そして自分にできるコト Part1
「ぁぁ、“イルーと行く、発掘グルメ目白押し!食い倒れ旅行”――も今日はぉ預けかぁ……はぁ」
「そんな企画やってたのか……」
「魔法使いの雇用は管轄の自治組織によって厳しく管理されてるんだ。公共事業にしても、民間事業にしてもな。じゃないと市場経済が破綻しちまうからな……無償のボランティアなら別だが……」
「それじゃあ意味がないんです。私は自分の力でお金を稼ぎたいので」
「丁度波の襲来があったばかりだ。正直、魔法使い向けの仕事はうんとある。ミストが落とし子じゃなけりゃあな」
「ははは……笑えるー」
「はぁ……。俺が紹介できるのは、誰でもできるような肉体労働の仕事だけだぞ?それでもいいのか?」
「構いません」
「じゃあ行くか」
珍しく朝ばっちり目を覚ましていたロアとは、とんとん拍子に話が進んだ。俺達は朝早くから町の西側にある簡易的な砦にやってきた。波を待ち構えるための施設で、波を退けた今は解体作業が進んでいる。
「――ってなわけで、こいつを一日だけ雇ってくれないか?」
「そりゃあ、騎士様の頼みとあっちゃあ断るわけにはいきませんけど……どっから流れてきたんですかい?」
「すまん!そういうの一切なしで頼むわ!」
「かなり訳アリですね……」
「不束者ですが、よろしくお願いします!」
俺は精一杯頭を下げた。
「まぁ若くてイキが良さそうから、有り難いっちゃあ有り難いですけどね」
中身はもっと年食ってるけどな……。
「ありがとうございます!」
「んじゃあ、こっち来て。みんなに紹介するから」
「あ、ミスト。さっきも言ったとおり、魔法はナシだぜ?バレたら俺やハルまで大事になっちまうからな」
「はい。承知しています」
「イルーもやたら目ったら彷徨くんじゃないぞ?使い魔なんて、そんじょそこらにいるようなものじゃないんだからな!」
「あー、わーぁってるょ!その辺に隠れとけばぃぃんだろ!?」
ロアは俺達に釘を差すと、踵を返す素振りを見せた。
「もう帰ってしまうんですか?」
「あ……んーなんだかなぁ……ハルにも呼び出されてるんだよ……」
「ハルさんが……」
ロアは珍しく戸惑いの表情を浮かべた。もしかしたら、ロアにもハルがどんな用件なのか見当がついていないのかもしれない。
「ホント、ミストもハルも世話が焼けるぜ。じゃな!ガンバレよ!」
そうして俺は作業員の面々と顔を合わせて、荷物の運搬員という単純労働者となった。仕事自体は一切頭を使わない。ただ解体材を片っ端から馬車に積むだけである。すぐに体が悲鳴を上げるかと思ったがそうでもない。流石魔王を討伐した勇者なだけあって、基礎体力は十分にあるのだろう。連日作業に取り組む周りの面々と比べても、引けを取らない働きではないだろうか。それと一時だが、逢魔石に鍛えられたのかもしれない。
「――おい!食い物もってこい!」
「はぁ?いったい何の騒ぎだよ?」
「いいから!なんか知らないけど、ひどく親切なやつがいるんだよ!?あいつがいる内に沢山仕事をしてもらおう!」
一時現場が慌ただしくなったが、我関せずにいこう。ロアの言いつけ通り、なるべく目立たないようにしなければならないのだから。
責任者から昼休憩が言い渡される。俺はイルーとの待ち合わせ場所に急いだ。小高い崖の上だ。俺は周囲を警戒してから《人間ロケット》で飛び立った。イルーは木の根本で休んでいた。
「お待たせ。お昼にしようか」
「ぁ、俺今はいぃゃ……ぅぇっぷ」
「えっ!?……ああ、そう」
どこかで食べられる木の実でも見つけたのだろうか?俺は不思議に思いながらも、少しだけイルーの分に手を着けた。
「ふぅ。なーんか、久しぶりに働いてるって感じがするよ」
「そぅなのか?俺からしたら、新陽の雷霆と別れて此の方ずっと働ぃてる気分だぜぇ?」
「うーん……確かに。でもなんか違うんだよなぁ。イルーの言うそれは成り行きで仕方なくしてる感じ?俺の今のこれは、やりたくてやってる感じだ」
「ふーん。違ぅもんかねぇ?……ぅぇっぷ」
「違うよ……仕事が楽しいんだから」
イルーが起き上がった。体を曲げて器用に木の根に腰掛けた。
「……そぅぃやハルのやつ、酷ぃ顔してたんだょなぁ……目を真っ赤にしてょぉ」
「う゛わああああああっ!」
「ぅぁっ!どぅしたんだょ!?」
「シちゃえばよかったのかぁー!!やっぱりスるのが正解だったのかぁー!!あ゛あああああっ!」
「ぅぉぃ……落ち着けょ……なんかぁったのかょ……?誰もミストを責めちゃぃねぇんだが……?」
「ねぇよっ!!正真正銘、何もなかったんだよっ!!ああああああああっ!」
正直に言うと、俺はハルの申し出を断ったことを既に百回は後悔している。恥をかかせてしまっただろうし、おめかししたハルは最高に可愛かったし、二度とチャンスは巡ってこないだろうし……。ああ、この意気地なしの甲斐性なしの根性なしめ!
「――俺、そんなハルを見てられなくてょ。何もしてゃれなぃままここまで来ちまったんだ……自分が情けねぇぜ」
「はぁ……。使い魔だろ?なーに人間みたいな悩み抱えてんだよっ」
「ぅぐ……」
「イルーはいつも通り、ハルの話し相手になってあげればいいんだよ。友達みたいにさ」
「トモダチ……友達か!いぃなっ!それ!」
「昨日なんか俺、空気だったからな!?二人ばっかり楽しんでさ!」
「わはは!ちゃんと見せ場があったじゃねぇか!絶叫椅子で!」
「ゲロってただけな!?」
しばらく二人でゲラゲラ笑った後、俺だけ仕事場に戻った。仕事は午前までと同様、単純作業だ。偉そうな先輩に檄を飛ばされている作業員がいた。彼らにシバンとペキタの姿が重なる。今頃元気にしているだろうか。これと言って何もないまま、どんどん黄昏は夜の帳へと変わっていった。
「お待たせー。今日は助かったよ。やっぱり一人でも多い方が捗るよね。少ないけど今日の分ね」
その封筒を手渡されたのは、夜も大分経った頃だった。お疲れ様ーと、最後まで残っていた一団が帰った後のことだ。きっとその日のルーチンの最後になったのだろう。飛び込みで仕事させてもらった身だ。文句は言えまい。
俺は丁寧にお礼を言って帰路についた。大通りに出て馬車を拾おうかというところで、封筒を逆さにして中を確かめる。出てきた額に少し衝撃を受けた。
「……うは、これだけかぁ~……」
「安宿一泊分ってとこだな……」
「馬車はやめとこ」
「歩くのかょ!?はぁ……そこまでして買ぃたぃ物ってなんなんだょ~」
俯きながら、とぼとぼ歩く俺の側にポカが止まった。
「ぬぁれ?何してんぬぉ?こんぬぁところで」
その独特な声のお陰で、顔を見ずとも名前を呼ぶことができた。
「ビンテンさん!?どうして?」
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