心とカラダ Part2
目的の氷菓子に到着した頃にはお昼を少しすぎていた。そこには幾つもの出店が軒を連ねていたので、それぞれ好きなものを頼んでは持ち寄って食卓を囲んだ。
さてほぼメインディッシュの食後のデザートである。人気店と言うだけあって、氷菓子店には少しの行列ができていた。どうやら数個作る毎に時間を要するらしい。俺達は暇があれば互いの幼少時代の話をして時間を潰した。好きだった食べ物、よく行った遊び場、仲の良かった友達、どんな遊びをしたか――あっという間に時は過ぎて、氷菓子は俺達の口に運ばれた。
「くぅ~」
感激だった。それがあまりにソフトクリームの味だったからだ。ハルとイルーも思うところがあったのか――まあ、単に美味しかったからだろうが――感無量の表情を浮かべながら完食した。
「少し休みましょう」
園の入り口に戻る道すがら、ハルに声を掛けた。
「え?あーですが、後の予定が……」
「ヒールに慣れてないんですから、無理しない方がいいですよ」
「……っ。そんなことありませんっ。そりゃあ、最近は戦い続きで久しぶりに履きましたけど……」
「そこのベンチにでも座っててください。飲み物買ってきますから」
「……でしたら」
「……?」
「あれ……乗ってみませんか?」
ハルの指差す先には、高い塔と盆踊りのとき使うような櫓が二棟建っていた。たった今、塔の先から背もたれ付きの長椅子が落とされたところだ。恐ろしいことにその椅子からは、「きゃー」という悲鳴が聞こえてくる。徐々に速度を上げて落下していく椅子には、人が二人座っているではないか。長椅子は地面すれすれのところで弧を描いて、また浮き上がった。長椅子の左右には太い縄が取り付けられている。その縄は二棟の櫓へそれぞれ取り付けられていた。
それは言うなれば、バカでかいブランコだ。嫌な予感しかしない……!
「いや……安全設計どうなってんだよ……」
「ぃざとなったら、俺が魔法で助けてゃるょぉ」
「そうですよー。皆乗ってますし、何事も挑戦です!」
「いや……普通に危なくないですか……?」
「ぃっつも《人間ロケット》でぴょんぴょん跳ねてる奴がなぁにビビってんだょ!」
「それもそうだな」
俺は気乗りしなかったが、言われてみれば《人間ロケット》でこういうのには慣れているだろう。いざとなればイルーの魔法もあるし……と思い、ハルとの思い出作りを実行に移した。
塔に登ると結構高い。櫓よりも高い位置にいる。こりゃ縄が切れたら一巻の終わりである。長椅子に座ると、係の人が体と椅子を帯でがっちがちに固定してくる。んん?ちょっと待てよ。これ魔法でなんとかなるか?俺は横にいるハルを見た。
「ハルさん、怖がってます?」
「はい?怖がってますよ?」
――余裕やん……。
いつもと変わらぬ様子のハルと同じく、心を落ち着かせよう。平常心だ。平常心。
「んぎゃああああああああああっ……ぼえっ…………あんがぁぁぁああああああああっ!……ぐえっ…………あ゛あああああああ」
長らく暴れていた長椅子の動きが止まった。そこに移動式梯子が伸ばされる。ふらつく足がいうことを聞かず、俺は地面に降り立つまでに随分な時間を要した。ああ地面があるって素晴らしい……。
「おぇ……まだ気持ち悪い……地獄だ……」
「んぷっ……すみませんっ……あ、でも……ふふふ……あはははは」
俺は青い顔をして思うのだ。昼食を公衆の面前に晒さなかっただけでも褒めてくれと――終始あっけらかんとした笑顔を崩さなかったこの人に。
「すみませんっ……はっ……いつもぴょんぴょん飛んでるのに……あはっ……ははははっ」
「……ふふ……ホント……その通りですねっ……はは」
『はははははっ……』
入り口のゲートに着く頃には、西の遠くの山々が黄色の背景を背負っていた。俺達は運河の傍らで馬車を待った。
「もう少し上ったところにある、寺院にも行きたかったんですけど……花畑がとても美しいというので」
「また今度来ましょう。明日とか明後日にでも……」
「あはは……明日ですかぁ……?疲れちゃわないかな?」
それきり俺達は話をやめてしまった。ハルの心の内はわからないが、俺は決して話題探しに疲れたわけではなかった。俺はただ、満足だった。ハルの隣で運河を横目に帰路についた。
どうやら運河から一つ先のブロックにあるレストランで夕食にするようだ。しかしまだ時間があるというので、辺りの商店を見て回ることにした。雑貨店や化粧品店、宝石店に高級ブランド店などと、いかにも女性が好みそうな場所ばかり訪れては、ハルとイルーではしゃいでいた。
予約の時間が近づいたのでレストランに入る。小さな店だが安っぽい感じはしない。異世界の食堂では珍しくテーブル毎に仕切りが立ててあり、半個室状態になっている。
「ロアとセイカは来ないんですか?」
「デートの邪魔をしたら悪いですから」
「なんか美味ぃものが出てくる雰囲気満点だなっ!」
フルコース――とまでは品数が多くなかったが、趣向を凝らした料理が順番に運ばれてきた。俺達――特にイルーがそれらを堪能した。
「うめぇー、うめぇーょぉ、俺生きてきてょかったぜぃ……」
「そんな大袈裟な……」
お酒も進んで、今日一日を振り返って笑い合った。ホテルに帰って長い階段をふざけながら上がる。皆完全に出来上がっているので、まるで大学生が二次会へ向かっているような騒ぎだ。
「私の部屋でもう少し飲んでいきませんか?」
俺の頭に疑念が浮かんだ。観光名所に美味しい食べ物――俺は大満足したわけだが、ハルはどうだろう。楽しそうだったが、支払いは全部彼女持ちである。俺はなんだか気の毒に思い、ハルの気が済むまで付き合うことに決めた。
ハルの部屋は俺達の部屋とどこか作りが違って見えた。窓辺に丸いローテーブルと二脚のソファチェア。部屋の奥の角には四角いローテーブルと壁により掛かった長めのソファ。隣には書き物ができる一組のデスク。その向かいにベッドである。
ハルはトコトコと駆けていき、床に置いてある紙袋の中に手を伸ばした。中の液体が波打つボトルが出てきて、ソファの前のローテーブルに置かれた。部屋に備え付けのグラスを引っ張り出して二次会の始まりだ。
例に漏れずイルーはあれよあれよと眠りについた。俺はハルの話半分でひたすらデスクの上のイルーの体を弄くっていた。
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