そして自分にできるコト Part2
「まさか迎ぇに来てくれたのかょ!?でも残念だったな!ミストはポカには乗れねぇんだぜぇ!?」
「なんでイルーがドヤってんだよ!?自慢にならないし!」
「ぬぁ?違うよー。僕は私用でね。ちょっと、言えないんだけどぬぇ……」
「あ!そぉぃぇば、ビンテンょ。どっかいぃ働き口知らねぇか?ミストが入り用らしくてょ。日雇ぃの仕事探してんだ」
「ちょっと!イルー。いきなり失礼だろ?ビンテンさん急いでるみたいだし」
「あるよ」
「ええっ!?」
そう言うとビンテンは器用に鞄を机代わりに使って一筆認めた。
「君達ぬぁらいいと思う。これを“長者の生まれ変わり”の人に渡してよ。一昨日の酒場、覚えてるよぬぇ?」
その紙には“僕のお墨付きの二人だよ。厨房へどうぞ。ビンテンより。”と書いてある。
「呉々も失礼のないようにぬぇ!」
そう言うと、ビンテンはポカを勢い良く走らせて闇に消えていった。
「ありがとうございまーす!」
俺はビンテンが見えなくなるまで腕を振り続けた。
「なぁ?言ってみるもんだろぅ?」
「ホントだな……よし!」
俺は息の続く限り夜道を駆けた。明日はもっと稼ぐんだ。その期待と共に、明日が来て欲しくないという思いが俺の足を動かした。悪いことは考えるな。
等間隔に現れては去っていく幻灯虫の街灯が、道を照らしている。
・
・
俺が部屋を出ると隣の部屋のドアも開いた。中からは愛しの――それがうたかたの夢となり果てた――ハルが出てきた。またとないタイミングだ……気まずさの。昨日一日会わなかっただけなのに、雲の上の人を見るような感覚である。
ハルも俺を見てドキッとしている。俺はそそくさと歩を進めた。
「ハル、ぉはょー」
「お、おはようございます~」
「……お、おはようございます!ミ、ミスト!」
呼び止められたのは既に階段を一歩下りた時であった。
「あ、あの。大事な話があるの……今日は、何時頃なら都合がつきますか?」
ハルは今日か明日にでも終わらせる気なのだろう。何を隠そう今日が、ハルが予言した“十日後”なのだから。
「すみません。これから働きにでるのですが……恥ずかしながら勤務内容すらわかっていない状況で。いつ休憩時間になることやら……お昼とか?」
「ごめんなさい。昼は私の都合が……夕方頃は……?」
「多分、無理ですね……」
「……」
「……」
「そしたら、夜ホテルで待っていてください。仕事が終わったら、その……いの一番に戻ってきますから――」
「……そう……」
「はい。逃げも隠れもしませんよ。それでは、行ってきます――あ、この服折角だからお借りしますね」
「じゃなっ!」
俺はハルに買ってもらったよそ行き服の、胸の辺りを摘まむのを止めた。階段を下りていると、上から足音が聞こえてくる。気にせず脚を動かしていると――
「――い゛でっ!!!」
「ロアのバカっ!!サイテー!」
――ロアの悲鳴とハルの罵声が聞こえてきた。ロアが何かやらかしたか?振り向こうとした矢先、首に痛みを感じた。
「でゅくし!」
そのまま体の向きを変えると、チョップの構えを見せるセイカが階段の途中に立っていた。
「ぉっはょーセイカ!」
「おっはよーイルー!」
「おはようございます。今日も元気ですね……」
「どこ行くんだ?」
「ちょっと野暮用です」
「バイトだょ、バイト。ビンテンの紹介で酒場に勤めに行くんだぜぇ」
そのまま一階まで行き、ホテルの正面から往来へと出る。セイカがイルーと話しながら、しつこく付いて来た。俺の横を素早く通り過ぎたかと思えば、身に纏ったローブを華麗に靡かせて目の前に立ちはだかった。
「どーだ!魔法使いみたいで格好いいだろ!?」
それはフードの着いた丈の長いローブだった。ロアが悪天候のときに背嚢から引っ張り出して着用するものに似ている。セイカはその場でシュッシュッとパンチやキックの素振りを始めた。
「そ、そうですね……。買ってもらったんですか?」
「ふふん♪ミストは欲しいものとかないのか?」
欲しいものか……スマホにテレビ、パソコンがあればな……なにかゲーム機でもいいや。
「……ないですね」
「無欲だな!あ、でもそしたらどうして働きに出るんだ?」
「うーん欲しいものというか……物欲を満たすのが目的じゃないんですよね、私が働くのは。……わかりますか?」
「わからん!」
自信満々だな!
「ミストも、欲しいと思ったらちゃんと口に出して言わないとダメだぞ!?あたしは素直に口に出したから、これを手に入れたんだ!」
時たま大人びた台詞を吐くが、こういうところは子供だな。俺はポンとセイカの頭をひと叩きして酒場に向かった。
「いいか!思ってるだけじゃダメなんだからな!口に出して言うんだぞー!じゃあなー!…………ふぅ……ホントにわかってんのかよ……」
酒場“長者の生まれ変わり”には人っ子一人いないようだった。正面も裏口も堅く閉ざされていて人の気配がない。どうやら早く来すぎたようだ。そこらの地べたに座っているのも居心地が悪く、イルーと雑談で狭い路地を賑やかしていると男が現れた。
「どちらさん?」
「ミストと申します。本日貴店で働かせていただきたく存じます」
「こりゃご丁寧に……」
その口元にちょび髭を生やした男は、眼鏡を上にずらして渡された紹介状に目を通した。
「君、二、三日前に店に来てたでしょ?」
「はい、ビンテンさんと一緒でした」
「あの青いのはどうしたの?ほら、魚みたいな……」
物陰に隠れていたイルーが顔を出した。
「彼はイルー、私のモフモフ専用機です」
「何でゃねん!……ょろしくぅ」
「いいよ。入ってよ」
男は裏口の鍵を開けると俺達を手招きした。カーテンが払われた窓から、薄暗い店内を照らしていく。カチャカチャとカウンターの中を弄くった男は、俺を座らせたテーブルに気泡が立つグラスを置いた。
「ありがとうございます」
「開店準備しちゃうから、待っててよ」
俺は立ち上がりながら声を発した。
「あの、店長。私も何か手伝います」
「――どうして僕が店長だと思ったの?」
「どうしてって……?違うんですか?」
「はっはっは。君、何も聞かされてないの?そりゃあたまげるだろうなぁ。はっはっは」
男は手際よく掃除を続けた。俺は男がモップをかけ終わったところから、逆さになってテーブルに乗る椅子を降ろしていっては、拭き掃除をした。男が店外で出入り口のマットをバタバタと叩いた後だった。
「そろそろかな」
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