勤めてた人もこの間辞めちゃったし。オーナーの好き嫌いのせいで、人をあれやこれやと雇うことができないからさ……お陰で僕はいつもてんてこ舞い」


「それは難儀ですね」


「それでミスト君にお願い!」


 そう言うとナッポスは、小銭のたくさん入ったウエストポーチのベルトを俺の腰に巻き始めた。


「これから店空けるから、あとお願いね!」


「えっ!?ちょと……!」


「すまないね。オーナーあんな人――っていうか猫人?だから、店の維持に必要なこと殆どやらないんだよね。銀行に衛生局に襲庁衛兵部に商会ギルド……色々事務処理が溜まっちゃって――さ!」


 ナッポスは背後からベルトの紐をギュッと締めた。


「昼前には夜の子が来るからよろしくね。あ、美人さんだから腰抜かさないようにね」


 そう告げるとカウンターの扉から奥に引っ込んでしまった。少しして正面入り口にリュックを背負って現れたと思いきや、「頑張ってね」とだけ告げて去っていってしまった。


「ゃれゃれ、入って一日目の奴に金の管理させるとはょ……なんて店だ」


「まったくだな……」


 それから二、三組やってきた客を上手く捌いて、時間は過ぎていった。俺はテーブルから下げた皿をまとめて入れたカゴを持ち上げた。そのまま厨房の流しへ向かう最中、厨房からその女の声が聞こえた。


「美味しかったよ、ありがとう」


 ドタドタという足音に続いて扉が開いた。厨房から出てきたのは、髪を頭の横で束ねた中年女性だった。


「おや?おやおや?」


「あの……」


 女は俺の手元のカゴをチラッと見ると、扉を押さえながら道を譲った。俺はカゴを流しまで持って行って言う。


「洗い物、ここに置いときますねー」


「……」


 無反応だ。猫人達は各々包丁を研いだり、食材の下拵えをしたりしている。


「へえ!珍しいね。ボスに気に入られてるなんて!」


 女は腕を組みながら感心している様子だ。俺は扉で待ちかまえる女の元へ戻った。


「気に入られてる感触は全くもってありませんが……私はミスト、こっちはイルーと言います。私のモフモフ専用機です」


「何でやねん!ょろしく」


「ぷっ!……あんた達なーんか、変わってるね!私はネデヘリカだよ。ミストとイルーだね!イルーはあれかい?見たところ……精霊かなんかかい?」


 俺達はホールに戻ってきた。相変わらずテーブル席で話し込む二人の客がいるだけだ。


「はぁ、自分でもわからねぇんだゎ。まぁそんなもんだと思ってくれぇ」


「そうかい。構いやしないさ。それでナッポス君は?」


「事務処理がどうとかで、銀行やら襲庁やらに出かけました」


「あーなるほど。そういえばそんなこと言ってたっけ……。お疲れ様。それじゃあお昼にしておいでよ」


 ネデヘリカは俺からウエストポーチを奪い取ると厨房へ向かうように促した。


「聞いてないかい?賄いが出るからさ。行ってきなよ」

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